綺麗な色な瞳だね

野咲 ヒカリ
野咲 ヒカリ

三十二章 土井

公開日時: 2022年5月4日(水) 15:30
文字数:1,793

 正午ピッタリ、臨時の城。

 物がまだ散乱したままで、壁紙は破られている。割られた窓ガラスはとりあえず木の板が雑に釘打ちされている。

「和歌山 牡丹は?」

 会議室の長テーブルに着席した代表の正面に座る、男がこちらを睨みつけながら聞いてくる。

 おれの兄ちゃんと変わらない年くらいで、袴を着ている。つり目で、前髪をきっちり真ん中で分けている。

 これが反政府の中心人物か。おれは代表の左後ろに立ちながら、緊張した面持ちをする。

「私が代わりに参りました。昨日はどうも、土井様」

 代表が怖い顔のまま挨拶する。

 よくこの状況でいつも通りにできるな、代表。

 おれは、自分達を囲むように小銃を手に立っている兵をそおっと見回す。ざっと十人はいる。

「そちらは?」

 土井がおれの方へ目をやる。

「旗ノ柄です。あの銀行強盗事件に協力した、花水木の能力者です」

 代表の紹介で、おれはぎこちなく頭を下げる。

「用心棒ですか」

 土井は注意深くおれを観察しながら、不愉快そうな顔をした。

「で、和歌山への伝言はなんでしょう」

 代表は早速本題に入る。

「その前に、どうやってあなたが代理になるよう、指示を受けたのか。教えてもらえますか」

「どこからか飛脚が来て、文を受け取りました。ところで、あなた方反政府団体の活動資金は、どこで手に入れたんですか」

「そんなこと答えるわけ」

 代表は相手の言葉を遮る。

「こちらだって質問に答えたんです。そちらにも、答えていただかないと」

 すると、土井は顔を歪める。

「立場を弁えた方がいい」

 二人は静かに睨み合う。見えない火花の音が聞こえてきそうだ。

 しかししばらくして、代表がフッと笑う。

「やはり、あの噂は本当だったようですね」

 あの噂?

 おれと土井は怪訝な顔をする。

「反政府団体は、犯罪で稼いだ金で活動しているという噂ですよ。ご自身のことなのに、何て噂されてるかご存じないんですか?」

 代表が小馬鹿にしたように言うと、土井も嘲笑を浮かべた。

「そちらこそご存じないんですか。うちは、亀住かめずみ製薬という会社から資金援助を受けているんです。犯罪など、一指を染めてもいない」

 それを聞いても、全く怯む様子はない代表。

 どっちの言ってることが本当なんだ? おれは二人を交互に見る。

「話を戻しましょう。こちらから、あることを提案したいのです」

 土井は満足した顔で、話し出す。

「この一晩で、和歌山 牡丹についてできる限りの情報を収集しました。その結果、実就様の隠し子で間違いないだろうとの見解の辿り着きました」

 そう言って、土井は両手を重ねてテーブルの上へ置く。

「宝伝歴史図書館に花水木の伝記を依頼していたことは、記録で分かりました。実正様の遺言を聞いた後だったので、和歌山 牡丹を調べていたのだろうと推測するのは容易かった」

「兄ちゃんに会ったのか?」

 おれは肩を怒らせ、拳を握って一歩前に出る。それに合わせて、一斉に周りの兵がおれに銃口を構える。一方土井は、予想外の反応をもらい驚いた顔をしている。

「旗ノ柄!」

 代表がこちらを振り返って、手で先を塞ぐ。

 だって、こいつらが話をするだけとは思えない。おれは歯を食いしばって、代表をチラリと見ると土井の方を睨む。

「おれの兄貴は、その図書館の司書見習いだ」

 おれが荒々しく言うと、土井は勝手に納得した顔をした。

「非協力的だったとは聞いていないので、手は出していないはずです」

 おれは疑いの念を抱いたままではあるが、体の力を抜く。

「目の色が同じであることや、肖像画に描かれている芍薬様の簪と同一の意匠の簪を持っていること。その簪が百合様へ相続されたのに、百合様の死後は記録がないこと。などの報告を受けました。それらのことを総合的に見るに、実就様の隠し子で間違いないだろうとのことでした」

 それを聞いて、おれは片眉を上げる。隊長の言ってたことと違う。兄ちゃん、こいつらに嘘をついたのか。

「庶子は、跡継ぎとは認められません。国民も同じ考えでしょう。よって、実正様の遺言は無効。すなわち政府を打倒した国民のリーダーである、私が領主ということです」

 土井は堂々と宣言する。

 兄ちゃんは、土井を領主にしたかったのか? どうしてこんなこと。

 おれは混乱しながらも、沈んだ気持ちになる。

「しかし、実就様の庶子であることはお認めになると」

 代表がさっきとは打って変わって控えめな反論をすると、土井は頷く。

「そこで、提案です」

 澄ました顔で、土井はようやく本題に入った。

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