傾いてきた陽が長い影を作る。
「代表の諸星数彦です」
「隊長の和歌山と、隊員の旗ノ柄です」
旗ノ柄が代わりに挨拶をしてくれた。
「時間がありません、早速始めましょう」
桃谷少将に促され、私たちは着席する。
「先程、創が声明を出しました。明日、実就様を公開処刑するそうです」
少将はあっさりと告げた。
旗ノ柄は思わず「えっ」と声を出し、私は大きく息を吸い込んで焦る気持ちを抑えようとする。
「我々軍は政権が実就様の元にある限り、創を反逆者と見なし戦います。明日の処刑は絶対に阻止しなければなりません」
一方、代表は普通に話についていく。
「もちろん、花水木も同じ立場です。しかし逆に言えば、創に表立って対抗できるのは、政権を奪われるまでです」
「分かっています」
軍は政府に付随している組織で、花水木は政府に従う民間団体。お互いタイムリミットは近い。
「そのための作戦立案にあたって、計画の要となるであろう花水木からも話を聞きたいのです」
代表が頷く。
「処刑場は赤実城の前にある、大きな広場です。処刑場までの道中で襲うことができない上に、後ろを取れないので奇襲が難しいのです。正面からの攻めでは、相手に気づかれてしまいます。気づかれた瞬間、敵は実就様を逃すくらいならと即刻首をはねるでしょう」
話を聞く限りでは、相当にこちらが不利だ。私は顎を摘み、代表は眉間に皺を寄せる。
「そしてもう一点、お伝えしておかなければならないことがあります」
少将は険しい表情を浮かべて、話し出した。
「組織されてから城を落とされるまでの速さを見てお察しの通り、創には戦いの道に通じた者がいます。それは、我が軍の兵士達です。我が軍の派閥構成は、上層部に平和派が多く、末端へいくほど開戦派が多いです。なので、戦闘員の多くが流れました」
実就様に従っている軍に不満が溜まり、見限ったのだろう。
「なんで下っ端に開戦派が多いんですか」
旗ノ柄が手を挙げて聞く。
「能力の実情は機密事項で、上の人間しか把握していません。そのため、情報が行き渡らない下部になればなるほど、能力が絶大な力だと勘違いしているのです。
創は流れた元兵士からそれを聞いたのか、我々軍本部はあまり警戒されていません。遂に開戦へと動き出した自分達に同調して、平和派の上層部が指示を出しても開戦派の兵士達は従わないと高を括っているのでしょう」
淡々と説明する少将。
だから本部に創がいなかったのか。私は納得する。
「どのくらいの数が流れたのですか」
「百名前後」
代表の質問に、元帥が答える。
常設軍の人数は五千なので、かなりの数が流れたな。
「あなた方の能力があれば、この状況でもどうにかなりますか」
少将の問いに代表が私の方を振り向くので、私は微妙な顔で小首を傾げて見せる。代表も同じように思ったのか、特に何も言わないで少将に答える。
「難しいですね。客がかなりの障害です。行きはまだしも、帰りに退路がないのはかなりきついでしょう」
「やはりそうですよね。何かこの難点を打破する案はないですか」
それを受けて、少将は少し参ったという表情を浮かべる。
せめて逃走の道が、他にもあればいいんだけどなあ。
「そこのあなた」
突然少将から呼ばれた私は、驚きから何度も瞬きをする。
「何か提案してみなさい」
ええ、嘘でしょ! 私はパニックになる。知らない人といるだけでも嫌なのに、発言しろなんて。
私は助けを求めて代表を方を向くが、私を冷たく見つめるだけ。
いやなんで助けてくれないんですか。私が恨めしい視線を代表に送ると、代表は少将の方へ顎をしゃくった。
私は肩を上下させながら俯き、いやいや口を開く。
「えっと、その……」
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