綺麗な色な瞳だね

野咲 ヒカリ
野咲 ヒカリ

三十四章 真事実

公開日時: 2022年5月6日(金) 15:30
文字数:2,943

 私は、怪訝な顔をする。

「恐らく、蓮田様を殺した犯人は陽形の連中だ」

「陽形は、蓮田様を領主にしようとしていました。前に話した通り、理由がないのでは」

 この時点でも、代表の言いたいことが分からない。

「違う」

 代表はここで私から顔を逸らし、大きく息を吸う。そして、眼鏡を外して言った。

「陽形が傀儡の領主にしたかったのは、多分お前だ」

 私はしばらくその場で固まる。段々、吸い込む空気と共に、言葉の意味も頭に染みてくる。

「私を領主にするために、実就様を殺したんですか」

 怒りとか悲しみとか、色んな感情がどれも同じくらい強く出てきて、もうよく分からない。分らないけど、涙が溢れて止まらない。

 私は両手で顔を覆う。

「三上家の人間を絶滅させ、確実にお前を領主にするつもりだったんだと思う」

 代表は静かに言い放つ。

「どこで、百合様の娘だと。私ですら知らなかったのに」

 しゃくりをあげながら聞く私に、優は黙って肩を抱く。

「百合様の子かどうかまで分かっていたかは微妙だが、実就様はお前をずっと見守っていたはずだ。でなければ、丁度よく父親を亡くしたお前の前に現れるのは無理だ。おまけにお前の目の色は、実就様と同じ。その二つを知っていれば、大体予想はつくだろう。そんなに近しい人間といえば、側近の誰かだろうな。陽形に能力者の情報が漏れていたのも、そこからだろう」

「代表は、最初から勘づいて?」

 私は頬を拭いながら、顔を上げる。

 私は、代表に実就様との出会いを喋ったことはない。しかし代表も、その予想がつく二つの要件を知っていた。

「まあな。目の色が同じやつなんてこの世にごまんといるが、実就様の溺愛ぶりは見ていて違和感があった」

 代表はチラリと私の目を横目で見た。

「話を戻すが、これで軍の動きは制限された」

 眼鏡をかけ直す代表。

「遠くへ逃亡しようとすれば、必ず関所を通る必要がある。もしここで関所警備の軍がお前を逃せば、職務違反で即刻軍の人間を逮捕できる。下っ端兵士が単独でそんなことする訳ないんだから、上層部までかなりの数が摘発されるな」

「じゃあ、あっちは隊長と結婚する気ないってことですかね。だって普通、領主のお嫁さんにしようとしてる人を、犯罪者にしないですもんね」

 旗ノ柄が腕を組んで、口を山形にする。

「いや、する気だと思う」

「でも、いくら三上家の人間だからって、お咎めなしってのは」

 私は目を赤くしながら、旗ノ柄に言う。

「恐らく土井にとって、本当に私が犯人かどうかは重要じゃない。だから捕まった後は誰かを適当に犯人に仕立て上げて、私は無罪だったって物語を考えてそう」

「じゃあ、なんで今なんだ。まだ牡丹は提案を拒否したわけじゃないのに」

 今度は、優が疑問を呈する。

「追い詰めるため、かな。もう逃げられないから投降しろと」

 私は代表の方を見ると、「そんなところだろうな」と見解一致を表明した。

「こっちが即決で話に乗らないのを予測して、夕刊に記事を載せる用意を済ませていたってことですね。保険をかけていたわけだ」

 優が苦い顔をする。

「こちらが不利益を被る筋書きが完璧すぎる。誰かの意図がなければ、ここまで四方固めはできない。だがやはり、土井にそこまでの手腕があるとは思えない」

 代表が不可解そうに片眉を上げる。

「え? じゃあ誰が?」

 旗ノ柄がそう言うと、代表は腕を組む。

「俺は、陽形と手を組んでいる可能性が高いと思う」

 代わりに代表が口を開くと、「ええ!」と旗ノ柄が声をあげる。

「なぜですか。土井は領主になりたい、陽形は私を領主にさせたい。利害が一致してませんが」

 私は首を傾げる。

「だが城へ行った時、兵は小銃を持ってた。この国では希少な火器を扱っている時点でおかしい。やつらの支持層は一般国民だぞ」

「しかも全員持ってた。十人くらいいました」

 旗ノ柄がはっとした顔をする。

「創と同じく、その数の銃と人材は、陽形から流れてきた物だと?」

 私の問いに、代表は頷く。

「それこそ蓮田様の時と同じように、土井を利用するだけ利用して、ポイ捨てする気かもな」

「亀住製薬は、どこまで知ってて援助してるんですかね?」

 旗ノ柄が質問する。

「さあな」

「亀住製薬って?」

 私は二人の会話についていけずに、聞く。

「土井に資金援助している会社です。『犯罪の金を使ってるんじゃないか』って代表が鎌をかけたら、土井があっさり白状しました」

 最初は、どっちが本当の事言ってるのかと思いましたよ。と言う旗ノ柄に、代表が補足する。

「軍でも、実際に金が定期的に渡されているのを確認していた。土井と現二代目社長の亀住 はじめは、父親同士が同郷の友人だったようだ」

 なるほど。その交友関係が子供の代でも続いている、と。

「亀住製薬は、中小の製薬会社らしい。俺も詳しい内情は知らない。お前達は何か知ってるか?」

 私と優は揃って首を横に振る。それを受けて代表は、少し落胆した声色で「そうか」と言った。

「亀住製薬が、陽形と関係しているかどうかは今のところ分からない。だが陽形は、休戦協定があるから大胆に動くことはしないはず。亀住製薬を隠れ蓑にしている可能性は考えられる」

 代表は腕を組んだ。



 その夜。みんなが二階の作戦室で、机に突っ伏したり壁に寄りかかったりして寝心地悪く眠りに入った後。

「ごめん優。あの話だけど、やっぱり乗れない」

 休憩室の窓辺に立った私は、俯きながら告げる。

「そう言うと思ったよ」

 優が静かに答える。

 カーテン越しに柔らかい月明かりが、私達を照らす。

「本当にそれでいいのか。罪悪感だけで務まる役とは、思えない」

「でも、やらないと」

 自分に言い聞かせるように、ボソっと呟いた。

「牡丹のせいじゃない。全部陽形のせいだ」

 優は優しく言葉をかける。

「でも。でもあの反乱で実就様は死に、能力を使いすぎた百舌野も死んだ。国民を巻き込み怒りを買い、そして実正様も」

 私は歯を噛み締めて、ぐっと自分を抱く。

「それなのに、私だけのうのうと生きていていいはずない」

 優の語った話は、今はもうただの御伽噺。夢だ。

「領主になることが、贖罪か?」

 優は私の元へ歩み寄る。真面目な優の顔に月の光が降り注いで、青白く光る。

「罪滅ぼしになるのかは分からない。けど少なくとも、逃げることは許されないと思うの」

「どうする気だ」

「分からない」

 私はカーテンで向こうが見えない窓の方へ、目をやる。その様子を見て、優は心配そうに言う。

「陽形は、お前が領主になることを目論んでる。ここで領主になれば、思う壺なんじゃないか」

「そんなことない。もう陽形の間者が政府関係者に紛れ込んでるのは、分かってる。私が領主になったら、真っ先にその炙り出しをすればいいだけ」

「でも政権確立に失敗すれば、土井のペットだ」

「別にいいわ。それが私の運命ならば」

 今更自分の身の心配なんて、するわけない。私の空虚な目に、月明かりが入り込む。

 突然、優が乱雑に私の肩を掴み、自分の方へ体が向けさせる。

「ちょっと」

 私は驚いて自分の胸に手を当てる。しかし優はそんなことお構いなしに、鼻に皺を入れた顔を私に近づける。

「オレは嫌だ」

 鋭い、でも悲哀に満ちた深い茶色の目が、私を捉えて離さない。

「逃げよう、牡丹。望まれている土井が領主になった方がいいのかもって、言ってただろう」

 私は唇を強く噛んで、目を逸らした。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート