私と旗ノ柄は怪訝な顔を見合わせて、空いている廊下の窓からみんなの視線の先を見る。
「あっ、実就様です!」
旗ノ柄が指を差す人を、私もこの目で確認する。
二人の創の男性がうなだれている実就様の両脇を抱えて持ち上げ、城から少し離れた所に設置された蔵から出て来ていた。
あんな所にいたのか。いくら城を探しても見つからないわけだ。
私が苦虫を噛み潰したような顔で走り出したので、旗ノ柄も追ってくる。みんなが窓を覗いてくれているおかげで、廊下が空いて走りやすい。
「まだ処刑執行時間までかなりあるのに、なんで」
「軍に警戒して、時間を繰り上げたのかも」
私は走りながら、旗ノ柄の疑問に答えた。
「それより見た? 実就様の足」
「はい。両足首に包帯が巻かれていました」
「多分腱を切られてる。あれじゃ立つこともできない」
私が歯を食いしばりながら言うと、旗ノ柄が目を見開いて眉を寄せた。
どうしよう。私と旗ノ柄は人に能力を使う時、その人が自分以外に触れていると発動できない。私達のいずれも、実就様を抱えて移動するのは無理だ。つまり、能力で相手の目を眩ませながら隠し通路まで逃走する、というこの作戦がパーになったと言うことだ。
玄関まで来た。私と旗ノ柄は草履も履かず、外へ駆け出す。
こうなったら、とりあえずでも実就様を解放してもらう。嘘八百で乗り切る。
私はぎゅっと拳を握り締めて、旗ノ柄に頼む。
「創を裏切って、自分で政権を取ろうとしている者が紛れ込んでいる。と伝えて」
「ええっ。わ、分かりました」
旗ノ柄は驚きつつも、了承する。
門をくぐろうとしている実就様たちに追いつく。
「待って!」
旗ノ柄が声をかけると、実就様を抱えている創の男性達が振り返って足を止める。
「裏切り者がいます。政権を、取ろうとしてるやつがいます」
旗ノ柄が息切れしながら伝える横で、私は膝に手をつく。
「それってつまり、実就様を自分達で殺そうとしている者がいるということか」
驚いて聞かれた旗ノ柄は、私の方を見た。ので、肩で息をしながら私が代わりに頷く。
「見つかるまで、戻した方がいい」
私は俯きながら、声を震わせて忠告する。
「そうだな」
創の二人は提案を受け入れ、実就様を蔵へ戻しにこちらに体を向けた。その時、窓からじゃ遠くてよく見えなかった実就様の姿がはっきりと見えた。
シャツとスラックスはボロボロ、髪もボサボサ。顔はやつれて髭が少し伸びており、目が窪んでいて瞼を落としている。
酷い、どうしてこんな仕打ち。
私が立ちすくんでいる横を、創の男性は通り過ぎて蔵へ向かう。
「行きましょう」
旗ノ柄も泣きそうな悔しそうな顔で、私の手を引く。
私は旗ノ柄について、後ろを歩いた。
「おれ達、先に殺されないように見張っときます」
埃っぽくてカビ臭い蔵の中に実就様を雑に放り込んだ男二人に、申し出る旗ノ柄。
「リーダーに、まだ伝えてない」
私はボソっと旗ノ柄に囁く。
「ああ、リーダーに伝えられてないんですけど」
旗ノ柄がそう言うと、二人がやってくれると言うので助かった。
私達は二人が出て行くまで早る気持ちを抑えながら待ち、最後の片足が蔵から出た瞬間扉を旗ノ柄が閉める。
「どうしますか隊長! すぐ戻ってくるかもしれません!」
短く息を吐き出しながら、旗ノ柄が慌てる。
「分かってる!」
私も釣られて焦る。
逃げられない。身を隠すしかないけど、どこに? ていうかどうやって実就様を運ぶの?
私は口に拳を当てて考える。でも、何もいい案が思い浮かばない。
「……なさい」
声がぼそっと聞こえた。私達ははっとして実就様の方を振り向く。実就様は僅かに目を開けて、真っ直ぐに私を見据えていた。
「実就様!」
私達は安堵の表情で、実就様の顔の横に座り込む。
よかった。意識がある。
しかし次に出てきた言葉に、私達は顔を強張らせて固まった。
「私を殺しなさい、牡丹くん」
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