放心して座り込む者や安心から泣いて抱き合う者、死体にびびって店から飛び出す者。店内がてんやわんやしている中、方針を話し合う。
「実正様は早く安全な所へ避難したほうが良いかと。状況も掴めてないですし」
「牡丹の迎えのために馬で来たし、オレが乗せて行く」
私が発言すると、優が申し出る。
「どこに。こいつらが動き出したってことは、城はもう攻め込まれてるかもしれないぞ」
百舌野が腕を組んで聞いてくるので、私は答える。
「軍本部は? さすがに城を攻めながら、本部を抑えるほどの兵力はないでしょ」
「追加情報では、創の兵の数は千。でも陽形から最新鋭の武器が流れたようだから、兵力は高いかもね」
実正様が口を開く。
なるほど。それで全員が銃なんか持ってたのか。
「じゃあ、本部も囲まれてる可能性がある」
百舌野が悪い目つきをさらに悪くして、私を睨む。それを受けて、ならお前も案を出せと少しイラつく。
「だったら、うちの基地は?」
優が私を見て言う。
「それいいかも」
「ダメだろ」
私は賛成するが、百舌野は反対する。
「お前たち花水木は、平和派の中でもオレに次ぐ脅威だ。能力を使われたらいくら三人ぽっちとはいえ逆転負けもありうる、とバカな開戦派は考えてるはずだ。そしたら、そっちも抑えられてるかもしれない」
さらっと自慢入れたよ、こいつ。と私と優は、嫌悪を通り越して引く。
「じゃあ、雷芯城でどうかな」
実正様が提案する。
「ここからちょっと遠いけど、笹見副隊長の馬に乗っていけば、なんとか日が暮れる前に着くかも」
「危険です。雷芯城は、撤退時の拠点として作られた城なので、目をつけられている可能性があります」
百舌野がまた反対している。
「でも、赤実城と軍本部以外に兵を回す余裕なんてないと思うな。それに仮に目をつけるなら、ここから近いもう一つの撤退用の拠点、沈水城だと思う」
「しかし、実就様も雷芯城へ退避なさっているのでしたら、創はそれを追いかけて城まで来ます」
「その時はその時だ。状況が全く分からないから、ある程度のリスクは許容しないと話が進まない」
微笑みながら、百舌野を説得する実正様。
「今がチャンスだ。僕を殺しに来たやつらは作戦に失敗したと伝えずに死んだから、仲間たちは今まさに作戦実行中だと思ってる。この隙に交葉から出るんだ」
確かに。百舌野も反論できなくなったところで、私は優に目配せする。
優は近くの馬繋場から飛丸を連れてきて実正様を乗せ、雷芯城へと駆けて行った。
「オレは軍本部へ行って、現状報告する。お前も来い」
上から目線で命令する百舌野に、私はため息を吐く。
店を出て、少しずつ歩く百舌野に合わせて本部に向かう。
「創がいたらどうする?」
「何とかして入る」
無理でしょ。私は呆れる。その様子に、百舌野はむっとして言ってくる。
「早く雷芯城へ護衛を送らないと、実正様が危険だ」
みんな中へ篭ったのか、誰ともすれ違わない道を私達は黙って歩く。
「お前、今まで親元を離れて暮らしたことあるか」
突然、百舌野が前を見ながら聞いてくる。
「意図が読めないんだけど」
私は不意を突かれて、困惑する。
「他意はない」
それ以上語らない百舌野に、私は怪しみながらも「あるけど」と答える。しかし百舌野は
「そうか」
とだけ返し何も説明しなかったので、私は早々に諦めて追求しなかった。
それから少しして、時間はかかったがそれほど距離がなかったので、百舌野が疲弊する前に本部の前まで来られた。
「曹長!」
門番に立っていた兵士が百舌野に気づき、駆け寄ってくる。私は足元へ視線をやる。
「大丈夫だ。それより創は? ここには来ていないのか?」
兵士たちが百舌野の足の怪我に気づくと、百舌野は先にそう伝えて質問する。
いい意味で予想を裏切り、辺りに白マントの姿は見えない。
「はい。ですが赤実城は襲撃に会い、現在実就様を捕らえて立て篭っています」
それを聞いて、私は顔を歪める。予想はついていたけど実際に聞くと、悔しさや不安の感情が倍増する。百舌野も歯を食いしばる。
「花水木の代表もいらっしゃってますよ」
すると兵士の一人が私に告げるので、目は合わせずに頷く。
百舌野について学舎のような造りの中へ入ると、大勢の兵士たちが慌ただしく走り回っていた。
「おい、花水木の隊長だ。代表の元へ案内してやってくれ」
百舌野は適当に兵士を捕まえて命じる。
「オレは、指揮官を見つけて報告してくる。うちで変なことすんなよ」
百舌野はよく分からない釘を刺して、人波に消えていった。
私は兵士の誘導に従って、人を縫うように廊下を進む。そして、ある会議室に通された。
「隊長!」
席から立ち上がって、旗ノ柄がほっとしたような表情で私を見る。
「無事だったか、和歌山」
代表は相変わらず怖い顔をしているが、ちょっと眼差しが優しいような気がした。
「あれ、帯刀してるの?」
私はふと旗ノ柄の腰に刀が挿さっているのに気づく。
「まだ師匠から許可は出てないんですけど、緊急事態なんで基地の備品持ってきました」
旗ノ柄が頭を掻きながら説明し終えると、代表が聞いてくる。
「笹見とは会ってないか」
「会いました」
私は旗ノ柄の手招きに応じて隣に座り、事の顛末を話す。
「副隊長も無事みたいで安心しました。でも、実正様まで狙われてるんですね」
旗ノ柄は眉を顰める。
「実就様を殺して領主の座を奪っても、実正様が生き残っていれば三上家を支持する者と政権を取り返そうと動く可能性が高い。確実に安定して政権を握り続けるためだな」
代表は冷静なまま解説した。
「俺たちは、実就様を取り戻す作戦のために呼ばれた。城は防衛戦に特化した造りになっているから、攻め落とすのが困難だ。そこで、お前たち能力者の出番というわけだ。もうすぐ軍の人間が来る」
代表がそう言った時、ノックの音がして会議室のドアが開いた。
「初めまして。桃谷 琴少将です」
左胸に大量のバッジをつけている、お年を召した女性が入ってきた。白髪混じりのおかっぱで、一切の妥協を許さないという厳しい雰囲気を醸し出している。
「初めまして桃谷少将」
代表がジャケットのボタンを留めながら立ち上がるので、私たちもそれに合わせて立ち上がった。
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