私の行く先々で事件が起こる件について 3話

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魔技者
魔技者

開演

公開日時: 2023年8月16日(水) 20:00
文字数:8,865

ついにこの回が来ました。たった9000文字位の内容。ですが、書きたくても書けないと言うもどかしさの末、なんとか書き上げる事が出来ました。今話がこの話の一番の山場だと思います。ここを書く為だけに今までの話があったような物です。

その辺も注意しつつ読んで欲しいです。結局、この部分を思いつくのに1年近くかかってしまいました。長かっただけに途中で思いついた事を忘れたり、何度も思い直しては一度書いた文章を取り消し、書き直しの繰り返し。こんな状態で本当に思い付く事が出来るのか? と言う不安もありました。ですが、こういう形で決着をつけることが出来て満足しています。


これは、2話の後書きとの【答え合わせ】です。

「ハァ……まさか、1つどころでは無く199……じゃない……200個も間違いがあったなんて……まあネズニ君の力で143……違う違う……144個に落ち着いたけど、それでもそんなにあったなんて信じられない……想定外だ……流石にこれは良いとは言えないね……改善の費用はどうなるんだろう? 駄目だ……執筆どころじゃないよお……ずっと真っ白だよお……あんな事実を突きつけられた直後でそんな事考えられないし、ましてや小説のアイディアなんか出る訳ないよ……ウーム、こういう時はブルーマウンテンのコヒーでも飲むとするか? 気分転換も必要だね」

コンコン


「ん? 開いているよお。入ってくれ!」

ガチャ


「ああ【お前】か。何だこんな時間に? 今執筆中だったんだぞ?」


「本当に? コーヒーグラインダーの前にいるじゃん。そこで執筆してたの?」


「そ、それは……しかも何だ? そのでかい袋は。重そうだなあ」


「まあね」


「ほう……ん? さっきから! 語尾がないじゃないかよお!!」


「ふふふふwまあまあ、今だけはいいじゃんw別に君と喧嘩しに来た訳じゃないんだよ。実は良い物を持って来たので許してね」

言葉では笑っている様な口調であるが、目は一切笑っていない。


「うーん……じゃあ今回だけだよお?」(良い物? なんだあ?)


「感謝感謝♪ それに、もしここで語尾を言っちゃったら、一部の人間にとっては面白く無くなっちゃう。本当にそれでも良いの?」


「一部の人間? ……よもやそれって読者の事か?」(な? こいつ今日はやけに……いや、気のせいか?)


「ん? 何それ? 知らないよ?」(読者……? 初めて聞く言葉だ…でも、何だ? この気持ちは? 聞いただけで心が洗われる様な……? 何と言うか……必要以上に美しくも頼もしい響き……それでいて、聞いただけなのに


【眩しい】


【神々しい】


とまで感じる……この言葉は何だ? こんな素晴らしい言葉を聞かせてくれて感謝だな。これは決して忘れてはならない言葉。

深く心に刻んでおこう。そなた、こんな最高の言葉をいつの間に? く、これではこれからそなたにやる事を躊躇ってしまうではないか……だが!)


「そうか、まあ良い。で、何を持って来たんだ? 見せてくれるか」

 

「これ!」

がさがさ


「な? コヒーか?」


「そうだよ。これは良いコーヒーなの。君に淹れて貰おうと思ってね。これは麝香猫じゃこうねこの糞から抽出された物なの。知ってる?」


「NO!」


「やっぱり知らないかあ。まだそこまで有名じゃないからね。まあいいや、教えてあげるよ」


「NO!」


「え? 知っているの?」


「NO!」


「どっちなの……」


「わ、私は猫の糞なんて飲みたくないんだよお」


「あ、そういう事ね。安心して、これは最高級のコーヒーなの」


「NO!」


「まあまあ落ち着いて落ち着いて♪ 数多の先人が試し飲みし、体に害はない事は既に証明済みなの。それどころか普通のコーヒーよりも栄養も高いから心配ないよ。君が不安なら、まず試しに飲んで見せようか?」

豆を機械にセットし起動する。


「NO!」


「いいからいいから♪おおー良い香り」


「ふ、糞を機械に入れないでくれよお」


「大丈夫だってwではいただきます!」

ゴク


「ふう……噂以上だあ……でもちょっと足りないんだ……どう? カップから沸き立つこの香り……君も飲みたくならない?」


「な? ちょっと足りない? ど、どこが? でもそれって一つ足りないって事だよねえ?」


「多分そういう事なんじゃない?」


「ま? そうか、それは良い事だよお」


「そうは思わないけど……折角買ったんだよ。出来ればそれを最高の状態で味わいたいの! で、香りはどう? 普通のコーヒーとは違うとは思わない?」


「た、確かにこの香りは今までにない……でもその、猫の糞なんだろぉ?」


「大丈夫だって! 心配性だなあ。そうそう、このコーヒーに合う珍しい菓子も持ってきたの。それを君が淹れたコーヒーと共に味わいたいと思って……今も淹れて見たけどやっぱり上手くいかないよ。でも、君の淹れたコーヒーなら話は違う。格別だから」


「ま? 私の淹れたコヒーは格別? そんな事言われた事無いぞ? でも悪い気はしない。ヒヒヒw嬉ヒィww」


「おいおい、落ち着いて落ち着いて!」(相も変わらず不気味な男。まあこれを見るのも今日で最後……これが見納めと言う事で許してやる) 


「よし。少々怖い気もするが、物は試し。飲んでみよう」


「良かった。では、失礼♪」

がさがさ 

座りつつ袋をあさる訪問者。そして、その時ビニール手袋を付けている事に気付く部屋主。


「な? 手袋?」


「直に手渡しでは不衛生じゃない?」


「なる、そ、そう言われてみればそうだな。こ、これが?」


「そう。これはリヒテンシュタインではとても有名な菓子なんだよ。このコーヒーと良く合うと聞いてセットで買ったんだよ。全くあのオヤジ……商売上手で困るよ」

出てきたのは綺麗な箱だ。


「ま? オヤジが商売上手?」


「そこは食い付かなくてもいいよ!」


「まあ興味あるが、さっき食事を摂ったばかりだよお?」

部屋主は、その訪問者から受け取った豆を機械にセットし、スイッチを押す。

ギュオオオオ…… 


「おお、やっぱり君が操作すると音が違う! いいコーヒーになりそう♪」 


「ま? 同じだと思うけど」


「いや! 1デシベル違うよ! 聞き惚れる音だよ!」 


「どうも怪しいよお?」


「気にしない気にしない! でもお腹一杯だとしても後でお腹が減った時にでも食べれば良いしね。これなんだけど。知ってる?」

菓子の入っている箱の蓋を開け、部屋主に見せる。


「ほう、初めて見る菓子だ……」


「これもかなり高い物なんだよ」


「なる! しかし旨そうな香りだな。……だが、一見普通の菓子にしか見えないが……リヒテンシュタインの菓子なのか? フム……これは、長い名前なのに出来ないね。しいて言うならリしテンシュタイン……駄目だよぉ……これじゃルールに……悔しいよお……」


「何を言ってるの? まあいいや」


「だが、その珍しい国の菓子を満腹と言う下らない理由で食べずじまいで見過してしまっては甘党を名乗る資格は無いな……」

コトッコトッ

部屋主が淹れたてのコーヒーを注いだカップを机の上に置く。


「どうも♪」


「うむ……ほほう、コヒーもいい香りだ。やはり本当だったのか」


「そうそう。これは100グラムで2万円もしたんだ。飲めば執筆も捗るんじゃない?」


「ま? 2万? ……猫の糞が? ……そんなコヒー、どんな味なんだあ? わくわくするねえ」


「え、気が変わってくれたの? 香りで判断し……実は本物が分かる男なんだ」

グビ


「ヒヒヒ……まあそういう事だよお。ではいただくとしよう……」

グビ


「めい!」


「口に合った様だね。流石高級品だよ。うん流石に美味しい。ありがとう」


「毎日執筆時には欠かせない相棒だからな。コヒーは香りで良い物かどうかは何となく分かる。丁度君が来る直前にも飲もうと準備していた位だしな。良い香りだ。流石高級豆だな! しかし、コヒーは味よりも香りだな?」


「ワシ、苦味のが」


「ま?」(あれ? 急にカタコトになった? それにしても苦みを好きとは……意外に大人なんだなあ)

トコトコ グビッ ボタボタ

部屋主は歩きながらコーヒーを飲み始める。


(よし、クリア。問題は次だ……行くぞ!!!!!)

「古いか?」

ギロッ 

突然、まるで仇敵に出会った時の如く、凄まじい瞳で部屋主を睨みつける訪問者。


「ブル」(ブルジョワの気分だね。とブル誤魔化しをしようとしたけどそんな余裕が無かったじゃないかよお……アリリちゃんの言う通り本当に恐ろしいと出来ないんだなあ……)


「時に、食うか?」

訪問者は続いて先程のリヒテンシュタインの菓子を部屋主に差し出す。そして、もう一つ取り出す。


(これがリヒテンシュタインの……初めて見る菓子だ)

訪問者は更に続けて袋からガラスの瓶を取り出すとその蓋を開ける。中からは氷が出て来た。それを当たり前の作法の様に菓子の上に乗せる。

ジャラジャラ


「ん? 氷付き?」(この菓子には氷が必要なのか? しかしこの菓子、最高級のコヒーに合うのか? いや、合うに決まっている! そして、あの氷。一体それらを混ぜたらばどんな味になるのだ? もう満腹だ。だが、少しだけ試してみたい……)

そう言いつつ、机に飲みかけのコーヒーの入ったカップを置く。


「全て載せい!」

のせのせ、パクッパリパリ

そしてお手本と言わんばかりに菓子の上に氷を乗せてから食べて見せる。それに釣られ、部屋主もかぶりつく。

パリパリポロポロ


「めい!」(お世辞でなく本当に旨い! しかし、この氷。砂糖水を凍らせた物だ。このひんやりとした氷が、全く邪魔する事無く、菓子の旨味【だけ】を引き出している……不思議な食感だ……抜群だ。何という旨さ!)


「牛!」

そう言うと、袋からタッパーを取り出し、蓋を開ける。中は牛肉だ。


「な?」(氷の次はそのローストした牛肉を乗せろって事か? しかし、甘い菓子に牛肉なんて合うのか? だが、この菓子にはそう言う特殊なルールがあるのだろう。何せリヒテンシュタインのしきたりはこの私でも知らない。でも、これも旨そうだ!! だがこの上には既に氷が乗っている)


「割れるだろう?」

パリン


(そうか菓子を割って、氷を乗せた菓子と、もう片方に牛肉を乗せると言う事か? まあいい、早速いただこう。ヒヒヒ旨そうだ!)

パリン さっ

菓子を半分に割った後にタッパーの中の牛肉を素手で鷲摑みにして取ろうとする部屋主。


「多い!!」

訪問者は、部屋主が半分以上牛肉を取った事を批判する。


「なる!」(そうだった……二人で分けて食べるのに、自分だけで全部持っていこうとしてしまったか……でもこのミスが私の欠点でもあり良い所でもあるんだ!)

のせのせ、トコトコ、パクパク、トコトコ、ポロポロ


「めいかいの?」


(な? ……あ、うまいか? って聞いてきたのか?)

もぐもぐもぐもぐ……ごくり


「おうよ!」


「何時?」

そして、部屋主が腕時計を見ている隙に懐から何かを取り出し部屋主に向ける。だが、その様子には一切気付いていない。時計と菓子のみを見ている。

(ん? 何だ急に……? 今は11時3分か……じゃあ)

「10時……」


「蟹!」

そして、袋の中に入った箱から熱々の蟹を取り出し、次にトングを出しそれで部屋主の菓子の上に乗せる。

ホッカホカホカホカリン。


(急だな。今度は蟹か……? しかし何故時間など聞いて来たんだ? まさか10時……違う、11時過ぎたらメインの……あれはズワイガニか? よく分からないがそれを用意しようと考えていたのか? 確かに切りの良い時間にメインを出したいと言う気持ちも分からんでもないが……滅茶苦茶律儀な奴だなあ。しかし、菓子に蟹? 果たしてこの組み合わせ……合うのか? む? 何という良い香りだ……これはいけるかもしれない……こいつ、色々な味を楽しませてくれるという事か……しかし、これはとても熱い。出来立てほやほやだ。まずは冷まそう)

「ふう」


「ゼラレタ!!」

そう言いつつゼラチンに包まれたレタスを差し出す。そして何故か部屋主の目の前まで近づけ、その後、カニの隣に乗せる。


「近」(急に目の前に持ってくるな! しかしこいつ突然名詞を叫ぶなよなあ。まあ何を乗せるか分かりやすくていいけどさ……でも、危うくまたブルって言うところだったよ。流石に2回もやってしまったら臆病者だと思われてしまう。気を付けなくては……それにしても……熱そうだから3回は吹こうと思ったのに余りの勢いで1回しか吹けていないぞ? たった1回で冷ます事は出来るだろうか? まあいい。さて、カニと合わせて食べてみよう……)

トコトコ、ポロポロ、サクサク、トコトコ、ポロポロ 

(む、流石に熱いが旨い。冷ます必要は無かった……この熱さが旨味を引き立てるんだ! 甘い菓子にホッカホカの蟹……新感覚だ……この味はまるで……菓子の上で蟹が豊穣のダンスをしている様だ……ああ、美しい……しかし、隣のゼラレタとは一体何だ? ……ハッ! よく見たらゼラチンに包まれているレタス……中々旨そうじゃないか……待てよ? これうちのレパトリーにもあるじゃないか。確かレタゼラだよ。なんでゼラレタなんだ? まあいいか……しかしこれ、食物繊維の塊だ。そうか! 今まで糖質や肉ばかり食べていた私に気遣い、野菜も摂れと言う事だな? 何と優しい奴……そして、ほほう……このレタゼラはゼラチンの質も違う……うちで作った物とゼラチンの味が違うな。そして、しっかりとした歯ごたえがある……! これは高級な寒天が使われているに違いない……! その中にシャッキシャキのレタス! 一噛みで二重の食感が……! 何と嬉しい事だ! ゼラチンは酢醤油ではなく薄っすらとだがコンソメの味付けがしてある! うちのレタゼラと違うがこれはこれで中々良い! これは新食感だ……菓子の旨さを益々引き立てる!!)

トコトコ、パク、プルンシャキ! トコトコ、ポロポロ


「♪ラーーーーー♪」

訪問者は突然歌い出す。


「今ここでか?」(突然歌い出すなんて……この人急に機嫌がよくなったのか?……でもこのタイミングで歌う必要はないよなあ。まるでアリリちゃんみたいじゃないか!)

訪問者は一礼し、手を前に出す。


(ああ、余りの驚きで食べるのを忘れていた)

もぐもぐ


「違法した?」

部屋主は首を横に振る。(確かにびっくりしたけど、突然歌い出したとしても違法では無いな)

もぐもぐ


「これを……汁!」

訪問者はカバンからベトベトした赤い液体の入ったタッパーを取り出し、蓋を開けて見せてみる。


(次はこれか……え? 汁? 何のだ? ……これ何か)「ベト」


「シー!」

訪問者は右手の人差し指を一本立てて静かにしろ! と言うジェスチャーをする。


(何故途中で遮るんだ……! 何か気持ち悪いじゃないか! ベトベトまでが一つの言葉なんだから。これだと一つ足りないじゃないか……あ! まあ別にいいか。むしろそっちの方が……!)


「この、血?……」


「ニカ!」

突然満面の笑みをしつつニカッと発音する訪問者。


(何だ突然……まあ普通か……それに爽やかな笑顔で安心できる。だが、それに釣られてうっかりこんな物を乗せるとでも思ったのか? しかし……いつも途中で遮ってくるよ……嫌だなあ……しかし、これはどんな物なのだ? 良く分からんが何かの動物の血に見える。流石に今回はトッピングするのは控えよう……)


「NO!」

そう言いつつ部屋主は首を横に振る。

(確かに私は一つ抜けている部分がある。だが、その笑顔の裏に何かの謀略がある事は確定的に明らか。そんな浅知恵など通じぬぞ? 断固断る!)


「か、実」

と言いつつ次は、干しブドウを出す。右手にベトベトの赤い液体のタッパー。左手には干しブドウ数粒を乗せ部屋主に見せる。


(これは……私の好物のマイナス1ーズンじゃないか! なる! 選択式か。何故ここに来て? まあいい。と言う事は先程出したネバネバの赤い液体か、マイナス1ーズンのどちらかを乗せて食べろと言う事なんだな? ならば悩むまでも無い。当然【好みの】【この実】にするしかないだろう。お? 中々素晴らしいシャレが出来てしまったなw嬉しい限りだ。また小説のネタが一つ完成したぞ)


「使わせよ!」(しかし、このマイナス1ーズンも相当良い物だな……これさえ乗せれば最高の菓子が完成する!)

無理やりひったくる。その時、訪問者の右手にあったタッパーがバランスを崩し、中に入っていた赤い液体が少し床にこぼれてしまう。そしてその顔には焦りが。


「……!」

(うっ! 急に奪いに来るな! 危うく声が出る所だった…………ん? ハッ! ……しまった! ……忘……れた! くそ……出てこない……うう……あれだけ練習したのに……全部覚えて来た筈なのに……こんなバカな……何も出てこない……いや、もうそんな事は考える余裕はない。余り待たせると食い終わって何かいらん事を聞いてくるかもしれん。そうなれば今まで積み上げてきた苦労はパーだ……止むを得ん。作戦変更。ここからは小細工無しだ……もう後戻りは出来ぬのだからな!)

のせのせ、トコトコ、ボトボト、サクサク、ボトボト、サクサク 


「我は……此処に」

ゴゴゴ……

部屋が少し暗くなる。


「われは……ここに?」(え? 何だ突然……? ワレハココニだと? 何だそれ? もしかしてワレハここ煮と言う名の煮物の事かぁ? 初耳だが意外性のある旨ーいトッピングなのだろうか? ジュルル……一体どんな味なんだ? 早く私に食べさせてくれ……しかし、このフレーズ……どこかで聞いた記憶が……)

更に暗くなる。そしてどういう事か訪問者の顔も暗くなる。

ゴゴゴゴゴ……ドンヨリドヨドヨリーン……

すると部屋主の言葉に呼応するかの如く、突然訪問者と部屋主の間に、黒いもやが溢れ始める。


「!!」(来た! 上手い事オウム返しをしてくれた。ここは、オウム返しする確率が55%で、


「な?」


と聞いてくる確率が45%あった。恐らくほぼ2分の1の勝負だった筈だ。だが、勝った! くううう……ワシが度忘れしなければしっかりと確実に詠唱出来たのに……まあ、結果オーライだ……そして、開いたぞ!!)

訪問者の顔に笑みが浮かぶ。


(? 空気が変わった? そんな些細な事はどうでもいい。ワレハココ煮はまだか? いつもの様に素早く渡しておくれ!)

パリパリポロッポロ 

しかし、いくら待てどもそんな物は乗せられる事は無い。


(……だが、先程のレタゼラも旨い! そして何よりこの菓子! これが旨すぎるんだ! そもそもこいつの提案したおかしなトッピングも、この菓子があってこそ旨味を引き出せていたんだ! まるで私が喜ぶ材料 をこれでもかと言うほど混ぜた至高の傑作だ! 1枚じゃ……足りない……もっとこのお菓子のお代わりを……)

パクパク、ムシャムシャ、トコトコ、ポロポロ

デザートは別腹と言った所か。食事を済ませたと言っていた筈だが、このお菓子とゼラレタの魅力に取り憑かれている。それどころかまだ残っているのに更にお代わりを渇望する始末。


(クッ……幾度と脳内で反芻し、幾度とこの流れを練習してきたが、本番ではこうなってしまうのか……口惜しい……所詮ワシも人の子という事か。この緊張。これが、殺人をするという事。練習と本番とのあからさまなる違い……それでもその障壁を乗り越え、完璧に演じたかった……人生で最初で最後の大舞台……だが、過ぎた事を悔いても仕方ない。多少強引でもあったし、幾つかミスもあった。その上、後半部分を完全に忘却しそのまま突き進んだ。だが、それでも結果は成功。どうやら詠唱は完了出来たようだ。

成程、これ位のズレは許容範囲だったのか……一言一句正確で無くとも想いが乗れば【神】も応えてくれるという事か……先人の創りし禁呪神施魔法……蓋を開けてみれば結構いい加減な物なのだな……それとも? この男をこの世に残しておいてはいけないと言う神々の総意? どちらでも良い……そのお陰でとどめを刺せる! それが証拠に既に神迎門ゲートも開かれている! もし奴がこの瞬間にワシの思惑に気付いたとて、逃げる間も、防御呪文詠唱も間に合わぬだろう。ここで、畳み掛ける! さあ……覚悟せよ!!!) 

訪問者の口元から笑みがこぼれる。そして……動き出す! そう、今の今までその人物の表情を形作っていただけの顔の一部位が、悪意のこもった言葉を組み立て始める凶器と豹変し、牙を剥く!


『この罪深き命、贄と捧げる! 我は望む。逆さ十字架の導きの下に、の魂、未来永劫、冥府の淵底えんていに繋ぎ留めよ!! 出でよ、死を、司りし神!!!』 


               【アルヴァデカ・ダーヴァ!】


訪問者が、謎の言葉を言い終えると、部屋に湧き出た門の様な形を形成する黒き靄の中から、何者かが姿を現す。

その風貌は、黒いローブに包まれ、姿は不明瞭。しかし、そのローブからほんの少し見え隠れする手は、黒いオーラを纏っているが、雪の様に白く美しい……? いや……こ、これは……この白さ、正に【人の手の骨】だ……骨そのものなのだ……それも、皮も筋肉も無い白骨が、動いている? 動力は一体? まさかそれを覆っている黒きオーラの力か? それが筋肉の代りを果たしているのか? そこまでは分からない。そして、その手には皮膚が真っ黒に染まったガマガマしいマガ……おっと失礼、禍々しいガマを持っている。そして、そのガマの視線は、ずっと部屋主を見つめている。


「な? ま? 待て! その詠唱は? まさか……ハッ? こ、このお方は……そして、あの蛙……くっ……『母なる陽』…………」

ブウン……キューン

部屋主は、訪問者の唱えた謎の言葉と、自分に向けられた異形の者からの視線に気付き、菓子を食う手を止め、呪文詠唱を始める。だが、到底間に合いそうにない。

そして、諦めたか? 靄の中から現れた存在を見上げる。

そして、ローブを纏った骨の様な化け物は、そのガマを思い切り振りかぶる。その動きに呼応し蛙は、マガマガしい舌を家主の心臓に向け、伸ばす……!

ビローン……! ペロン



「ほう、今気付いたか。まあそれももう遅い。この時点で気付いたとて防壁呪文の詠唱時間は足りぬ」

訪問主は部屋主を見下しつつ話す。

そして、ガマの舌が軽く部屋主の左胸に触れる。たったそれだけの事。だが、その瞬間、部屋主の顔はみるみる青ざめて行く……


「グハッ……さ、先程のやり取りで……死の呪文を詠唱……を、完了……して……いた? い、つの間に? 気付けなかった……まさか、あのわざとらしい二文にもん芝居の中に、全て内包されていた……? グッ、ぐはあっ……ハア……ハア……こ、この世界の全ての何かに、何か一つでも、不足が……あらん……事を……グフッ」

バタッ

部屋主は心臓を押さえ仰向けに倒れて行った。


「フン。わざとらしい二文芝居? そなたの事だ。どうせ三文芝居の事だろ? でもそれにすっかり騙されてたであろう? と、言う事は三文芝居じゃなかったって事だな? 負け惜しみはカッコ悪いぞ? 生き恥を晒すなんてみっとも……あ、もう死んでいたか……しかし、人生最後の言葉さえそれ〇〇?……呆れた奴……馬鹿は死んでも治らない……か……あの世でも言っていろ〇〇。ざまあない〇〇……! チッ、まだこの癖、直し切れないのか……まあいい。さて戻る〇〇」

家主は死んでしまいました。魔法の達人と言われていた彼が……一体何が起こったのでしょうか? 

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