プリンセスは殺し屋

殺すぞ?
平木明日香
平木明日香

第92話

公開日時: 2024年3月24日(日) 18:55
文字数:541


 ブーニベルゼの間合いは、直線的に動く怪物の対角線上に“常に”あった。


 壁の中へと侵入してくる拳が目の前にあっても、それを迎撃できるだけの「距離」は、刀の先端に触れられるだけの体積を持っていた。


 時間は常に動いている。


 両者の距離は絶えず変化しながら、空間を押し合えるだけの“近さ”を持っている。


 互いの距離は拮抗していた。


 お互いに、攻撃の出所を認知していた。


 少なくとも刀の位置は、さっきよりもずっと近いところにあった。


 両者が交錯する“間(ま)“、その「中間」に於いて。



 「静」から「動」へ。


 攻撃への手順は、必ずこの道筋を通らなければならない。


 動から静へと転ずることはあっても、「静」を無くして、「動」を得ることはできない。


 ブーニベルゼの構え。


 それは敵を斬るために準備された、最小の“動作”であったことは言うまでもない事実だろう。


 剣士に於いて、剣の振れる間合いは、命を繋ぐための「血管」である。


 生きるか死ぬかの一線において、二つの境界を分けるのは時間の「繋がり」である言っても過言ではない。


 怪物の左腕から再び噴き上がる血。


 それはほとんど攻撃の動作と同時に起こっていた。


 再生したばかりの腕の表面から赤い鮮血が飛び散る。


 壁を壊したことに対する反動。


 ——あるいは、そう捉えることもできたかもしれない。


 

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