プリンセスは殺し屋

殺すぞ?
平木明日香
平木明日香

第97話

公開日時: 2024年3月29日(金) 14:18
更新日時: 2024年3月30日(土) 07:13
文字数:356


 通過する「左腕」。


 風圧によって持ち上がる、ブーニベルゼの髪。


 烈しい空気の乱れが、周囲へと伝播する。


 左腕はその勢いを失っていなかった。


 ブーニベルゼの顔を捉えようとしているスピードは、その間際まで続いていた。


 黒い刀身が空気を切り裂く中、怪物の上半身は止まる素振りも見せなかった。


 事実、拳は確かに彼女の顔を捉えていた。


 数センチのところだった。


 皮膚と皮膚が重なり合う点は、濁りのない平面積の表面を通過していた。


 時間は常にそこにあった。


 拳が接触するかしないかの繋ぎ目は、立体的な物質の臨界面に触れていた。


 突風が吹いたようにはためくスカートが、押しつぶされる空気の袂を分つように揺れていた。


 流れていく時間の奔流を止めるものは何もなかった。


 “何も”。


 確かだったのは、物質と物質の境目に、2人が“接触”していたということだった。





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