「さくら?」
「私は“さくら”ではないぞ?小僧」
“小僧”
そう呼ばれることは人生でそうそう無い
っていうかこのご時世、そんな堅苦しい言葉を使う奴はあんまりいないだろう。
ましてやそこにいるのはさくらだ。
何かの聞き間違いかと思った。
「陽菜に呼ばれたのか?」
「あのわんぱく娘にか?そんなわけがなかろう。噂を聞きつけてな。今日、ここで決闘があると」
「…そうか。悪いが今は取り込み中だ。後ろで待機しててくれるか?」
「そんななりでか?」
「ちょっとしくじっただけだ…。すぐに済む」
「強がるな。力の差は明らかだ」
うるせーな
…ってか、さくら?
お前、なんか様子が変じゃ…
「竹刀を貸せ。私が手本を見せてやる」
「は?」
「案ずるな。さくらの身は私が保証しよう。それに、コイツは討伐対象だ。どこで私の存在を嗅ぎつけたのかは知らんが」
竹刀を貸せ?
…正気か?
お前が相手できるような奴じゃないぞ?
そもそも…
「もう私のことを忘れたのか?」
その言葉が脳裏に突き刺さる。
変だとは思ってたんだ。
明らかにさくらの様子がおかしい。
だけど、整理が追いつかない…
その違和感の「正体」を、すぐに明らかにはできなかった。
試合の途中だ。
それがずっと、頭から離れずにいて
「あの後さくらに怒られてな。口も聞いてくれないんだ。だからこうして仕方なく手伝ってやることにした」
「さくらに…怒られた…?」
「言っておくが、あの時のことをまだ許したわけではないぞ?」
「へ…?」
「お前が私よりも強かったなら、少しは考えてやらなくもないが」
…な
…もしかして、あんたは…ッ
以前どこかで感じたことのある気配。
そうだ。
思い出した。
思い出したというか、…まさか、また…?
思わず目を見開いた。
目の前にいるのは間違いなくさくらだ。
だけど違う。
見た目は彼女と同じでも、彼女じゃないことがわかった。
記憶が呼び起こされていた。
あの夜、
あの時の気配。
間違いない…!
「悪魔」
“それ”をどう表現していいかわからないが、彼女があの夜に現れた悪魔であることに違いはなかった。
翼も、尻尾も生えてない。
だけどわかるんだ。
さくらじゃないってことが
「そう身構えるな。さくらに頼まれたのだ。お前を救ってほしいと」
「救う…?」
「わからんか?お前が今相手をしていたのは“魔族”だ。姿形は人間だが、中にいるのは魔の者だ」
…魔の、者…?
言ってる意味がわからないんだが、それはつまり…
ボッ
俺たちが話してる合間を縫うように、ヤンキー野郎が突進してきた。
しかし刃は俺に向いていなかった。
向いていたのはさくらの方だ。
竹刀が彼女の頭上に降りかかる。
だけど、間に合わない…ッ
咄嗟に手を伸ばした。
ただ、距離が——
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