通過する「左腕」。
風圧によって持ち上がる、ブーニベルゼの髪。
烈しい空気の乱れが、周囲へと伝播する。
左腕はその勢いを失っていなかった。
ブーニベルゼの顔を捉えようとしているスピードは、その間際まで続いていた。
黒い刀身が空気を切り裂く中、怪物の上半身は止まる素振りも見せなかった。
事実、拳は確かに彼女の顔を捉えていた。
数センチのところだった。
皮膚と皮膚が重なり合う点は、濁りのない平面積の表面を通過していた。
時間は常にそこにあった。
拳が接触するかしないかの繋ぎ目は、立体的な物質の臨界面に触れていた。
突風が吹いたようにはためくスカートが、押しつぶされる空気の袂を分つように揺れていた。
流れていく時間の奔流を止めるものは何もなかった。
“何も”。
確かだったのは、物質と物質の境目に、2人が“接触”していたということだった。
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