激しい光が轟音と共に爆散したあと、焦げて破れた蜘蛛の糸がパラパラと上から舞い落ち、糸を吐いていた本体は落雷によって絶命し、地面に落ちた。
「土蜘蛛が…一撃で…」
「なんだよ、師匠の話と随分違うじゃんか!」
上から不機嫌な声音で、アンリーが言った。
「まさか、アルバーラの言ったコト、真に受けてんの? 相手をおだてて才能を端から食い潰すだけだって、全然気付いてないとか。哀れだな」
「消えた相手のコトはなんとでも言えるよな!」
アンリーは再び、穴から顔を引っ込めた。
「今度はなんだ…?」
なにか、遠くから音がしている。
土蜘蛛は、最初から土の下に潜んでいたものが這い出してきただけだったが、今度の音と振動は、もっと地面の奥深くから近づいてくる感じだった。
音を真下に感じた時、またしても地面が盛り上がり、爆発的にに土が飛び散る。
現れたのは、サンドウォームだった。
「また、こーいう……」
全身が黄砂と同じ黄色っぽい色をしていて、体表には細かい棘のような体毛が生えている。
目も鼻も退化して、胴回りと同じ大きさの口が開いており、手足もなく全身が蠕動することで動き回る姿は、蜘蛛以上にクロスの生理的な嫌悪感を刺激した。
しかしその巨大なミミズのようなサンドウォームがクロスに襲いかかることは無く、いきなり暴れ狂いながら、ドッとその場に倒れた。
「アンリー! ボクの神耶族を返せー!」
倒れた使い魔の口から、防御で作った薄い被膜に包まれたルミギリスと、その背中にくっついたカービンが飛び出して来た。
「芋虫めっ、思い知ったかー! あれ? セオロだけ? アンリーは…なんだ、上じゃんか!」
「ちょうどいい、そこの元祖ヘタレと一緒に、オマエも片付けてやる!」
「オマエみたいなスカスカ野郎にやられるもんかっ! ビンちゃん、蔦っ!」
「オッケーっ!」
ルミギリスが防御の術を解いたところで、カービンは懐から種子を取り出した。
地面に落ちた種子は、一瞬にして芽吹き、蔦がスルスルと穴の上に伸びていく。
「サンドウォーム! 最後に仕事しろ!」
瀕死の使い魔にアンリーが命令を下すと、サンドウォームが奇声と共に起き上がり、伸びた植物に食らいついた。
「なにこの、怪獣大戦争……」
巨大植物とサンドウォームの壮絶な絡み合いから逃れんとして、クロスは壁にへばりついた。
サンドウォームは植物に食らいつき、植物はサンドウォームを締め付けて、互いに動きを封じようとする。
半身を蔓に絡め取られたサンドウォームが、尾を振り回して暴れた勢いで、そこにあった床下の家屋を支えている柱を数本、薙ぎ倒した。
「セオロ!」
柱を失った床板が、あちこちから崩れ落ちてくる。
穴の中央で絡み合いを続けるサンドウォームと植物を挟んで、反対側の壁際に逃げていたセオロは、もうもうと上がった埃が収まったあとには、姿が見えなくなっていた。
瞬時に動けないセオロがどうなったのかが気掛かりだったが、しかしクロスには他人の心配をする余裕が無かった。
サンドウォームはあたりかまわず、柱を次々に薙ぎ倒し続けている。
傾いた柱にしがみつき、必死に登ってクロスは床穴から這い出した。
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