「では、タクトはあのドラゴンの正体は何だと思うんだ?」
『ふん…アレは、妖魔化した人間であろう』
「え、合成妖魔じゃなくて?」
クロスが問うた。
『確かにドラゴンに似せるための能力をツギハギにしている状態は、合成妖魔と言えなくもないが。溜め過ぎた能力値が人間の器に収まりきらなくなり器のカタチが変わっているのじゃから、すなわち妖魔化であろう。毒まんじゅうの実際の姿が今どうなっているかは解らぬが、あのドラゴンのような姿は幻獣族の持つ全像術の特殊技能で視せているだけであろう』
「しかし、アルバーラはジェラートも喰ってしまったんだろう? 神耶族の能力値の10%を得ているんじゃないのか?」
『彼奴の目的は、神耶族を隷属させることじゃ。簡単に喰う訳なかろ
きっぱりと、タクトは言った。
「ああ、そうだった…。スゲェ勢いで弟子を喰ってたから、てっきり錯覚してたよ…」
『彼奴の胸に湧き出たアレは、核化されたジェラートじゃろう』
「でも核化は術の顕現までに、三日ぐらい掛かるんじゃないの?」
己の知る常識の感覚で、クロスはそう訊いたのだが。
タクトは冷笑のような、笑みを浮かべる。
『人間の拙い能力では、そうであろ。実際に儂が完全に変化するまでに、二日ほど掛かっておるからな。だが毒まんじゅうは下級の幻獣族まで喰って、かなり魔力の底上げをしたようじゃし。使うのも二度目とあって、手慣れたところもあろうし』
「それで、おまえとジェラートに掛かっているその術は、どうやったら解けるんだ?」
『簡単じゃな。掛けた相手を倒せば良い』
「少しも簡単じゃないじゃないか」
『まあ、どの程度の幻獣族を、どのくらい喰ったか判らんところが手痛いの』
「それは、下級といえど幻獣族でしょ、数年の間に何十体も集められるモンじゃないと思うよ。集めまくって十体かそこらが、精々の量じゃないかな」
『ふむ。ならば相手の能力は、下級の幻獣族程度と見ておけば、トントンじゃろう』
これからの戦いに先方の戦力を推し量るクロスとタクトに、マハトが遠慮がちに問うた。
「話は全部ちゃんと聞いておきたいんだが、こんなに悠長にしていていいのか? あのドラゴンがいつこちらに来るか、分からないだろう」
「あ、それは大丈夫だよ。この屋敷は、出入り口以外は結界で外に出られないから、あっちは絶対、追いかけるより出てくるの待つほうが得策って考えてると思う」
クロスの答えに、マハトは安心したように頷いた。
「そうか、それなら質問させてもらいたいんだが、あいつはなぜ、体内に取り込んだジェラートを、わざわざ胸に浮き出させてるんだ?」
『あれはジェラートが逃げ出そうとしておる、と言うのが正しい。じゃが、あのカボチャ頭めが、どうせ出るならもっと柔らかい部分を狙えばよかろうに』
「ドラゴンに柔らかい部分なんてあるのか?」
『どんなにウロコでがっちり身を固めている生き物でも、関節の内側や耳の後ろなど、折れ曲がっている部分は弱いに決まっておるわ』
「あの、飲み込まれた状態で、ソコを狙って出るのも、一苦労だと思うけど…」
ぼそっと呟いたクロスを、タクトは冷たい目線で睨む。
『とにかくじゃ! ミッションは二つ、ジェラートの透晶珠を無傷で取り戻すこと! あの毒まんじゅうの息の根を止めること、じゃ!』
「だからそう簡単に言われても…」
『策はある! これから作戦を説明するから、良く聞けい』
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