さあ。
痛快なカネ稼ぎへの旅、その一文をご覧に入れましょう。
これはある少年の話。
少年がゲーム世界へと旅立ち、そこでお金を稼ぐために戦うお話です。
俺の人生には欠かせない要素がある。
はちみつをそのまま頂ける甘党の一員である俺の毎日の楽しみは、高校から家への帰り道にある、和菓子屋さんの菓子を食うことだ。
今時和菓子、しかもおしゃれなヤツではなく昔ながらのものを選ぶなど、さすがに爺趣味ではないかと、指をさされることもあるが、特に気にしない。なにせ、俺にとってはずっと前からある生きがいの1つなのだ。
「遊介。本日もいらっしゃい」
この店は、50年前の開業の時にこだわって作った和風の外観と木造建築を思わせる内装をしている。
窓際の席から外を見ると、今自分は過去から未来を見ているのではないかと思える。それもまた趣があっていいものだ。
「今日も彼女の試作品を食べに来たの?」
今俺に話しかけてきたのは、この店で働いているとされる、AI搭載生活支援用のサポートアンドロイドの1人。
見た目では本物の人間と判別がつかない。ひと昔はアンドロイドも細かな動きの滑らかさなどで見分けがついたらしいが、最近の技術は凄まじい。この人がアンドロイドだと知っているのも、本人から教えてもらっていたからだ。
「へへへ。だってさ、楽しみなんだよ。あいつの試作品を、ただで食えると言えば、毎日来るに違いないよ」
「今日のは自信作だって言ってました。さっき頂きましたけど、なかなかですよ」
「へえ!」
「少々お待ちを、お嬢様をお呼びしますね?」
お嬢様と言っているが、幼馴染の和奈の家は特別な家系でもないし、お金持ちと言うわけでもない。しかし、家で働いているアンドロイドは雇い主の娘を蔑んだ目で見るはずもない。お嬢様と呼ぶのは決しておかしなことではないだろう。
アンドロイド彼女の名前も知っている。リエルというらしい。頭に特徴的な黄色の花飾りをいつもしている。
「お願いします」
同い年くらいの彼女を見送って、しばらく次代の跡継ぎの到着を待つ。長女の彼女は将来どこかの菓子に興味のある婿をとり、店を継いでいくのだろう。
「はあ、いいなー」
もちろん和菓子の婿に行っても菓子が食べ放題というわけではないことくらいは分かっているつもりだが、それでも和奈と結婚できる男を羨ましいと思ってしまう。
なにせ和奈は学校でも大人気の美少女だ。見た目はもちろんのこと中身もいい。見た目に関しては言うまでもなく、この前の修学旅行で首都にいったがその時はスカウトマンの連中がかなりの数寄ってきたのがいい証拠だ。さすがに国の中でトップレベルとはいかないだろうが県で一番くらいなら取るのではないだろうか。もちろん俺のひいき目なのだが。
そして何より中身がいい。よく女性が好きな理由が優しいところというヤツをテレビで見るが、そんなありきたりな答えでも実は十分だということを、彼女から学んだ。
1年前から両親が行方不明となってしまい、親戚の俺を毛嫌いする叔母に見捨てられ独り暮らしを迫られたときにはこれからどうなるだろうと思ったが、そんな惨めな俺を見捨てず、お節介を焼いてくれる彼女にいろいろと恵んでもらっている。
しかし施しは時に争いを生むものだ。俺はクラスで、和奈に特別扱いされていることを題材にいじめを受けている。俺も学校では根暗でよく1人で教室の隅のほうにいる真面目系男子。基本的には2人組を組む場合でもハブられるし、体が触れたら汚いと思いっきり罵倒される。ナイフを出されて、和奈に近づいた刑とか言われて服を引き裂かれたこともある。まあ、いろいろひどいのだ。
それでも俺は、別に気にしていなかった。こうして和奈が見捨てないでくれたことだけで十分嬉しいから、毎日生きていて楽しい。
「遊介、おまたせー!」
和奈が来た。いつもの制服で、今日の試作品を目の前にだしてくれる。毎日来ているのだが、その顔はいつも同じく、笑みを浮かべ照れ半分嬉しさ半分といったところ。
「どう? 形もいいと思うんだけど?」
「ああ、もう俺から見れば店に出してもおかしくないと思うんだけどな」
「でしょう?」
「うん。味ももう俺からすれば十分うまい」
「これならお母さん認めてくれるかな……?」
最近は練り切りの練習をしているらしく、商品できるくらいの綺麗な形を目指して特訓中。もちろん形を整えるだけでなくあんから自分で作っているので、その味も重要なところだ。家でつくるのならともかく、将来商品で出すにはそれ相応の出来でなければ女将である母親が認めないだろう。
ちなみに、ここでする話ではないかもしれないが、その母が認めないことがもう1つ。
俺にワンチャンというものはない。まさに和奈は母親から認められていない1つとして、俺と和奈が結婚するのは絶対に許さないそうだ。小学校の頃からの付き合いであり、互いに対してそれほどの嫌悪感はない。故に恋仲になっても不自然ではないのだが、そこを和奈の母親はあらかじめ、俺を婿に迎え入れるという可能性は決してないと釘を刺している。
理由は和奈にも話していないらしい、
しかし分かる。この家は将来和奈が継ぐのだろう。俺のような何の取り柄もない男よりも可愛い娘をもっとステータスの高く根性のある男を婿に迎えたいのだろう。
そんな理由もあって、俺と和奈の関係はどれほどの時間を過ごしても恋仲に発展はしない。あくまで幼馴染。これまでもきっとこれからも。
「でもお前のお母さん厳しいからなー。まあ、またいろいろと言われそうだろ」
「ちょっと、何か思うところがあるのなら遠慮なく言って? そのためにわざわざ食べさせてるんだから」
「へーい。でも、うーん。何か家を言われても……ムズイ」
俺は和奈のお菓子を食べながら、彼女と話をするのが毎日の楽しみだった。
「もう、お姉ちゃんも好きねー。そんな冴えない男と話すなんてー!」
後ろから和奈の妹である、和音の冷やかしが飛んで来るのも、いつもの光景だけど、それも嫌な気分じゃない。
この席で、おいしいお菓子を食べながら、和奈と少しの時間、話ができるのが楽しかった。
「遊介、そう言えば今日ね――」
そんな俺の運命は、やはりと言うべきなのか、この店と和奈に関することで大きく動くことになる。
いつものように、高校の帰り道を歩いていると、ふと、珍しい黒い車が走っているのを俺は見かけた。
その時は気のせいだと思ったのだ。その中に泣いている和奈と和音がいるなんて。
しかし、俺はどうにも気になって、足早にその店へと向かった。
そしていつもの店で俺は信じられないものをみることになる。
そこには、『差し押さえ、侵入禁止』と書かれたテープがあちこちに、そして店の入り口の扉の中央に1枚の書面が張られていた。
契約内容。私白井敬之は、1億の借金を返すため、妻の公代、娘の和奈、和音の身柄を差し出します。
綺麗に血判が押されている契約書だった。
敬之というのは和奈の父親の名前だったような。行方不明になったと和奈から聞いていたが……。
悪寒がする。
さっきの黒い車、その中に居たのはまさか、連れていかれた和奈たちなのか。
なぜ、誰が、連れていったのか理由は分からない。しかし、このままではいけないのは本能的に感じ取った。
すぐに追いかけなければ。俺はそう思い振り返る。
「君ィ……、この家になんか用かぁ?」
振り返った目線の先に立っている男を見て、ビビった。
腕が大根の3倍は太いことからうかがえる、凄まじい筋肉質の男が、君が悪い笑みを浮かべて立っていた。
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