ヒュンッ
鞭のようにしなる剣先。
呼吸の中に伸縮する影。
捉えた。
その「感覚」に偽りはなかった。
ガラ空きだった敵の右腕に被さる軌道。
その「線」の内側に触れる確かな“感触“が、グッと手の平に滑り込んでくるのがわかった。
竹刀が届く距離は、相手の竹刀が届く距離でもある。
不用意に近づく事は、自分の体を晒してしまうことにも繋がる。
わかっていた。
相手の動き。
視線。
空間と時間の中心で揺れている互いの位置。
危険は承知だったんだ。
それを認識できていないわけじゃなかった。
問題は、——そう、踏み込めるかどうか。
そのタイミングを、誰よりも理解している自信があった。
スッ
…なっ
捉えたはずの軌道線上に、「感触」が無い。
先端はすでに届く距離にあった。
踏み込んだ足の先で、確かに届いた“鋒“があった。
見間違えるはずはなかった。
それは俺の「経験」が物語っていた。
——確かな、感覚が。
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