イルン幻想譚

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20.旅立ち【3】

公開日時: 2024年11月23日(土) 23:00
文字数:2,033

「ところで、クロスさん。アルバーラはあの四人以外にも、ヒトや幻獣族ファンタズマも食べていたんだろう? それはどうなったんだ?」

「いや、俺もこの四人が元の姿に戻って驚いてるぐらいだし…」

「そうか。蘇らせたのがジェラートとタクトなら、クロスさんには判らないのか…」

「だけど、せっかくこうして蘇生させてもらえたんなら、魔導士セイドラーの誓いの通りに、人間リオンに貢献するようになってもらいたいな」

「あ、それなら良いな! 俺には関係ねぇとこで、勤勉に働いてもらうのはアリよりのアリじゃねっ?」


 クロスの呟きに、ジェラートが乗ってきた。


「まずはコイツらを小微羽スキルニルにして、メッシュを魔導組合セイドラーズギルドのトップに立たせて、伝説はただの伝説ですって言わすんだ。そんでもって、こっちの解読マニアには核化フィルギナイズとか宴の食卓フリムニルとかの術式を破棄させて…」

「術式の破棄は、儂も賛成したいが。しかし小微羽スキルニルなぞにしたら、爆上がりした能力値ステータスを、どう説明させるつもりじゃ? このカボチャ頭めがっ」

「師匠が人間フォルク離れした能力値ステータスだったんだから、弟子が少々すごくたっていいじゃん。頑張ればこれくらい上がるっつっとけば」

「では、残りの二人の使い道は?」


 くっつきあって目を回しているルミギリスとカービンを見てから、ジェラートはクロスの顔を見る。


「なぁクロス、なんか使い途あるかな?」

「えっ…そりゃ、一応アンリーのライヴァルとして、ルミギリスだって同じぐらい能力値ステータスが上がってないと…ちょっと、…すごく? バランス悪い…とか?」


 焦り顔で言い繕うクロスを、微妙に冷めた目線でタクトは眺めてきたが。


「まあよい。成人マンナズを済ませたものの行動に、儂がこれ以上口を出す謂れもないわな。そやつらのことも含めて、ここから先はおのれが思う通りにせえ。儂もこれにて、ようやく子守から開放されたのじゃしな」

「俺もよーやく小姑から開放だー!」

だれが小姑かっ! さんざん手間と心配かけさせた、この口が言うのか!」

「イテェっつーの! もう実体になってんだから、気軽にヒトの頬を引っ張んなー!」

「ちょっとジェム、小姑は似合い過ぎでしょ」


 ジェラートの頬を引っ張っていたタクトが、怖い顔をしてクロスに振り返る。


「そのヘタレた口も、命の恩人に対してそういうことを言うか!」

「いだだだだだっ!」

「ジェラート、開放ってどういうことだ?」

「俺が免許皆伝されたから、タクトはもう俺の守護者ケルヴィンガーをしなくていいのさ」

「そうだ、聞きそびれてたんだが、その "けるゔぃむ" とかいうのは、なんなんだ?」

神耶族イルン人間フォルクと違って、子育ては最も能力のあるものに託すのじゃ。守護者ケルヴィンガーとはすなわちその託されたものの名称であり、子の師匠となるものじゃな」

「なるほど。でジェラートは、これからどうするんだ?」


 ようやくタクトが手を離したので、クロスが頬を押さえて逃げていく。


「どうもせん。神耶族イルンは基本、単独で気ままに生きるものじゃ。ともをするのは契眷属フェストゥーカのみ。ジェラートはあのヘタレを契金翼エヴンハールにしたので、貴様は儂が可愛がってやろうぞ」

「可愛がる? だれが? なぜ?」

「まったく鈍いサウルスじゃの。貴様を、儂の契金翼エヴンハールにしてやろうと言っておるのじゃ」

「冗談じゃない! おまえのようなトラブルメーカーと同行するのは懲り懲りだし、契約なんてお断りだ! クロスさん、縁があればまた逢いましょう、ジェラートも元気でな。じゃあ俺はこれで!」


 言うなり、マハトはダッと駈け出した。


「おいマハ! 砂漠で気を失っている時に、既に仮契約は済ませてある! どこへ行こうと、儂には居場所が解るのじゃぞ!」

「あーあ、大変だ。あんな半裸のまま、っちゃって…」


 呟きながらジェラートが、走り去るマハトの背中を目で追っていると、一緒にそれを見ているタクトが、ご馳走を前にした猫のような顔で顎をしゃくる。


「ふふ、走っていくヤツの尻臀しりたぶ、そそると思わんか?」

「あ〜、確かにマハはタクトの好みだナ。でも逃げちゃったぜ?」

「この儂が見初めたのだぞ。断る選択肢なぞ、与えはせんわ。それではジェラート、達者でやれ。さすればまたどこかで、巡り合うこともあるだろう」

「うん、タクトも上手くやれよな」


 マハトのあとを追っていくタクトに、ジェラートは手を振った。


「ねェ、ジェム。俺が契金翼エヴンハールになった…ってのは、ホントなんだろうケド…」

「なんだよ? なんかモンダイ?」

「いや、その、魂融術シームルってのは、一体なんだったの? 夢みたいだけど、夢じゃないみたいだし…」

「あ〜、アレかぁ」


 ジェラートがちょっと真面目な顔で考えるような素振りを見せたので、クロスは黙って答えを待った。


「夢のよーな、夢じゃないよーな? どっちでもいーじゃん」

「なんなの、それ…」

「だぁってクロスは、俺のモンになるの嬉しいって思ってたじゃん。俺もオマエと冒険三昧するの、スッゲェ嬉しいンだぜっ!」


 そう言って、ジェラートはクロスの頬にキスをする。

 その瞬間、クロスは自分の顔が音を立てて赤く染まるのを感じ、自分はもうすっかりジェラートの虜になってしまったのだと理解したのだった。



*追われる少年:おわり*

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