「全部喋っちゃったんだ、かよ子さん」
私が話し終わると、実正様は肩をすくめる。
「あなたが兵を動かしたのは、代表が勘違いしたように、陽形が絡んでいると思わせるためですね」
まあね、と実正様は答える。
「それで、僕が今目覚めるまで、諸星代表や君はどう考えたの? 僕がどんな目的で、何をしたのか」
実正様はニタァっと口角を上げ、歯を見せる。
徹底的に私を弄ぶ気ね。
「いいでしょう。じゃあ、答え合わせしてくれます?」
私はため息をついて、話し出す。
「あなたは、私と出会った当初から、実就様と何らかの秘密の関係があるのではないかと疑っていた。それが確信に変わったのは、雷芯城で芍薬様の絵を見た時。私が、実就様の隠し子だと思った。
そしてあなたの目的は、私への復讐。あなたは蓮田様が殺されたことを知った時点で、陽形の目的に見当がついた。そして実就様が殺される遠因になった私に、同じ目に合わせてやろうと今回のことを計画した。私が隠し子であると世間に広め土井をけしかけ、さらに支援までしてそれを後押しした」
すると、実正様は嘲笑を浮かべる。
「惜しいけど違う。最終目標は、君を領主にすることだった」
私は眉間に皺を寄せ、瞬きをする。
「土井には存分に君を虐げさせた後死んでもらって、君にはその殺しの疑いを持たれながら領主になってもらうつもりだった」
実正様はうっとりした顔で天井を見つめる。
そこまで私を恨んでたなんて。私は恐ろしさや罪悪感などでごちゃ混ぜな気持ちになって、気分が悪くなる。しかし冷静を装って、確認する。
「それじゃあ、実就様への復讐も込みだったってことですね」
しかし意外にも、実正様は怪訝な顔で固まった。それに、こちらも驚く。
「え、だって、私を領主から守った代わりに、守られなかった自分の恨みを晴らすためじゃ」
「違う!」
実正様がしゃがれた声を荒げる。
「祖父上は、君達親子ではなく、僕達家族を選んだ。だから君を引き取らなかったし、最後まで認知しなかった。領主にしたくなかったんじゃなくて、領主にするつもりがなかったんだ」
実正様は必死に否定したと思ったら、今度は私の母を罵倒してくる。
「しかし、君の母親も随分悪い人だね。子供をさも自分の娘かのように、父親に育てさせた」
「それは実就様だって一緒でしょ。孫じゃない女を、おじいちゃんに面倒を見させた」
私は反論する。
「しょうがないことさ。僕達を選んだ結果だ」
自分に都合良いことばっかり言って。私は少し顔を顰める。
「まあなんであれ、結局は僕の勝ちだ。自ら即位しても、僕の最終目標は達成されたからね。即位した理由は責任感かな、牡丹ちゃんは真面目だもんね。でも今領主になれば、相当な風当たりだ。たくさん苦しむだろうね」
実正様は勝ち誇った顔をする。
実正様って、こんなに安っぽい人だったかな。
私は俯いて、息を吸い込む。そして、無表情な顔を上げる。
「話は終わった?」
それを聞いて、実正様は不愉快極まりない顔をする。
「領主になったのは、実就様や百舌野、もちろんあなたへの贖罪もある。でも、それだけで領主になるのは、よくないと思った。それじゃあ国民が可哀想だし、実就様や母のような真摯にこの職務と向き合ってきた人達に対する冒涜になる。だからなるからには、ちゃんと領主としての役目は果たす。そう思って、即位しました。もしあなた達の贖罪だけでなっていたら、今心が折れてたでしょうね」
私は冷めた目で実正様を見る。
「でもこれからはきっと折れるよ。君はもう一人だ。大好きな優君は、僕が殺したんだから」
実正様はまだ余裕の笑みを浮かべている。
「優は、死んでません」
私のその言葉で、実正様は目を見開く。
「後で面会に来るよう言っておきますね」
私はさらりと言い放つ。そして、ふと思い出したように、最後に取っておいた爆弾に着火する。
「あと、私は実就様の隠し子じゃありません。その娘、百合様の子です」
訳が分からないと固まる実正様を置いて、私は席を立つ。
「まさか自分の仮説が間違っているなんて、思わなかったでしょう。宮峰さんに依頼したのは、自分の仮説に民衆を納得させる証拠が欲しかったからですもんね。まあでも、あなたには関係ないか」
私は軽蔑の眼差しを下ろす。
「ああ、そうだね。君が祖父上を殺したことに代わりはない」
実正様は困惑した気持ちを、何とか隠すように気丈に振る舞う。
「ええ。でも、例え実就様が殺されていなくても、あなたは私を恨んでいたでしょうしね」
私は最後に、本心でそう吐き捨てた。
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