プリンセスは殺し屋

殺すぞ?
平木明日香
平木明日香

モードチェンジ

第99話

公開日時: 2024年3月30日(土) 21:33
文字数:790




 「さすがは十二神将だなぁ!」



 左腕を切り落とされた怪物は、翼を使って後ろへと後退した。


 地面に転がり落ちた腕は、蒸発するようにブクブクと消えた。


 左半身からは血が溢れ出ている。


 後退する経路に沿って、血の跡が点々と続いていく。


 たどたどしい血の形跡は、ブーニベルゼの周囲に近ければ近いほど濃く、集中していた。


 どれくらいの血が流れ出たのかはわからない。


 左腕が丸ごと切り取られたんだ。


 大量の血が出るのも無理はなかった。



 空気を掴んだ翼は、怪物の体を紐で引っ張ったようにグッと後ろへと引き込んだ。


 数十mの距離が開き、その間に損傷した部位を再生させる。


 切断面には著しい細胞の変質が起こっていたが、腕は無くなったままだった。


 ただ、傷自体は綺麗に塞がっていた。


 噴き出ていた血は収まったかに見えた。


 再生を試みながら、地面に足を下ろしつつ体勢を整える。


 怪物は「言葉」を発していた。


 さっきまでは、獣のような低い声帯で唸り声を上げていた。


 「言葉」を使えるような状態じゃなかった。


 少なくとも、言語が通じるような様子じゃないことは明白だった。


 地上の生物には当てはまらない、暗澹とした皮膚の質感も。


 長くて太い雄々しい“尾”の躍動も。



 さっきまでとは打って変わり、その「見た目」も、「形状」も、時間を追うごとに変化していく。


 無骨な骨組みをした巨躯がスマートな“体型”に変化したのは、距離を取った後、——その数秒後だった。


 怪物の周囲に突風が吹き、土埃が回転しながら宙を泳ぐ。


 ——雪?


 そうだ、これは「雪」だ。


 あり得ない景色が目の前に広がった。


 空は暗い。


 まるで、雨が降る前の空模様のようだ。


 ただそれでも、雪が降るなんて思いもしなかった。


 頬にピトッとぶつかる、白い氷晶。


 吹き荒ぶ風が運ぶ粉状の破片。



 粉雪?



 いや、それよりも少しだけ重い。


 それでいて粒の小さな結晶が、周囲に舞っていた。


 回転する空気が、怪物を中心として湧き上がっていた。




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