「本物の恩恵の瞳って、宝石より綺麗なんだね」
「さすが俺の相棒! 恩恵の瞳のコトもちゃんと知ってんだな!」
「瞳だけじゃなくて、キミの存在そのものが至高の宝石みたいだ…。ジェムって呼んでもいい?」
「好きに呼べよ。それより、俺と一緒に、波瀾万丈な人生を楽しむか?」
「波瀾万丈はあんまり好きじゃないけど、でもキミと一緒ならそれもいいかなぁ…」
「なら、キマリだ」
迫ってきた顔が、そのままクロスにキスをする。
それから唇が耳に寄せられて、聞いたことのない名を密やかに囁かれた。
「今の、なに?」
「誰にも言うなよ?」
「いいよ。ジェムと秘密の共有が出来るのは、楽しそうだ」
クスクス笑いながら、ジェラートはクロスにキスの続きをする。
クロスは腕を伸ばそうとしたが、身体が動かなかった。
「あ〜、ダメダメ。現実のクロスは今、瀕死の重傷なんだから。いいから、俺に任せておけって」
身体が動かないと思ったけれど、でも本当はそこに身体なんて無いような気もする。
自分にキスをしているジェラートも、そこには存在していないような気がしている。
しかし同時に、まるで裸で抱き合っているような気もしている。
時間も空間も無く、自分は物理的な存在から精神的な存在へと昇華されて、今までの人生でずっと夢に見ていた憧れに触れたような気がした。
「なんでも知ってるクロスは、契金翼のコトも知ってんのか?」
囁かれるジェラートの声が、耳ではなく心に気持ちが良い。
神耶族を隷属させることは、何があっても決してあってはならないことだと思っていた反面、自分はずっと契金翼に焦がれていた。
孤高の賢者に憧れたのは、それならば人間にも手の届く可能性がある夢だったからだ。
本当は、神耶族の目には塵芥にも等しい存在である人間の中から、自分の存在が見出され、選ばれる栄誉に預かることを、心の奥でずっと夢見ていた。
その叶わぬはずの夢が、自分の身の上に舞い降りようとしている。
魂融術とは、まるで陶酔だとクロスは思った。
「いい夢だな…これ…」
「俺のモンになるの、そんなに嬉しい?」
「なんでわかるの?」
「なんでも知ってるクロスでも、知らないコトがあるんだな」
へへっと笑った顔は、小さかった時のちょっと生意気な顔を彷彿させ、本当にジェラートがジェラート本人なのだと、確信というよりは安堵のような気持ちになる。
「ジェム…キスしよ」
せがむクロスに、ジェラートは唇を重ね合わせる。
唇を触れ合わせた瞬間に、なんとも表現し難い至福感に包まれた。
今まで、人生の色々な局面であった理不尽や不満が、その手ですべて拭われていくような。
快感にも似ているが、もっと身の内から満ち足りていくような感覚だ。
「なに……これ……」
「魂融術だっつったろ……」
まるで快感の頂点に達したような、得も言われぬ幸福感に包まれて、クロスの意識は真っ白になった。
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