妖怪マンション

おでん
おでん

鵺の鳴く森

公開日時: 2021年7月6日(火) 23:01
文字数:2,086

その森の噂は俺たちの地元では有名だった。何でもその森には正体不明な生物が潜んでいると言うのだ。声もどの生物にも当てはまらない気味の悪い声で、その姿は虎のような猿のような…とにもかくにも気味の悪い話だ。で、俺を含めた3人の大学のオカルト研究会がこの夏、その森に行く事となったのだ。


「やっぱり気味の悪ぃ森だよな…」親友の幸助がそう言うともう一人の親友、奈々子も頷く。「本当に気味が悪いよね…ここって自殺の名所でもあるんでしょ??」奈々子はそう言うとブルッと身震いした。「おいおい、お前らビビりすぎだろ…」俺が呆れながらそう言うと幸助がフンッと鼻を鳴らす「信也、お前だって怖いんじゃねぇか?足震えてんぞ?」幸助はそう言って俺の足を見る。確かに俺は震えている。正直真っ暗だし、さっきからざわざわ森が騒がしいし怖い。だが、二人がいる手前、そんな事をおくびにも出せない。俺は胸を張って「武者震いだよ!」と答えた。


「良し!準備は良いな?行くぞ!!」俺たちは車を脇に止めといてそのまま森に向かって歩く。手に持ったスマートフォンのライトを使い、足元に気を付けながら歩いていく。ライトを使っても奥まで見えない森に恐ろしさが更に募っていく。幸い、道は整備されていて歩きやすい。ただ、それでもたまに前につんのめりそうになったりしていた。30分くらい歩いて、ちょうど腰掛に使えそうな石が有り、そこで休憩することにした。「本当にそんな生物いるのか??ここまで歩いてきたけど例の鳴き声なんか聞こえなかったぞ?」「確かにね、ここまで歩いても聞こえるのは鴉の鳴き声だけ…本当にいるのかなぁ??」二人はそう言った後にため息をつく。「まぁ、噂だからな…でも先輩は聞いたって言ってたし…」「それじゃあもう聞こえててもおかしくないじゃん」奈々子がそういうので俺はムッとして、奈々子に食って掛かる。「知らねぇよ!俺が聞いたわけじゃねぇんだから!!」「怒んないでよ!!」俺と奈津子が睨み合ってると急に幸助が急に手を上げる。「す、すまん、ちょっとトイレ行ってくる!!」そう言うと幸助は凄いスピードで少し離れたところに有った公衆トイレに向かっていった。俺たちはそれを見て気が抜けてしまい、二人で見つめあって思わず吹き出してしまっていた。「まぁ、とにかく噂程度で終わってもオカ研が検証した!って言えば、記事ぐらいには出来んだろ」「そうだね」そう言って奈々子が伸びをした時だ。今まで聞いたことのない不気味な声が響いた。それを聞いた瞬間、俺の体中に冷や汗と共に肌が粟立つのを感じた。「今のって…」「逃げよう!!」俺と奈々子は立ち上がり、そのまま、森をめちゃくちゃに走り回った。途中、奈々子は何度もこけそうになっていたが俺が身体を抑えてやった。「はぁはぁ…幸助は!?」「あんな状況だ!!さすがに声も聞こえただろ!?逃げてるよ!後でどこかで会えるように電話して…」そこまで言いかけると再び、例の鳴き声が響く。しかも今度はもっと近い。俺は素早く再び、奈々子を連れて逆方向に走ろうとしたとき誰かの声が俺たちを呼び止める。「君たち!!何をやっている!?」俺たちは文字通りその場で飛び跳ねながら絶叫しているとその声の主はこちらに近づいてきた。その人は70代ぐらいの男性だった。俺はこの森に来た目的と鳴き声を聞いたことを話す。男性は呆れていたが、どこかホッとした顔をしていた。「とにかく君たちが無事で良かった…本当にこの森には怪物がいるからね…」「え!?」「この森に自殺者が多いのは聞いたことが有るかね?その自殺者の死体が無残に食いつくされていたりして良く警察がこの森に入るんだがね、その警察の人も言うんだよ、虎の様な面妖な生物がいると…」俺はそこまで聞くと鳥肌が止まらなくなった。「とにかくこの森は危険だから、最近は儂みたいな警備会社の警備員が見回りをしておるんじゃ…とにかく無事でよかった…」男性がそこまで言うとまた例の鳴き声がして震えた。「さっきから近いのぉ…うん??」男性はそこまで言うと、木の幹に乱雑に放置されたCDプレイヤーを見つめ、それを持ってきた。そして再生ボタンを押すと、先ほどの鳴き声が聞こえる「な、なんだ、CDプレイヤーの音だったのか…」俺も奈々子も一気に力が抜けてその場に座り込んでしまった。だが男性は相変わらず渋い顔をしている。「どうしたのですか?」「これ、電池で動くタイプのCDプレイヤーじゃからずっと動いてたことになるのぉ…」「??ええ、そうみたいですね」「これにCDなんぞ入っておらん」次の言葉に俺は再び肌が粟立つ感覚に襲われる。「この録音ボタンがずっと押されてるまんまだったようじゃ…」


「ふぅー!すっきりしたー!!」幸助はトイレから出て清々しい顔でそう言った。「しかし、さっきの変な音何だったんだろう…?」幸助はトイレで聞いた金属音を思い出して言う。「さてさて、あいつらのところに戻るかな!」そう言ってトイレを後にする。その後ろから虎の身体に猿の頭を持つ奇妙な生物がゆっくりゆっくり近づいてるとも知らずに……

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート