「さて、立ち遅れるなよ」
ブーニベルゼは息を吐く。
その挙動は穏やかだった。
姿は変わっていなかった。
さくらのまま。
「制服姿」のままだ。
スカートは揺らいでいた。
その立ち振る舞いは凛としていた。
艶のあるストレートの髪が、フワッと重力に逆らい。
バッ
怪物は翼を広げた。
ビリビリと響く声量が、重い質感の中になびいていた。
尻尾が地面を叩く。
前傾姿勢になりながら、鋭い牙を剥き出しにする。
太い二の腕の先で、スマートとは程遠い無骨な輪郭が、ボコボコと皮膚の表層を覆っていた。
尖った爪。
滴る粗い息遣い。
ブーニベルゼは身構える素振りを見せない。
怪物の巨躯が目の前にあって尚、落ち着いている。
彼女の背中越しに見える景色は、この世のものとは思えなかった。
ただただ、恐ろしかった。
空は灰色に沈み、空気は青白く澱んでいた。
耳の奥がキーンとした。
それくらい、“濁って”いた。
「何もかも」が、だ。
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