サマーバケーション

その世界に、空はなかった
平木明日香
平木明日香

第44話

公開日時: 2023年9月18日(月) 18:58
文字数:704


 祐輔の説明によると、どうやら先輩のおばあちゃんが今年の春に倒れたみたいで、今年の夏休みに実家に帰って、少しでも元気付けたいという話になったらしい。


 それでなんで祐輔に声がかかったかっていうと、祐輔のことを、おばあちゃんが知っていたから。


 “知っている”というか、たまたま見かけただけだった。


 先輩のテニスの試合があった日に、千葉までわざわざ応援に来ていた。


 その日にたまたま、隣の球場で野球の試合をしていた。


 祐輔のことを、その時に発見したみたいだった。


 一年生なのにマウンドに上がって、チームを引っ張っている姿を見て、ファンになっちゃったっぽい。



 …うん、ざっくり聞いた感じだとなんのこっちゃって感じだが、先輩に「あの野球部の子は?」って尋ねたことが、事の発端になったみたいだった。


 『彼氏役になってほしい』という話の。



 「なんでそんなことに?」


 「おばあちゃんが体調悪いんだって」


 「うん…」


 「元気付けたいんだって」


 「元気付ける…?」


 「ほら、九州と千葉だろ?お互い遠い場所に住んでるから、電話でしかやり取りができないっていうか」


 「うん」


 「いっつも心配してるみたいでさ?学校生活は順調だって、直接伝えたいみたいなんだ」


 「なるほど…」


 「だから、俺が抜擢されたの。婆ちゃん、前々から孫の彼氏が見たいなぁって言ってたらしく」



 なんでそんな大事なことを先に言わないんだよ!!


 バッカじゃないの?!


 そうと言ってくれれば、普通に引き受けたのに…



 「そうなん?」


 「当たり前でしょ!なんで黙ってたのよ!」



 先輩の元に戻り、改めて事情を聞かせてもらった。


 心臓の疾患で体調を崩したおばあちゃんに、挨拶に行く。


 楽しい学校生活を送ってる。


 そういう「話」だった。



 

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