入道雲新聞
玄磨三十九年 十二月 七日
『続く食糧難 耐え切れない国民抗議』
反乱が収まり元の生活が始まるかと思えたが、不作の影響で国民達は苦しんでいる。買い占めが起き、市場に残っている僅かな食糧は超高額で売られている。
そんな国民の様子に、立ち上がるべきだと呼びかけているのは、土井 謙さん。土井さんは取材に対し「政府は、自分達の権力争いに国民を巻き込み、挙句備蓄を燃やした。誰も我々を助けてくれない。我々は自ら立ち上がり、戦わなければならない。さもなくば、破滅の道を行くだろう」と回答しました。
一方領主の実正様は、「現在他国と食糧取引の交渉中なので、必要以上の買い込みはしないで欲しい」と呼びかけた。
土井に関しては多くの文字数を割いているが、実正様についてはたった二行。贔屓があからさまだ。
私は渋い顔をしながら今日の朝刊から顔を上げ、横目で廊下の窓から外を見下ろす。
「我々を見捨てる政府はいらない! 我々を見捨てる政府はいらない!」
門の前に押し寄せている国民達が、声を上げている。その光景は蓮田様が率いていた時と同じだが、今回の方が数が多い。目の色も明らかに違う。
「まずいどころの話じゃないぞ」
聞き慣れた声がして正面を向くと、相変わらず怖い顔をした諸星代表が立っていた。
「お久しぶりです」
私は思わず口角が上がる。
「お前も大変な事になったな。眠れてるか、という前に食えてるか」
「はい。三上家が手に入れた食糧を、私達も分けてもらってます。悪い気しかしませんが」
私が窓の外を見ながら言うと、代表も鋭い眼差しを外へ向ける。
「私は問題ないですけど、実正様や側近達はかなり疲弊しています」
「実正様がいつまで耐え切れるか、時間の問題だな。対策はどうなってる?」
私は朝刊の一面を見せる。
「これにある通りです。あとは買い占めた国民へ、他の者に供給するよう促しています。代表はここへ何をしに?」
「仕事だ。うちも財団として貯蔵していた食糧を、本当に手に入らなくて困っている民に渡している。しかし、政府とも連携しなければ、本当に必要とされる救済はできない」
花水木が活動停止になった後、代表は古巣の布地財団へ戻った。
「国民を安心させなければ、食糧をいくら輸入しても値段の上昇は抑えられない。値段が上昇したままだと、国民はまだ安心できないと買い続ける。この悪循環を止めないと、キリがないぞ」
私はちょっと笑いながら、こくこくと頷く。
「なんだ」
代表が怪訝な顔をする。
「いえ。代表がいるなら、安心です。実正様も心強く感じると思います」
私がそう答えると、代表は怖い顔のまま言う。
「もう代表じゃない。早く新しい職場に慣れろ」
私は少し俯いて、「はい」と返事をした。
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