「ところで、そのムニエルとかいう術は、契約をしなければ能力を盗めないのだろう? どうやってドラゴンと契約を?」
マハトの問いに、クロスは少し困ったような顔で笑った。
「アレは、ドラゴンじゃなくて合成妖魔だと思うよ」
「合成妖魔?」
「そもそも宴の食卓は、契約を交わすと相手の特殊技能と知識、それに能力値を10%ぐらい奪い取れる術なんだけど。成功率を問わなかったら契約は不要なんだ」
「それはつまり、その術を行使して相手を食えば良いってことか?」
「うん。契約をしない状態で術を使うと、特殊技能を習得出来る確率は1%ぐらいになる」
「同じ特殊技能を持つ相手を、百人喰う…ということか?」
『百匹喰って、身に付けば御の字…というのが正しいであろ』
「そうか、成功率が常に1%なんだものな。…えっ、じゃあ合成妖魔というのは…」
「部屋がいっぱいあるでしょ、ここ。その部屋の中には、かなりいろんな種類のケージが置いてあるんだ。ただ、中に生き物はいない。アルバーラが失踪する前に、全部片付けていったんだと思う」
「食べた…ということか。ケージには、一体なにがはいってたんだ?」
「あの姿から思うに、妖魔や下級の幻獣族じゃないかな」
「本当にそんな者を…」
異形の能力を欲してあらゆる妖魔を貪り食べている、我欲に取り憑かれた者の姿を思い浮かべて、マハトは本気で胸がムカムカしてきてしまった。
「…異常なことは、よく解った。だが幻獣族や妖魔なんて、魔障の可能性もあるし、そもそも致死毒を持っているものも多いはずだが」
「危険度は判ってるんだから、対策を立てながら計画的に食べたと思うよ」
「対策って、致死毒だぞ?」
「ヒトガタ種族には、人間と能力値が同じくらいの獣人族って種族がいてね。彼らは体に動物的な特徴を備えているんだ」
「動物的とは、犬とか猫とか?」
「他にも色々ね。彼らの中には、遺伝的に完全毒耐性みたいな特殊技能を持ってる者もいて」
「そういう者の特殊技能を、先刻タクトが言っていた詐欺行為で騙して奪ったんだな」
「特殊技能だけじゃなくて能力値も奪えるから、魔気の耐性も上がってるだろうね。元々魔導士だから、自身の魔力のコントロールは完璧だし」
「それじゃあ宴の食卓を使い続けてたら、最終的に神耶族よりも、もっと凄い生き物になってしまうんじゃないのか?」
マハトの発言に、こらえきれないと言った様子でタクトが笑った。
「なぜ、笑う」
『いや、すまぬ。確かにヘタレ風の言い方をするならば "理論上は" そうなるであろうが。しかし全く、現実的では無いのう』
「根拠は?」
『神耶族と同格の能力値を持つ生き物となれば、人間の言うところの "上級" しかも、筋金入りの古代種の幻獣族ぞ?』
「それが十匹必要ということになるな」
タクトの返事に、マハトは真面目な顔で答えた。
「マハさん、そんな相手は、人間じゃ最初の一匹だって討伐出来ないと思うよ」
クロスに言われて、マハトはハタと気付いたように「ああ…確かに」と言った。
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