ワケあり少年少女。ゲーム世界でカネ稼ぎ!

「カネが欲しいか? いい仕事があるぜ? 攻略不可能な冒険で稼げるんだァ!」
戸﨑享
戸﨑享

2 始まりを抜けて広い世界へ! グランドクエスト探しの旅

幕間 遊介おにーちゃんが頑張ってる頃……

公開日時: 2020年12月9日(水) 23:32
文字数:2,942

ここからは、他サイトでは見られないノベリズムオリジナルエピソードが開幕!


週に2回以上の更新を目指してやっていくのでよろしくお願いします!

 私のお父さんって本当にクズ!


 だって普通お母さんと娘を売る? そんなのフィクションの世界だけだと思ってたのに、まさかうちのお父さんがね!


 まあ、前からちょっと人間としてどうなのってところはあったけど、さすがにここまでとは思わなかったわ! お母さんは和菓子屋さんの経営を必死に頑張って、お姉ちゃんも最近跡取りらしくなってきて、それにイイ感じの男も手に入れてた、わが家がとってもいいところだったのに!


 私なんて別にどうでもいい。何だったら売るのは私だけにすればよかった。なんでも頑張って結果を残してきたお姉ちゃんとは違って私は口が悪いだけのクソガキだしね。


 黒服の連中が来たときは本当に怖かった……。


『おとなしくしないと命はねえぞ!』


 そんなことを言われたっけかな。あの時のことはパニックだったからあまり覚えてない。


 黒い車に私とお姉ちゃんだけ詰め込まれてどこかに連れていかれた。途中、遊介お兄ちゃんが気づいてくれて、それがちょっと嬉しかったかな。でも、その時はたいして期待はしていなかった。だってかなりヤバイ人達だってことは察することできたし。


 車でも目隠しされたし、私たちがどこに連れていかれたのかは分からない。持ち物も全部没収されちゃったし、口もテープでふさがれちゃってたし。


 次に視界が開けた時には、お姉ちゃんとも離れ離れになって、目の前に変な怖い男の人が一人。


「そう怖えェ顔で睨むなよォ、お嬢、ちゃん?」


 その人は私たちがこれからどうなるのか私に教えてくれた。その時交わした会話の内容ははっきりと覚えている。


「残念だけどなァ、お嬢ちゃんはこれから、わるーいお兄ちゃんのメイドさんとして売られちゃうんだァ。ブラックな俺らの界隈では需要があるんだワ」

「や、やだ……」

「そうは言ってもナァ、そういう運命だって訳ヨォ。へへへ、なあに死ぬわけじゃあない。可愛い女の子に傷はつけねえ主義だァ。だから安心してこれからのためにお勉強を頑張りなァ?」

「勉強……?」

「メイドになるためのお勉強ゥ! これからのご主人様に失礼がないように、その立ち振る舞い、知識、スキルをいろいろ身に着けてもらわないとなァ。ああ、もちろん教えるのは俺じゃない。ウチの女性スタッフが懇切丁寧に教えてくれるさァ」


 お姉ちゃんも同じ運命を辿るらしい。そしてもう二度とお姉ちゃんとは二度と会えないって言われた。


 初めて心がズドンと沈んじゃった。勝手に私のすべてを奪われて、きっと誰も助けてくれない状況。もうだめだって思った。


 せめてもの慰めのつもりなのか、私に与えられた個室は一級のホテルにも負けないくらいの設備だった。そしてその部屋に、さっきの男がいた女性スタッフがいて、しばらく一緒に暮らすことになった。


 私と一緒に生活をしながら、メイドとしてのいろはを身に刷り込んでいくらしい。早速初日から敬語の訓練があった。普段使い慣れていない分、30分ずっと使い続けるだけでかなり疲れた。女性スタッフは目を隠しているので顔が良く分からなかったけど、怪しいのは間違いなかったと思う。


 訓練の後の記憶が実はない。食事を差し出され食べろと言われ、それを間食した後『私の眼をみてー』とささやかれて、その通りにしたら意識を失った。


 次起きた時は朝だったけど、目を覚ました時、変に心地よかったことを覚えている。体がほんの少し痺れて、頭がぼーっとしてた。


 何より、望んでいなかったメイドの研修への嫌悪感が少しなくなっていた。


 絶対ヤバい。このままこの人と一緒にいたら私がおかしくなる。その危機感でいっぱいになった。


 まあ、それでもいいかなって思ってた。その時は、自分に未来はもうないと思ってたから、嫌じゃなくなるならその方がいいと。


 


 だからこそ驚いた。



 次の日、また同じ怖い男に呼ばれて部屋に行ったとき、同じ部屋にお姉ちゃんもいた。ちょっと色っぽくなったのかな……? 違和感があったのは確かだった。


 それでも、直後に言われたことで、そんな違和感ぶっ飛んでしまった。


「お前さんたちを買いたいと言って突撃してきた坊やが居てねェ。ちょっと面白い試みをやってる」


 見せられた画像には、どこかの知らない場所で必死に戦っている遊介お兄ちゃんがいた。


「遊介!」


 お姉ちゃんはさぞ嬉しかっただろうな。私だってこの人がお姉ちゃんのために頑張っていると聞いてめちゃくちゃ嬉しかったから。


 しかし、良いニュースと悪いニュースが一緒に来るのは世の常らしく、その時の遊介おにーちゃんは攻略不可能な戦いに挑んでいると言うではないか。


 それでも一筋の望みをかけて、私とお姉ちゃんは心の中でずっと遊介おにーちゃんを応援してた。


 だんだんと自分が変わっていくのが分かった。お掃除や洗濯、料理も得意になったし、ご主人様によっては夜伽についても必要になるのでその勉強もさせられた。幸いにも実践はなかったけれど、遊介おにーちゃんが死んだら、それも始めるらしい。


 毎日、送られてくる画像や動画の中で必死に頑張っているおにーちゃんを応援してた。


 それでも、心苦しかった。助けてほしかったけど、死んでほしいわけじゃない。何度も危険な目にあって、何度も罵倒されて、私だったらきっと心折れてただろうなぁ……。


 遊介おにーちゃんは折れなかった。ずっと、一人で私たちを助けるという一心で必死に各所を歩き回って、武器を振るって、戦っていた様子を私もお姉ちゃんもずっと見ていた。


 それがとても嬉しかった。そして格好良かった。


 今までは大したことない男で、なんでお姉ちゃんがあんな男を好きになったのか理解できなかったが、その理由がだんだんと分かってきた。映像の先で活躍するおにーちゃんを見るとドキドキした。


 そして。


 攻略不可能と言われた冒険を、戦いを、遊介おにーちゃんはクリアして見せた。奇跡のような方法で。


 すごかった。


 その後、本物と一室で再会した。私の家で働いてた従者の女性と一緒に部屋で待ってた。今まで何度も見たことがあったのに、あまりに格好良過ぎて、つい……

『ご主人様!』

 と、受けていた教育の悪影響が表れかけてしまった。めっちゃ恥ずかしい! 恥ずかしい!


 でも自然に言いそうになるくらいには格好良く見えてしまった。


 お姉ちゃんもめちゃくちゃ嬉しそうで、今にも夜をともにするんじゃないかと思うレベルでぐいぐい行くお姉ちゃんと、嫌そうではない遊介おにーちゃん。これはもう行ったか? と思ったけどさすがに状況が状況なので間違いは起こらなかった模様。


 その後、私とお姉ちゃんは、ゲームの世界の中と一緒に過ごした部屋では、お手伝いをしても良いというあの怖い男の許可も出た。


 完全に救われた形ではないけれど、メイドとして売られる件は遊介おにーちゃんが生きている限りは保留と言う形になって、私たちも一緒に借金返済のために旅をすることになったのだ。





 そして今。


「……さて、どっちに向かおうか……?」


 すごい武器を背負った遊介おにーちゃんを先頭にレリエットとリエル、そしてお姉ちゃんと私の5人パーティーで、魔法使いさんの示したグランドクエストを探す旅に出ている。


 こうして一緒にいられること、自由に振る舞えること、そんな当たり前のことがとても幸せであることを実感しながら、おにーちゃんにご奉仕する旅の途中だ。

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