ギュンッ
空気が焦げる匂いがする。
鼻先に届いた違和感を追う。
ヤンキー野郎は竹刀を構える素振りもなかった。
担ぐように片手で持ち、グッと地面に重心をつけていた。
竹刀を前に構えずに近づいてくるバカなんて早々いない。
これはボクシングじゃねーんだ。
攻撃への距離が短ければ短いほど、有効となる「打点」を広く見出せる。
ましてや手や足と違って竹刀は長尺ものだ。
簡単に軌道修正なんてできない。
その「理屈」をわかっていれば、構えずに近づくことがどういうことかは考えなくてもわかることだった。
それなのに…
景色が止まったような“時間の遅れ”が視界の中に揺らぐ。
意識が剥がれそうなほどの鋭い「気配」。
——それが、唐突に浮き上がった。
圧縮される空気。
小刻みに震えていく呼吸。
手が動かない。
足が動かない。
「意識」だけがそこに置いていかれるような、孤立した視界の歪みを感じた。
ヤンキー野郎が向かってくる。
そう認識した、——背後で。
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