イルン幻想譚

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16.禁忌の真実【3】

公開日時: 2024年11月19日(火) 23:00
文字数:1,218

「ところで、そのムニエルとかいうじゅつは、契約をしなければ能力を盗めないのだろう? どうやってドラゴンと契約を?」


 マハトの問いに、クロスは少し困ったような顔で笑った。


「アレは、ドラゴンじゃなくて合成妖魔キメラだと思うよ」

合成妖魔キメラ?」

「そもそも宴の食卓フリムニルは、契約を交わすと相手の特殊技能スキルと知識、それに能力値ステータスを10%ぐらい奪い取れるじゅつなんだけど。成功率を問わなかったら契約は不要なんだ」

「それはつまり、そのじゅつを行使して相手を食えば良いってことか?」

「うん。契約をしない状態でじゅつを使うと、特殊技能スキルを習得出来る確率は1%ぐらいになる」

「同じ特殊技能スキルを持つ相手を、百人喰う…ということか?」

『百匹喰って、身に付けば御の字…というのが正しいであろ』

「そうか、成功率が常に1%なんだものな。…えっ、じゃあ合成妖魔キメラというのは…」

「部屋がいっぱいあるでしょ、ここ。その部屋の中には、かなりいろんな種類のケージが置いてあるんだ。ただ、中に生き物はいない。アルバーラが失踪する前に、全部片付けて・・・・いったんだと思う」

「食べた…ということか。ケージには、一体なにがはいってたんだ?」

「あの姿から思うに、妖魔モンスターや下級の幻獣族ファンタズマじゃないかな」

「本当にそんな者を…」


 異形の能力を欲してあらゆる妖魔モンスターを貪り食べている、我欲に取り憑かれたものの姿を思い浮かべて、マハトは本気で胸がムカムカしてきてしまった。


「…異常なことは、よく解った。だが幻獣族ファンタズマ妖魔モンスターなんて、魔障ガルドリングの可能性もあるし、そもそも致死毒を持っているものも多いはずだが」

「危険度は判ってるんだから、対策を立てながら計画的に食べたと思うよ」

「対策って、致死毒だぞ?」

「ヒトガタ種族には、人間リオン能力値ステータスが同じくらいの獣人族セリアンスロウって種族がいてね。彼らは体に動物的な特徴を備えているんだ」

「動物的とは、犬とか猫とか?」

「他にも色々ね。彼らの中には、遺伝的に完全毒耐性みたいな特殊技能スキルを持ってる者もいて」

「そういう者の特殊技能スキルを、先刻タクトが言っていた詐欺行為で騙して奪ったんだな」

特殊技能スキルだけじゃなくて能力値ステータスも奪えるから、魔気ガルドレートの耐性も上がってるだろうね。元々魔導士セイドラーだから、自身の魔力ガルドルのコントロールは完璧だし」

「それじゃあ宴の食卓フリムニルを使い続けてたら、最終的に神耶族イルンよりも、もっと凄い生き物になってしまうんじゃないのか?」


 マハトの発言に、こらえきれないと言った様子でタクトが笑った。


「なぜ、笑う」

『いや、すまぬ。確かにヘタレふうの言い方をするならば "理論上は" そうなるであろうが。しかし全く、現実的では無いのう』

「根拠は?」

神耶族イルンと同格の能力値ステータスを持つ生き物となれば、人間フォルクの言うところの "上級" しかも、筋金入りの古代種フォニルフラィ幻獣族ファンタズマぞ?』

「それが十匹必要ということになるな」


 タクトの返事に、マハトは真面目な顔で答えた。


「マハさん、そんな相手は、人間リオンじゃ最初の一匹だって討伐出来ないと思うよ」


 クロスに言われて、マハトはハタと気付いたように「ああ…確かに」と言った。


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