「どう、なったんだ…?」
ドラゴンの全てを吹き飛ばし、一瞬でそこに何も無くなるような爆発に、呆然としているマハトの前を、何かが駆け抜けて行った。
「ヘタレっ! しっかりせぇ!」
今までずっと頭の中に響いていたのと同じ声が、初めて耳に響いた。
見ると力強い足運びで走る青年の姿があり、力尽きて倒れ込んでいるクロスに呼びかけている。
「おい…」
「マハ! これを飲んでおけ!」
透けることなくはっきりとした存在感のあるタクトは、クロスの合切袋の中から何かを取り出して、ポイッとマハトに投げて寄越した。
「これは…なんだ?」
「粉末魔法薬と書いてある。ヘタレの方が重傷じゃからおヌシの傷は後回しだ、それで応急処置をしておけい! 必ずあのご先祖の、霊験あらたかな水と一緒に飲むのだぞ!」
魔法薬のことはマハトも知っているし、致命傷でない負傷になら、それなりの効果があることも知っている。
だがマハトの知っている魔法薬は、常に液体だった。
だからアクティブな者が合切袋に入れて持っていると、すぐにガラス瓶が割れて、使い物にならなくなる。
「粉なら、瓶が割れなくて、便利だな…」
感心したように呟いて、マハトは薬包を開き、その粉を口の中に入れたのだが。
「う、うう、ぐっはぁっ!」
あの戦いの最中もあまり声をあげなかったマハトが、一体どんな攻撃を受けたのかとビックリして振り返ったタクトは、大急ぎで水筒の水を飲んでいるマハトの様子を見て、攻撃ではないらしいと理解した。
「どうした?」
「なんなんだこれは! 酷い味だ! これ、本当に、人が飲んで大丈夫なものなのか!」
「ほう、声に張りが戻ったな。顔色も、格段に良くなったぞよ」
「え?」
言われてみれば、立っているのが辛いほどの痛みが、拭われたように無くなっている。
「酷い味だが凄い薬だな。軟膏と同じ、隠者の秘薬だったんだろうか?」
「隠者の効果かご先祖の効果かわからぬが、大した効き目だな。その様子なら、儂が不得手な回復を掛けてやる必要もなさそうじゃの」
「なんだ、おまえも回復が苦手なのか?」
「も、とは、なんじゃ?」
「クロスさんも、そう言っていたから」
「ふん。白光輝石では、当然じゃろうな。おヌシとて、斧や槍より剣が得意とかあるであろう?」
「そういうことか、なるほどな。とにかくおかげで動けるようになった。俺に出来ることがあれば言ってくれ」
「ならば、適当な大きな布地を探してきてくれぬか?」
「わかった」
マハトは言われるまま、屋敷の中を探して回った。
アルバーラがいたと思われる場所には、なにもない。
タクトがなんらかの術を使って、変容してしまったアルバーラの体を吹き飛ばしたことはなんとなく想像がつくが、その残骸が全く残っていないのが、マハトには理解できなかった。
「全く、この世には、俺の知らんことがまだまだ多いのだな」
奇妙な感心をしつつ奥へと進み、マハトはゲージに掛けられていた布を集めて戻ってきた。
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