祐輔の家には、昔よく遊びに来ていた。
庭にあるブランコと、広い敷地。
裏庭から入れる森に入って、カブトムシを採りに行ったりしてた。
夏休みに。
「母さん、無事に帰ってきたぞ」
おじさんは家に着くなり、荷物をテーブルの上に置いて、裸足で茶の間の奥に行く。
祐輔も来いと言われ、靴を脱いだ。
畳が敷かれた居間を抜け、襖を開ける。
網戸から涼しい風が入ってきていた。
レース状のカーテンがゆらゆらして、中庭の木陰がこっそりと顔を覗かせている。
木の匂いがする。
それは昔からだ。
山の裾野から降りてくる森の匂いが、鼻の先をくすぐる。
窓の向こうに見えるガードレール越しの田園風景が、長閑な空気を運んでいて。
「ほら、ボケッとしてないで」
おじさんに促され、畳の上に座った。
線香の煙が、ふわりと漂う。
カーネーションの花と、うすしお味のポテトチップス。
「母さんがきっと守ってくれたんだ。お前のこと、天国で心配してたと思うぞ」
おばさんの顔を見るのは何年ぶりだろう。
なんだか、ずいぶん昔のことのように思えた。
靴を脱いで上がった先で、こうして、手を合わせたのは。
「すまんな。うちのオヤジ、昔から信心深くて」
「別に、気にしないけど」
「…?なんか言ったか?」
「ああ!いや、なんでもッ」
祐輔のお母さんは、私が小学生の時に亡くなった。
突然だった。
訃報が届いたのは。
当時のことはよく覚えてる。
実の母親のように、私はおばさんのことを慕ってた。
程よい塩味のおにぎり。
ジャガイモがゴロゴロしてたカレー。
畑で野菜を作って、一緒にとうもろこしを植えたこともあった。
毎年夏になると、私とおばさんで植えたプチトマトの苗が、よく育ってた。
祐輔がトマト嫌いだったから、なんとか食べさせようと、2人で画策して。
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