キュッ
敵の姿を見失うことなんてない。
色んな相手と対峙してきた身だからこそわかる、感覚。
相対する間合いの中での視野。
それがどれだけ狭くても、相手の位置は常に“内側”にある。
距離を見誤ることなんて無かった。
今までは。
…だがなんだ…?
この感覚…
敵の位置がぼやける。
輪郭が滲むというか、インクがぼんやり滲んでるような“不確かさ“
実体が霞むほどの不自然な「距離感」があった。
それが「何」かはわからなかった。
視界と認識との間を隔てている“何か”。
遠すぎるわけでも、近すぎるわけでもない。
もっと単純な質感の中に、それはあった。
地面と足が擦れるほどの近さで。
バッ
…埃?
一瞬景色がスローモーションに“千切れた”。
茫漠とする時間の奔流。
回転する視界。
足の指先は痺れていた。
痛みとかじゃなく、チリッとした質感。
ゆったりとした敵のモーションから、目まぐるしい挙動の変化が溢れ出る。
それを「目」で追うことはできなかった。
ただ、感じたんだ。
踏み出せない間合いの外側から、感じたこともない気配が逆巻いているのを。
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