彼女の手が痛みのする場所でピタッと止まって、妙に温かい感覚が全身に走った。
触れた指先から込み上げてきた。
ブワッと、下から何かが浮き上がってくる。
熱?
風?
わからない…
とにかく、妙な心地よさが体全体に広がった。
力が抜けていく感覚だった。
みるみるうちに、痛みが遠ざかっていった。
「最近はちゃんと練習しているのか?」
「はい…?」
「恋愛などというくだらない俗物に手を出しているからだ。こうなったのは」
ちゃんと練習してるか、…だって?
何でそんなことを聞かれたのかわからなかった。
初対面ではないにしても、内容が内容だけに。
「練習…っていうのは?」
「「剣道」のことだ。何をそんなに驚いている?」
…そりゃ、驚くだろ。
よもや「剣道」なんていう言葉が出るとは思わなかった。
…えっと、この「悪魔」はどこまで知ってるんだ?
戸惑ったまま、ありのままの気持ちをぶつけようとした。
辻褄が合わなかったから。
「ここで話すのも何だ。一旦離れるぞ」
彼女はそう言うと、俺の肩に手を当て、フッと微笑んだ。
次の瞬間だ。
目の前が真っ暗になったのは。
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