「さすがは十二神将だなぁ!」
左腕を切り落とされた怪物は、翼を使って後ろへと後退した。
地面に転がり落ちた腕は、蒸発するようにブクブクと消えた。
左半身からは血が溢れ出ている。
後退する経路に沿って、血の跡が点々と続いていく。
たどたどしい血の形跡は、ブーニベルゼの周囲に近ければ近いほど濃く、集中していた。
どれくらいの血が流れ出たのかはわからない。
左腕が丸ごと切り取られたんだ。
大量の血が出るのも無理はなかった。
空気を掴んだ翼は、怪物の体を紐で引っ張ったようにグッと後ろへと引き込んだ。
数十mの距離が開き、その間に損傷した部位を再生させる。
切断面には著しい細胞の変質が起こっていたが、腕は無くなったままだった。
ただ、傷自体は綺麗に塞がっていた。
噴き出ていた血は収まったかに見えた。
再生を試みながら、地面に足を下ろしつつ体勢を整える。
怪物は「言葉」を発していた。
さっきまでは、獣のような低い声帯で唸り声を上げていた。
「言葉」を使えるような状態じゃなかった。
少なくとも、言語が通じるような様子じゃないことは明白だった。
地上の生物には当てはまらない、暗澹とした皮膚の質感も。
長くて太い雄々しい“尾”の躍動も。
さっきまでとは打って変わり、その「見た目」も、「形状」も、時間を追うごとに変化していく。
無骨な骨組みをした巨躯がスマートな“体型”に変化したのは、距離を取った後、——その数秒後だった。
怪物の周囲に突風が吹き、土埃が回転しながら宙を泳ぐ。
——雪?
そうだ、これは「雪」だ。
あり得ない景色が目の前に広がった。
空は暗い。
まるで、雨が降る前の空模様のようだ。
ただそれでも、雪が降るなんて思いもしなかった。
頬にピトッとぶつかる、白い氷晶。
吹き荒ぶ風が運ぶ粉状の破片。
粉雪?
いや、それよりも少しだけ重い。
それでいて粒の小さな結晶が、周囲に舞っていた。
回転する空気が、怪物を中心として湧き上がっていた。
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