イルン幻想譚

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16.禁忌の真実【2】

公開日時: 2024年11月19日(火) 23:00
文字数:1,118

『ええいっ! ウジウジするなと言うておろうにっ! 盗られただけなら、取り戻せば良いだけじゃ!』


 タクトに叱りつけられて、クロスは顔を上げた。


「だけどアイツは、宴の食卓フリムニルも既に読み解いているんだよっ!」

『なんじゃそれは?』

「その、ムニエルとかいうのは何だ?」


 タクトとマハトが、同時に問うた。


「えっ、マハさんはともかく、タクトも宴の食卓フリムニルを知らないの?」

『知らん。なんじゃ、それは?』

「契約を交わして、相手を喰うことで、特殊技能スキル能力値ステータスを奪う古代魔法フォニルガルズだよ」

『そりゃ、贄の食卓フューゼスクじゃろ』


 タクトの答えに、クロスは首を傾げた。


「むしろ、そっちを俺は知らないんだけど?」


 その様子に、タクトは少し考え込むような顔をしてから、なぜか一人で納得したような顔で頷くと、クロスを見やる。


人間フォルクは伝承がむずかしい・・・・・種族じゃからな。少々名称が変わっておってもいたしかたなかろ。それで、その古代魔法フォニルガルズを紐解いて習得した毒まんじゅうは、弟子とその "契約" を交わしておった…と?』

「あ…うん。アンリーとの会話から、どうも弟子入りの際に師匠に忠誠を尽くす…みたいな誓約書にサインをさせられていたらしいんだ。それに、以前からアルバーラのとこの弟子が消えるって噂はあったし…」


 タクトの態度に不審を覚えたものの、クロスは問いに返事をする。


「いくら高名なものの元に弟子入りがしたいからと言って、喰われるための契約なぞするのか?」


 呆れたようなマハトの言葉に、タクトがあの舌打ちのような音をたて、まるで風刺でもするような笑みを浮かべる。


『全く、おぬしは愉快よの。人間フォルクの用意した書面なぞ、最初から微塵も信用ならんわ』

「なんだそれは?」

人間フォルクとは、騙し騙されるのが当たり前の種族とうておる。宴の食卓フリムニルのための契約書に、師弟の忠義を約束する書面に見えるじゅつを掛ければ、魔力ガルドルの低い人間フォルク如きは易々と騙されようぞ』

「そんなのは、詐欺じゃないか」

『じゃから、詐欺師の毒まんじゅうとうたであろうが。だが、その偽装を見破れずに契約してしまったら、それは成り立ってしまう。騙された方の負けと言うことじゃな』


 マハトは不満そうな顔をしたが、考えてみればそれはあくまでもアルバーラの行った非道な行為を、タクトが暴いてみせただけなので、文句を言っても仕方がない。


「弟子が消えるという噂があったのに、なんらかの調査はされなかったのか?」

「師匠と合わないからって冒険者アドベンチャーになったりするものも一定数はいるんだ。アルバーラは、もの拒まずで弟子を取っていたから、弟子の数も膨大だったし。議会員パーラメントシートだった上に、顔も広かったし」

「つまり、もみ消しをするツテがあった…と?」

「まぁ。平たく言えば、そうなるかな…」


 マハトは、ますます呆れた様子になった。

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