「なぁ…アイツ、デカくなった…?」
ジェラートの問いに、クロスは頷いた。
「宴の食卓…だ…」
「それは…なんだ!?」
ジェラートとクロスの会話に、アンリーが割り込んだ。
その言葉に、クロスは「おやっ?」と思った。
この様子では、アンリーは古代魔法や禁忌の術に対しての知識が、著しく低いのだろう。
知識の探求をセオロに任せ、神耶族の確保をルミギリスやアンリーたちに任せることで、アルバーラは知識と能力の分離を図っていたのかもしれない。
「禁忌の古代魔法だ。相手の能力値を、自身のものにする」
「なにそれ、信じらんない!」
クロスの答えに、アンリーではなくルミギリスが叫んだ。
ドラゴンが、身の内に抑え込んでいた魔気を、一気に辺りに放出する。
「うわっ!」
クロスは咄嗟に防御を張って、自身とジェラートの身を守った。
さすがにそれなりに実力者であるアンリーとルミギリスも、それぞれがその一撃をやり過ごした。
改めてドラゴンを見やると、その頭の上に誰かが立っている。
「し……師匠っ!」
「うわっ、鬼ババアが生きてるうっ!」
ルミギリスとアンリーが叫んだ。
「え? 誰……?」
だが、同じ人物を見ているであろうクロスには、それが誰か判らなかった。
緩やかなウェーブを描く青みがかって艷やかな黒髪を、肩にたなびかせている、スラリと長身の女性。
豊満な胸とくびれた腰、それに肉付きのいい尻という、グラマラスな肉体を更に強調するような切れ込みの入ったドレスを着ていて、顔ももちろん絶世の美女といった風情の幻影が、高く尖ったハイヒール姿で高笑っている。
「誰…って、アンタ、師匠のこと覚えてねぇのかよっ!」
クロスの問いを責めるような口調で、アンリーが言った。
「えっ、アルバーラ?! 何でアレがアルバーラ?」
「なに言ってんだ! ボケがきてんのかよっ?」
「クソ鬼ババア! 一門辞めたとか言ってたコたちは、ババアそうやって喰ってたんだなっ!」
二人の会話を無視して、ルミギリスが叫ぶ。
そして空にひときわ大きな陣を描き出した。
「ビンちゃんを返せーっ!」
「よせっ! ルミギリスっ!」
クロスの静止を聞かず、ルミギリスはタッと地面を蹴ると、次々に陣を描いてドラゴンに猛攻を仕掛けた。
「煩わしい」
あざ笑うかのように、ドラゴンは鼻先でルミギリスの術を弾き飛ばし、そのまま首を伸ばすと、バクンっとルミギリスをひと飲みにしてしまう。
「ひいっ!」
上擦った悲鳴を上げたのは、アンリーだ。
自分の最大のライヴァルと目していたルミギリスが、一瞬にしてドラゴンの餌食になったのだから、その恐怖は計り知れない。
「クロス、あのドラゴン、まだデカくなるつもりか?」
抱えられているジェラートが、ヒソヒソとクロスに耳打ちする。
「ああ、そのつもりだろう。アルバーラの弟子はよく失踪するってウワサを聞いてたけど、師匠に喰われていたとは、恐れいったよ…」
「今更気付いても遅いさ。アンタもあとで、私の糧にしてやるよ」
ドラゴンが咆哮を上げ、再び強烈な魔気を放つ。
そして幻影のアルバーラが、こちらをあざ笑うように冷笑を浮かべた。
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