マハトが玄関ホールに戻ると、ドラゴンの頭頂部に仁王立ちしていたアルバーラが高笑った。
「どこの若造か知らないが、死ぬ覚悟が決まったかい!」
正面から真っ直ぐ向かって行くマハトに、ドラゴンは猛烈な火炎を吐き付けた。
するとマハトの周りに薄っすらと蒼いオーラが巻き立ち、火炎の威力を無効化する。
離れた場所で、クロスが各種の耐性や補助の術を駆使していた。
爬虫類に似た縦長の瞳が、チラとその姿を捉え、幻影のアルバーラが「ふんっ」と煩わしそうに眉を顰める。
「こしゃくなヘボ魔導士め!」
そう吐き捨てつつも、アルバーラの口元は笑っている。
魔導士は、術に頼りがちで体力は心許ない者の方が多い。
クロスは、その代表とも言うべき、内向的でインドア派の研究バカな魔導士だ。
真っ向から物理攻撃を狙ってくるマハトの相手をしながら、アルバーラはクロスの体力を削るように、術を放った。
アルバーラとクロスは、魔導組合の中で、双璧と呼ばれていた。
魔力持ちと判明し、幼少の頃に魔導組合に引き取られ、気量計の光輝石が特別な色に輝いた履歴までがそっくりだったからだ。
それぞれが高名な魔導士に引き取られ、早々に才能を発揮して、若いうちに独立を認められるほどの実力を示した。
それは、双方が互いをライヴァル視して、切磋琢磨した結果…に、周囲からは見えたかもしれない。
しかし、クロスはアルバーラの存在は、ずいぶん後になるまで気にしていなかった。
というか、クロスは自分が "知る人ぞ知る孤高の賢者" になりたいと思っていたので、自分以外の存在を割と無視していたからだ。
だからといって、クロスが鼻持ちならない傲慢な人物…だった訳ではない。
むしろ、小心者で人付き合いを苦手としていたために、出来るだけ他人と関わらずにいられる方法を考えたら、憧れが "孤高" の賢者になっただけだ。
魔力持ちであるが故に親に捨てられ、師匠の元でも兄弟弟子からいじめを受けたクロスは、ますますその気持を強め、本の虫となり、賢者として他の者が知らない禁呪を知っていたら「カッコイイ」と思ったりもしていた。
一方のアルバーラもまた、クロス一人を標的にしてはいなかった。
むしろこちらは、周囲の全てを恨んでいた。
子供に魔力持ちの素養があると知った親の反応はそれぞれで、クロスの場合は魔導組合の元に捨てられたが、アルバーラはスラムに打ち捨てられた。
スラムという場所は、容姿が端麗であれば男女を問わず、醜女であっても女性なら必ず、性的な暴力を振るわれる。
アルバーラもまた、その例に漏れなかった。
そして彼女は、その暴力に耐えきれなくなった時に魔力暴走を起こし、周囲にいた者たちを半死半生の目に合わせたために魔導組合に引き取られたのだ。
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