ブーニベルゼの間合いは、直線的に動く怪物の対角線上に“常に”あった。
壁の中へと侵入してくる拳が目の前にあっても、それを迎撃できるだけの「距離」は、刀の先端に触れられるだけの体積を持っていた。
時間は常に動いている。
両者の距離は絶えず変化しながら、空間を押し合えるだけの“近さ”を持っている。
互いの距離は拮抗していた。
お互いに、攻撃の出所を認知していた。
少なくとも刀の位置は、さっきよりもずっと近いところにあった。
両者が交錯する“間(ま)“、その「中間」に於いて。
「静」から「動」へ。
攻撃への手順は、必ずこの道筋を通らなければならない。
動から静へと転ずることはあっても、「静」を無くして、「動」を得ることはできない。
ブーニベルゼの構え。
それは敵を斬るために準備された、最小の“動作”であったことは言うまでもない事実だろう。
剣士に於いて、剣の振れる間合いは、命を繋ぐための「血管」である。
生きるか死ぬかの一線において、二つの境界を分けるのは時間の「繋がり」である言っても過言ではない。
怪物の左腕から再び噴き上がる血。
それはほとんど攻撃の動作と同時に起こっていた。
再生したばかりの腕の表面から赤い鮮血が飛び散る。
壁を壊したことに対する反動。
——あるいは、そう捉えることもできたかもしれない。
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