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戸﨑享
戸﨑享

24 第2の神殿でオーパーツの力を試す

公開日時: 2020年11月20日(金) 21:01
文字数:3,829

 魔法使いの言う通りにしてよかった。獣の強さが先ほどよりも段違いだった。普通に大剣では反応が間に合わなかったかもしれない。それでも〈オーパーツ〉の力は非常に強力で、俺が戦ってきた中で聖獣を除外すれば一番の強敵をあっさりと両断し焼き尽くした。


 その力を始めてガイコツさん以外に使ったので、改めて俺が今持っているこれがとんでもない者であることを自覚する。


 戦いを重ね俺はさらに上へ。とうとう木々も見えなくなり岩場と雪と氷だけが見える世界。


 その頂上付近に到着したとき確かに見覚えのある円柱状のエレベーターの入り口があった。


「神殿って、みんなこうなのか?」


「そんなことはないとも。君が飛ばされた神殿はちゃんと建物として存在しただろう?」



「ああ、確かに。何か違いがあるのかな」


「当時は神代の神秘を隠す派と隠さない派で分かれていたからなぁ」


 まるで見たことがあるような言い方。でも今はその不思議なリアクションは気にせず。俺は中へと足を踏み入れることにした。


「そう言えばお前ここで待ってるのか?」


「いや、帰るよ?」


 冷たい野郎だ。用が終わったらお帰りとは。しかしながら俺の方に彼を止める理由はない。特に反対意見を出すことなく、もう慣れたようなまだ慣れていないような感覚である2回目の神殿攻略へと踏み切った。


 昇降盤はまた下へと降りているようだ。山の中を掘り出して作ったとすればとんでもない大工事だっただろう。


 完全にエレベーターは下がり切り、いよいよ新しい試練のスタート地点にたどり着く。


 扉が開く。


 直後、俺に向けて飛んでくる矢を視認できた。


 いや、ヤバイ!


 反射で俺は炎を灯した〈ナイト・プライド〉の盾で、飛んできた矢を防ぐ。


 よく見ると結構遠くにある石像がこちらを見て弓を持っているように見えなくもない。再び矢が飛んでくる前に、俺は入り口から緊急離脱した。


 そしてこの神殿を見る。


 内装はガイコツさんがいたあそこと同じ雰囲気ではあるが内部構造がだいぶ違う。以前は入り口から足を滑らせたら終わりの一本道の先に戦闘場があるだけだったが、今回の空間はかなり広い。手すりのない道があるのは同じなのだが今回は一本道ではなく、道がいくつも分かれていて迷路みたいになっている。


 先ほど見えた石像は1つだけでなくここから見るだけでも結構ある。それらが全部弓を持っている。


「怖いねぇー。あれで油断した奴を蜂の巣ってことね……」


 幸いなことに出口を出てすぐ開始ではなく、入り口の近くには広めの足場が用意されていた。その先にある道が狭くなって奈落と隣り合わせになるところからが本当の始まりということか。


「ん……え……?」


 よく見ると入り口の近くに赤い液体がこぼれているのを見てしまった。まだ乾ききっていない。それほど量が多いわけではないのでかすった程度だと思うが、少し心配になる。


「だれかいるのか?」


 しかし俺の周りには誰もいない。もうこの先に行ってしまったようだ。


「行くか……?」


 深呼吸をして、自分に言い聞かせる。また聖獣のところじゃない場所で命を賭けなければいけないのに思うところはあるが、これもすべて俺が選んだ道だ。


「行くぞ!」


 道が続き始めるところに足を踏み入れた。


 途端、風景がガラッと変わった。先ほどまでなかったはずの壁が急に現れて視界をふさぐ。それだけではない、なんと壁を貫通して矢がめっちゃ飛んでくるようになった。さらにさらに、外にいためっちゃ強い獣が召喚され始める。


 これは、聖獣との戦い並みの理不尽を要求されているのでは?


「……これは、ヤバイ」


 退路は炎によってふさがれた。これは前のガイコツさんの時もそうだった。


 行くしかない。盾で飛んでくる矢を防ぎながら、殺気立っている獣の飛び掛かりを冷静に炎で模った剣で斬っていく。


 矢には炎が灯っているので、盾で防ぎながら魔法で炎を奪うことで炎を消費を抑えられる。基本的にはこれからも炎を使ってくる相手から炎を奪うことで少ない炎を補うことになるだろう。〈オーパーツ〉は使っていると急激に炎を失っていくので、炎使い過ぎで命尽きないようにするためには必要な工夫だ。


 召喚される獣を倒し続け、矢を防ぎ、潜り抜けながら必死に道を走っていく。


 少し進むだけ分かる。ここは厳しい神殿だ。


 ところどころに骨、死んだ人の遺品、血の痕が見受けられる。これはこの神殿の仕掛けの猛攻に耐えられなかった人たちがやられてしまったということなのだろう。


 しかしところどころ新鮮な血の一滴が落ちている。


 やはり誰かいる。俺はどこかで会えるかもしれないという期待を胸に必死に走った。


 迫る矢の数はどんどんと多くなってきている。そしてそのたびに、最近の血痕は量を増やし続ける。まずいような気がしてきた。


 落ちないように最大限の注意を払いながら、俺は堅い床を蹴って進んでいく。


「がぁ! ……クソがぁ!」


 やはりいた。誰かがこの先で何かをしている。


 爆発音。何かがぶつかる音。金属と金属が激突して、不快な音が俺の耳に届く。


「まだ……う、ぐぐぁあああ!」


 叫んでいる。がどうも苦しそうに聞こえる。まずい状態になっているのではないか。


 迷路の最後の方になると矢が同時に三本飛んできたりしたが、何とかそれを加速魔法と炎の盾を使って潜り抜けて迷路から脱出する。


 そして開けた場所に出た。当然と言うべきか、偶然と言うべきか、そこはガイコツさんと戦った場所によく似た決戦場だった。


 しかし戦っているのは屍の兵ではない。


「聖獣……?」


 聖獣とは神代が造った生物兵器のことを指すという。そこには今までの獣よりもやや大型でまさかの二息歩行をする、メカメカしい足のパーツを持った生物だった。その手に日本刀に近い形の曲刀を持ち、紫の炎を宿している。


 俺の足元には折れた剣先が落ちている。


 この剣に見覚えがあった。俺はその生物だけでなく周りを見る。


 アルトだ。


 まさかこんなところで再会をするとは思わなかった。立ち上がっているがもはやふらふらして戦うのは不可能になっている様子。


 向こうも俺に気が付き、すぐさま怒りの表情を顔に浮かべるが、その意気を続けられるだけの体力もなくすぐに顔が歪んだ。


「何をしに来た……あれは俺の……! 俺の得物だ……! 消えろ!」


「もう死にそうじゃんかよ」


「黙れ! みんなこいつに挑んで死んだ。俺はここに封印されている薬草を手に入れる。分かったら失せろ、これは俺の戦いだ!」


 声がかすれている、その場で再び膝をつき、もう次攻撃を受けたら死にそうになることだろう。


 しかし、なぜ明日聖獣戦なのに、今日こんな無茶をしたのだろうか。


 ……それはきっと俺のせいだろう。嫌いな俺が〈オーパーツ〉を手に入れたから、焦らせてしまったのかもしれない。


 ここで俺が助けたらきっと、さらに恨まれるに違いない。手を出さないべきか。


 ――いや、それも違う。ミハルもカナも、ドウコクさんもそうだが、動けるからこそ行動を起こせる。無様に死ぬことが美ではないだろう。目的もここで死ぬことじゃない。生きて、聖獣を倒すことだ。


 くだらないプライドで目的を違えてはいけない。それは俺が一番よく分かっているはずだ。


「手を出させてもらうぞ」


「貴様、なんかに、助けられる、なら、俺には死と同じだ!」


「どうしても納得いかないというのなら後で死ねばいい。だけど、俺達が戦うのは死ぬためじゃないはずだから。俺は君を助ける」


 また何か叫んでいるがもう聞かないことにする。


 ここに持ってきた武器は〈ナイト・プライド〉、間違いなく今の俺の全力だ。


 俺も生きて戻るために、あの聖獣的な二息歩行の剣使いに挑む。


 ガイコツさん。見ていてくれ、貴方との修業の成果、ここで思いっきり生かす!


 獣は飛び出した。やはり加速魔法を使って一瞬で距離は詰められる。


 剣の突きを俺は盾で弾き反撃を試みるが、一瞬早く追撃の膝蹴りが届きそうなので、俺は急きょ加速魔法で右に躱した。


 反撃。上段から思いっきり斬りつけようと振ったが弾かれた。


 二息歩行になった獣とは思えない位に器用に剣を振ってくる聖獣もどき。


 舐めるなと言っても無意味だろうが、心の中ではそう思う。ガイコツさんが何度も何度も手合わせをしてくれた、その時の方が剣は速くて怖くて、一撃一撃が俺の体を二つに分けそうな勢いだった。


 それに比べればこの程度、怖くはない。


 盾で防ぎ、剣で弾き。刃こぼれの心配が要らない炎の剣と傷がつかない炎の盾で、相手の猛攻をしのぎ続ける。


 そして、攻撃は狙いを澄まして。それがガイコツさんや、レリエットも言っていた戦いの心得。


 ただ武器を振るうのでは暴れるのと何の変わりもない。戦いとは頭を使っておこなうものだ。


 それを訓練の中で学んだ俺には、その聖獣は暴れているだけだった。


 特別な才能がない俺でも、今、相手の隙がよく見える。やはり何事も練習は大事なのだと実感する瞬間だ。


 右手に持った炎の剣を一振り。相手の獣に炎の刃がしっかりと当たる。


「グゥアアアアア!」


 怒り狂って俺に襲い掛かってくるが、それこそ素人目でもどうすればいいか分かる。


 ガイコツさんに比べて、この聖獣もどきは、俺の敵じゃない。相手の剣が盾に接触した瞬間に俺は盾の炎を噴射させて思いっきり相手のバランスを崩して、同時に剣を突き出した。


 剣は聖獣もどきにしっかりと刺さって、そこからどんどんと俺の炎の色で燃え始める。体が消えるのはそう遠くない時間の後だった。


 あの聖獣に比べたら大したことはないが、やはり勝ちは嬉しいものだ。やったぜ。


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