ヒュンッ
風切り音が耳に掠めて、対角線上には2つの影。
滞空時間はあった。
それは目前で起こる出来事の中で、確かな「時間」として存在していた。
怪物が広げた翼は、空間を飛ぶというよりもむしろ“蹴った”。
その中心点には、空気の流れを変えるほどの確かな「痕跡」があった。
振り翳す腕。
その巨腕(かいな)が、寸分の狂いもなく振り下ろされる。
空気はひしゃげていた。
互いの息遣いは、絶えず「現在」の中間に連続していた。
そこに息を“吐く”動作はなかった。
常に“止まっていた”。
そう錯覚せざるを得ないほど、圧縮された時間。
ドンッ
ブーニベルゼは刀を後ろに引いている。
怪物の二の腕がぶつかるその接触面には、見えない「壁」が。
さっきと同じだった。
体育館で見た時と同じ。
バチッ
という音が電撃のように走って、スパークが体の表面を覆う。
血管のように浮き上がり、破裂する。
膨張するエネルギーが彼女の間合いの内側にあった。
半径2mにも満たない距離だ。
下半身の重心を少し「下」にずらした。
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