「グオオオオオオオッ」
大地が、揺れている。
押しつぶされそうなくらいでかい声量は、吹き荒ぶ風のように蠢いていた。
太く逞しい尻尾が、翼の下でバタついている。
翼が動くたびに空気が震えた。
直視できないほどのオーラが、熱波となって襲ってきた。
「…クッ」
肌が灼けつくようだ。
目の中が乾く。
喉も。
肺の奥も。
動いてないはずなのに息苦しい。
…というか、動けない?
体を思うように動かせなかった。
体全体が鉛をつけたように重かった。
この空間に来てからだ。
さっきまで、俺はビルの屋上にいたはずだった。
それなのに…
「ここは、事象の境界線だ。小僧。貴様は、世界一の“剣士”になりたいと言ったな」
怪物を目の前にしながら、悪魔は俺の方を見る。
ブーニベルゼ。
そうだ。
それが“彼女”の名前だ。
彼女はさくらの姿のまま、俺に言った。
『世界一の剣士』
この場面。
この状況。
言葉の意味は単純すぎるほどに明快だった。
それでいて聞き慣れていた。
自分の部屋の壁にも掲げている「言葉」だ。
わからないわけじゃなかった。
その言葉を、何度も反芻してきた俺にとっては。
「ここから先は、“まだなにも存在していない”」
彼女はそう言う。
ゲッコー!
と、俺の横にいたモフモフを呼び、右手を持ち上げる。
開いた掌。
その中心に向かって、モフモフはその体を変形させた。
ギュルルルル
体を回転させ、ある一点に縮みながら丸まっていく。
ピンポン玉のような大きさに縮まった後、その“球体”が、開いた掌の上で止まった。
パキッ
球体がひしゃげたように潰れ、ひび割れる。
割れた裂け目から勢いのままに飛び出してきた黒い“液体“。
それは炎のように逆巻きながら、混濁した輪郭とその表層を膨らませた。
そして——
読み終わったら、ポイントを付けましょう!