綺麗な色な瞳だね

野咲 ヒカリ
野咲 ヒカリ

二十四章 暗雲

公開日時: 2022年4月26日(火) 15:30
文字数:1,105

 入道雲新聞

 玄磨三十九年 十二月 七日

『続く食糧難 耐え切れない国民抗議』

 反乱が収まり元の生活が始まるかと思えたが、不作の影響で国民達は苦しんでいる。買い占めが起き、市場に残っている僅かな食糧は超高額で売られている。

 そんな国民の様子に、立ち上がるべきだと呼びかけているのは、土井 謙さん。土井さんは取材に対し「政府は、自分達の権力争いに国民を巻き込み、挙句備蓄を燃やした。誰も我々を助けてくれない。我々は自ら立ち上がり、戦わなければならない。さもなくば、破滅の道を行くだろう」と回答しました。

 一方領主の実正様は、「現在他国と食糧取引の交渉中なので、必要以上の買い込みはしないで欲しい」と呼びかけた。


 土井に関しては多くの文字数を割いているが、実正様についてはたった二行。贔屓があからさまだ。

 私は渋い顔をしながら今日の朝刊から顔を上げ、横目で廊下の窓から外を見下ろす。

「我々を見捨てる政府はいらない! 我々を見捨てる政府はいらない!」

 門の前に押し寄せている国民達が、声を上げている。その光景は蓮田様が率いていた時と同じだが、今回の方が数が多い。目の色も明らかに違う。

「まずいどころの話じゃないぞ」

 聞き慣れた声がして正面を向くと、相変わらず怖い顔をした諸星代表が立っていた。

「お久しぶりです」

 私は思わず口角が上がる。

「お前も大変な事になったな。眠れてるか、という前に食えてるか」

「はい。三上家が手に入れた食糧を、私達も分けてもらってます。悪い気しかしませんが」

 私が窓の外を見ながら言うと、代表も鋭い眼差しを外へ向ける。

「私は問題ないですけど、実正様や側近達はかなり疲弊しています」

「実正様がいつまで耐え切れるか、時間の問題だな。対策はどうなってる?」

 私は朝刊の一面を見せる。

「これにある通りです。あとは買い占めた国民へ、他の者に供給するよう促しています。代表はここへ何をしに?」

「仕事だ。うちも財団として貯蔵していた食糧を、本当に手に入らなくて困っている民に渡している。しかし、政府とも連携しなければ、本当に必要とされる救済はできない」

 花水木が活動停止になった後、代表は古巣の布地財団へ戻った。

「国民を安心させなければ、食糧をいくら輸入しても値段の上昇は抑えられない。値段が上昇したままだと、国民はまだ安心できないと買い続ける。この悪循環を止めないと、キリがないぞ」

 私はちょっと笑いながら、こくこくと頷く。

「なんだ」

 代表が怪訝な顔をする。

「いえ。代表がいるなら、安心です。実正様も心強く感じると思います」

 私がそう答えると、代表は怖い顔のまま言う。

「もう代表じゃない。早く新しい職場に慣れろ」

 私は少し俯いて、「はい」と返事をした。

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