私が同僚の家に行くとリビングに大きめの段ボールが置かれていた。それについて尋ねると彼は「あぁ、その段ボールかい??とある人物から送られてきてねぇ…長い話なんだがそれを受け取った経緯を話させてくれるかい??」と言うので私は興味を惹かれ、彼の話を聞くことになった。
あれは僕が10歳のころ…今から20年前の話になる。僕の実家はね、かなりのド田舎で裏山が有ってね。そこで夏とかはカブトムシを捕りに行ったりしてね。そんな時に彼らと逢ったんだ。私はカブトムシ捕りに夢中になるあまり、普段通ることのない川沿いに出ちゃってね。さすがに怖くなったんで帰ろうとしてたら不思議な音が聞こえてきたんだよ。まるで物のこすれる様な音でシャッシャッて音で僕はそれが気になって音のする方向に向かったんだ。そしたらびっくりしたよ。僕と同い年くらいの男の子5人がざるを揺らして楽しそうにしてるんだ。それで僕が気になって彼等に近づくと僕に気が付き、驚いた顔をして一目散に逃げようとしたんだ、僕は大きな声で「待って!!」って言うとみんな、ぴたりと動きを止めて恐ろしそうな顔でこちらを見てきた。僕はニッコリと笑って「驚かせてごめんね、何してたの?」と無邪気に聞くと彼らはおずおずとこちらに近づき、警戒した声で「お、俺等は小豆洗いっていう妖怪の子供だ、お前は人間か?」と聞いてきたから僕は首を縦に振り、「小豆洗いって妖怪の本に書いてあった!」と言うと小豆洗いはくすくすと笑いだした。「おめぇ面白れぇ人間だな!俺等の姿を見て逃げねぇなんて!!」確かにその小豆洗い達はよく見ると確かに普通の人間とは違った。と言うのも、顔には不思議な模様がある上に、頭には一本の短い角が生えてたんだ。でも僕は不思議と怖く感じなかったし、むしろこの子たちと遊びたいなと思ったんだ。田舎だったから、学校に通ってる同年代も少なかったし、友達も中々出来なかったからかもしれないね。とにかく僕は「怖くないよ!」と答えると小豆洗いは嬉しそうに笑い、僕に質問を投げてきた。「お前たち人間はオンガクっていう文化があるんだよね?」僕は「うん!僕の学校でも音楽の授業があるよ!」と答えると「いいなぁ。俺たちも音楽やってみてぇー。俺達、小豆洗いは小豆を洗うのが仕事なんだけどよぉ、この小豆を洗う音がすげぇいいだろ?それで俺たちはいつか、人間の世界で言うオンガクグループ??って言うのに成ってみてぇんだよなぁ…」と言うので僕は目を輝かせて「小豆で音楽をやるの!?楽しそぉ!」と言うと小豆洗い達は僕を取り囲み声を上げた。「お前、よく分かってるじゃん!!お前は俺達オンガクグループのファン?の一人にしてやるよ!」と言ってキャッキャッと楽しそうにはしゃいでいた。僕はその日から彼等と友達になって、毎日、裏山に遊びに行った。ある日は彼等の音楽を聴いて、良いところと悪いところを言い合ったり、またある日はオーディオプレイヤーを持っていき人間界で著名なアーティストの音楽を聴いたり。音楽の授業で配られた楽譜を彼等に見せて、音楽を練習した日も有った。そんな日が永遠に続くと思っていた。でもそれから数か月後に僕は東京に家族で引っ越すことになったんだ。僕はたくさん泣いた。学校が変わるのなんてどうでも良かった。彼等ともう会えないと思うと涙が止まらなかった。僕はいつもの様に裏山に登った。いつもの所で待っていた小豆洗い達は凄く驚いた顔をして僕を取り囲んだ。僕が泣きながら事情を話すと、小豆洗い達も悲しそうな顔をしていたが、しばらくすると僕の背中を叩き、ニッコリと笑っていた。「こんなに良い人間がいるなんて俺等知らなかった!俺等の為に涙を流してくれるなんて!俺等妖怪は恩は必ず返すんだ!お前に教えて貰った人間界のオンガク、俺等に色んな夢をくれた!お前がどこにいても必ず探し出してまた会いに行くよ!!」そう言って小豆洗い達は僕を抱きしめてくれた。僕はまた涙が溢れ出してわんわん泣いていたよ。
それから20年後の1週間前、この前の事だね。仕事休みで家でボーッとテレビを見てたら最近流行りの音楽アーティスト特集をやっててね。僕はそれを見た瞬間、飲んでたコーヒーを吹き出しちゃったよ。【AZKI】っていう小豆を洗う音で音楽を奏でる5人組アーティストが出ててね。顔には幼い頃に見た模様が有るんだ。間違いなく子どもの頃、裏山で遊んだ小豆洗いだって思ったよ。僕はテレビを茫然と見てると、家のインターホンが響いた。僕は受信機の前で「はい?」って答えると、びっくりだよ、件のAZKIの一人が映ってたんだ!僕は急いで鍵を開けて外に出ると、急に抱き着かれたんでびっくりして声が出そうになった。「久しぶりだな!!」小豆洗いの一人がそう言ってニッコリ笑った。僕は声が出せなくてその顔をじっと見ていると、彼は「恩返しをしに来たぜ!」って言って僕にさっき君が言ってた段ボールを渡されたんだ。「忙しいからゆっくり出来ないんだが、それだけは渡したかったんだ。またな!」そう言って踵を返して後にしようとしてたから僕は「ど、どうしてここが分かったの!?」って聞いたら、彼は昔見た笑顔で「必ず探し出して会いに行くって言っただろ?」って言ってあっという間に走り去ってしまったんだ。
と言う訳でその段ボールが玄関に有ったって事なんだ。うん?中身??あぁ、素敵なものだったよ。彼等のデビューアルバムのサイン入りCDとそれを埋めるくらいの凄まじい量の小豆が入っててね…
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