人間の社会において、気量計に反応が現れるほどの魔力を持つ者…つまり魔力持ちと認定されるのは百人に一人程度である。
光輝石は、一見するとやや白みがかったグレーの、なんの変哲もない石ころだ。
それが魔気に晒されると、その魔気が含んだ属性の色に変化する。
大抵の魔力持ちは、石に触れると色が変わった…程度の反応しか示さない。
これが強力な魔力になると、属性の色を残しながら石の透明度が上がる。
向こうが透けて見えるほどの魔力を持つのは、人間では非常に稀で、十万人に一人の逸材…つまりクロスとアルバーラは、その奇跡のような魔力持ちだったのだ。
同時代の同世代にそんな逸材が二人も現れたことは、魔導組合で一大センセーションとなり、周囲が勝手に二人をライヴァルと目したのは当然の成り行きだったといえる。
内気なクロスとは別の理由で、アルバーラもまた兄弟弟子からいじめを受けた。
スラムで受けた迫害で既に歪んでいた彼女の人格は、兄弟弟子に受け入れてもらえずに更に歪んだのだ。
自身の見栄えが悪いことが迫害される理由であると考えていた彼女は、師匠の元で偶然知った幻像術を自身に施すことを考えた。
幻像術は、禁忌ではない。
それどころか、獣人族のように、人間社会に紛れる必要のある種族にとっては、必ず習得しなければならない術であり、同時にさほど難しい術でもない。
だが、必要のない人間社会においては、忘れ去られている術なのだ。
「見目麗しい少女は、真っ先に犠牲になったが、見目麗しい女は醜女を贄にして、自分は男の影に隠れている」
魔力暴走を起こした時、彼女は同性を含めた複数人から辱めを受けていたために、そういう思考が凝り固まっていた。
その日から、アルバーラは他人に気づかれないように少しずつ自身の容姿を変えた。
幻像術は、魔力が低いと見破られやすいが、技術を向上させることで自身よりも魔力の高い者相手でも騙せる術である。
物理的に自身の身体を変化させず、錯覚によって相手を騙すため、慣れてくると常時発動させていても苦がなくなる術でもあった。
アルバーラの他者に対する憎しみは、やがてヒトならざる異形に変貌してでも最強のチカラを得たいと望むようになる。
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