イルン幻想譚

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12.三番弟子【2】

公開日時: 2024年11月15日(金) 23:00
文字数:1,439

 一般的に、そんな容姿のものは、男女を問わず人見知りなイメージが有る。

 そもそも魔導士セイドラーは神経質で引っ込み思案なものほうが多く、コミュ力に長けているタイプは少ない。

 だが、アルバーラはそんなクロスの予想に反して、不思議なほど自信に溢れて明るい性格をしていた。

 快活に笑い、楽しげに喋り、大概のものが気づけば彼女の話に引き込まれている。

 そんな巧みな話術で他人の心をつかみ、場の流れを自分の有利に運ぶ才能に長けたアルバーラは、無制限に受け入れた弟子を養えるだけのかねを、スポンサーから易々と引き出していた。


 無数の弟子の中から、扱いやすく才気に溢れたものを選び、手間の掛かる文献の検証や裏付け、資料集めやその解析などをやらせる。

 更に、それらをセオロに精査させ、古代魔法フォニルガルズのお披露目のような派手な表舞台には自分が立つのが、彼女の常套手段なのだ。

 それが禁忌のじゅつとなれば、その全てを解析したのはセオロに決まっている。

 それが "解明が進まない" とは、どういうことだろうか? と引っかかったのだ。


「キミほどの知識で不満を言われちゃ、たまったもんじゃないな…」

「でも、核化フィルギナイズは解析出来ましたけど、未だに神耶族イルン能力値ステータスがどうすれば付与されるのか、僕には解明出来てませんし…」

「ああ、なるほど…」


 屋敷の扉の前に立ったセオロは、そこでクロスに振り返る。


「大丈夫ですか?」

「えっ、なにが?」

「此処、気持ち悪くないですか?」


 セオロは、いかにも薄気味悪そうに屋敷を見ている。


「だって、キミの師匠の研究室だよね?」

「そうですけど。でも、師匠が健在だった頃から、僕はこの屋敷は苦手なんです」

「だってそんな禁忌のじゅつの研究してたトコなら、むしろキミが一番出入りしてたんじゃないの?」

「いいえ、僕の研究結果を師匠が一人で検証してたんです。だから僕は、あまり此処には来てません。師匠は中でいろんな生き物も飼っていて、鳴き声とか蠢く音とか、ホント気持ち悪かったんです。こうしてると、あの呻きがまた聴こえてくる気がする」


 小心者のクロスには、話を聞くだけで怖気がしてくる。

 しかも改めて屋敷を見ると、どうやらアルバーラが失踪してからろくに手入れもしていない様子で、垂れ込める廃墟感に背筋がゾワゾワした。


「でも、入らないワケにはいかないでしょ…」

「ですよね」


 諦め顔で両開きの扉のノブに手を掛けたセオロは、すぐに顔をしかめた。


「開かない」

「鍵が掛かってるんじゃないの?」

「いえ、こんな場所ですから、師匠は鍵を付けてません」

「あんまり放ったらかしてたから、錆びて開かないんじゃないの?」


 クロスも試して、両足を踏ん張り、顔を真っ赤にして、あらん限りの力を出して引っ張ってみたが、扉はビクともしなかった。


じゅつでも掛けてあるのかな。でもそうだったら、僕には開けられませんし、クロスさんにも無理ですよね」


 肩で息を切らせながら、クロスはセオロの顔を見て、それから屋敷を振り仰いだ。


「ねえこれ、ホントに引く扉?」

「はい?」


 セオロが首を傾げているので、クロスは改めてドアノブを掴み、押した。

 軋んだ音を立てつつも、扉は簡単に内側に開いた。


「…マジ?」

「やあ驚いた、クロスさんは大したものですねえ」


 他人事みたいに言うセオロを、クロスはつい睨んでしまった。

 するとセオロは、ペコリと頭を下げる。


「すみません。なにしろ僕は、此処には滅多に来ませんでしたから」


 そう言われてしまったら、バカバカしい無駄働きをさせられたことも、それ以上怒るわけにもいかない。

 クロスは埃っぽい室内に踏み込んだ。

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