プリンセスは殺し屋

殺すぞ?
平木明日香
平木明日香

第78話

公開日時: 2024年3月3日(日) 17:36
文字数:701



 「グオオオオオオオッ」



 大地が、揺れている。


 押しつぶされそうなくらいでかい声量は、吹き荒ぶ風のように蠢いていた。


 太く逞しい尻尾が、翼の下でバタついている。


 翼が動くたびに空気が震えた。


 直視できないほどのオーラが、熱波となって襲ってきた。



 「…クッ」



 肌が灼けつくようだ。


 目の中が乾く。


 喉も。


 肺の奥も。


 動いてないはずなのに息苦しい。


 …というか、動けない?


 体を思うように動かせなかった。


 体全体が鉛をつけたように重かった。

 

 この空間に来てからだ。


 さっきまで、俺はビルの屋上にいたはずだった。


 それなのに…



 「ここは、事象の境界線だ。小僧。貴様は、世界一の“剣士”になりたいと言ったな」



 怪物を目の前にしながら、悪魔は俺の方を見る。


 ブーニベルゼ。


 そうだ。


 それが“彼女”の名前だ。


 彼女はさくらの姿のまま、俺に言った。



 『世界一の剣士』



 この場面。


 この状況。


 言葉の意味は単純すぎるほどに明快だった。


 それでいて聞き慣れていた。


 自分の部屋の壁にも掲げている「言葉」だ。


 わからないわけじゃなかった。


 その言葉を、何度も反芻してきた俺にとっては。



 「ここから先は、“まだなにも存在していない”」



 彼女はそう言う。


 ゲッコー!


 と、俺の横にいたモフモフを呼び、右手を持ち上げる。


 開いた掌。


 その中心に向かって、モフモフはその体を変形させた。



 ギュルルルル



 体を回転させ、ある一点に縮みながら丸まっていく。


 ピンポン玉のような大きさに縮まった後、その“球体”が、開いた掌の上で止まった。


 


 パキッ




 球体がひしゃげたように潰れ、ひび割れる。


 割れた裂け目から勢いのままに飛び出してきた黒い“液体“。


 それは炎のように逆巻きながら、混濁した輪郭とその表層を膨らませた。


 そして——




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