そこで色々なことを思い返していたクロスが、急に焦ったように振り返る。
「じゃあもしかして、見たくもない変なモノが、これからは更に見えるようになっちゃったりすんのっ?!」
「えーと、なんだったっけ、見鬼眼つったっけ?」
首を傾げてタクトに問うたジェラートの言葉に、クロスは顔をしかめた。
「それ、なに?」
「貴様、やはり知らなんだのか。見鬼眼をきちんと使いこなしておれば、そこの弟子に化けてた毒まんじゅうを、すぐにも看破出来ていたろうに」
「待って、待って、待って! マジ、待って! じゃあ俺が魔導士だから、視えてるんじゃないの?」
「言っておくがの。貴様の知識は人間のかなり間違ったものに偏っておる。宴の食卓と言ったかの? アレなぞがいい例じゃ。多分贄の食卓を再現しようとしたのだろうが、失われた術式を無理矢理つなげ合わせたんじゃろ」
「そうなのっ?」
「贄の食卓は、相手の全てを奪い取る禁忌の術じゃが。破片を集めて、得られるか得られまいかの博打のような術になったのだろうて」
「え…ええええ〜」
クロスは、いろいろな意味で脱力した声を上げた。
自身が必死に調べ学んだ知識が、トンデモ偽学だと言われたのだ。
ショックでないわけがない。
「その見鬼眼にしても、そうじゃ。人間には珍しいとはいえ、それほど稀な特殊技能でもない。今後は、ペテン師の幻像術程度、すぐにも見抜けるように精進するがよかろうよ」
自分の長年の悩みを一言で流されて、クロスは愕然となった。
タクトの姿が自分以外の、アルバーラにすら視えていなかったのは、そういう理由だったのか。
とすると、カービンやルミギリスに抱いた苛立ちは、完全に八つ当たりだった。
「屋敷ごと研究を焼き払っておいて、この弟子達は元に戻して、どうするつもりなんだ?」
マハトが足元の、四人の弟子を見遣る。
「別にどうもしない。クロスがこいつらのコト、すっげぇ心配してたから助けてやっただけだもん」
「こら小僧、それを一人でやり遂げたかのように、威張るんじゃない」
タクトに物言いをされたジェラートは、タクトに背を向けて小さくあかんべをして見せる。
「しかし、それではまた、神耶族に対して悪さをするんじゃないのか?」
「ん〜、そっか。じゃ、俺の小微羽でも……、うーん、それもめんどっちぃしなぁ」
「ああ、また古代語か? そのスキレットとかいうのはなんだ?」
「小微羽は、まあ神耶族専用の使い魔…みたいなモンだな。クロスの虫と同じで、相手を服従させられればなんでもオッケーだぜ」
「人間が虫扱いになるのか?」
「んー、そー言われると、こいつらが虫になったみてーで、更に気持ちわりーな」
「いや、そこじゃなくて…」
「これ以上の説明はめんどっちぃから、タクトにでも聞きなよ」
「このものぐさ小僧! なんでも端折るなと言っておろうがっ!」
タクトに両頬を引っ張られて、ジェラートは逃れようとジタバタした。
「ひゃめろよー! 俺はもう小僧じゃねェってー!」
「見た目がどれほど大きくなろうと、頭がカボチャのままなら、中身は小僧で間違っとらんっ!」
「ジェムってば、あんなに大人になっても、やってるコト同じだなあ…」
幻影のタクトと小さなジェラートの様子を思い出して、クロスが呟いた。
「あの二人、ずっとあんなことをしてたのか?」
「うん。まぁ、大体あんな感じだったよ」
マハトは呆れ顔で二人を眺めた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!