聖獣もどきを倒したあと、一番奥の小部屋に目的のものはあった。
宝箱にでも入っているのかと考えていたのだが、そんなことはなく室内には薬草専用の畑があり、土に根を張り生気溢れる緑の葉を垂らした素敵な植物がたくさん存在していた。
とりあえずあるだけ持っていくともったいないと思い半分だけ頂戴した。残りの半分はまだここに残しておいて、空いている土にまた新しい子孫を残してくれることをちょっと祈ってその場を後にした。半分でも相当な数だ。少なくともミハル、カナ、そして他にもけがをして動けなくなっている奴らに使ってもまだまだ余りがあるレベルだ。
その部屋を出て俺はすでに意識を失いかけているアルトを連れだす。ついでに二息歩行の暴れ獣が使っていた曲刀を回収した。どうやらこれも〈オーパーツ〉のようだ。
アルトは俺に担がれていても文句が言えないほど弱っている。すぐに薬草を使って回復できないモノかと考えたものの、そう言えばこの薬草の使い方を訊いていないという愚行に気が付き、いち早く集落に戻って魔法使いを問い詰めたいと思った。
しかし意外や意外。その魔法使いは神殿を出たところで待っていたのだ。
「帰るんじゃなかったのか?」
「ああ、そのつもりだったけど君に肝心の薬草の使い方を教えていないことに気が付いてね」
魔法使いにアルトの応急処置を行ってもらい、その後すぐにテントへと戻った。
魔法使いは薬草のことをよく知っているようでさほど迷う素振りも見せず薬草を――燃やした。
「まずは炎で薬草の外皮を柔らかくしてから絞るんだ。そうしないと手で絞れないからね」
「結構要りそうだなそれ」
「そうでもない。この薬草は呑んだ人の炎に一時的に碧炎と同じ力を与えられるものでね。一滴でも飲ませれば効果は十分出る。碧炎は復元の力を持つ炎だからね」
「そうなのか」
テントで横になっているアルトに魔法使いが一滴の薬草から抽出した液を飲ませる。
するとアルトの全身が彼の使う青の炎に覆われる。
「本当に大丈夫か? このまま火葬なんてことは……」
「僕を信じてくれないのかい。僕は意地悪だけど嘘はつかないよ?」
後は意地悪な性格を直してほしい。人がへこんでいるときに笑みを浮かべるのはよくない癖だと思う。
確かに嘘は言っていないようだ。酷い傷を負ったはずのアルトがすぐに目を覚ました。
「お前……!」
俺をみて大変不快な目覚めのようで早速激怒しそうだ。が、意外にもその怒りの顔は静まる。
「俺は、助けられたのか。お前に」
俺とて望んで挑発をしたいわけではない。口答えの内容を考えいるところ魔法使いに先を越されてしまう。
「そうだね」
それくらいなら俺も言えるし……損した気分だ。
「そうか」
アルトは動くようになった右腕で目の部分を覆う。なんと頬を1つの水滴が流れ始めた。まさか泣いている?
「情けない……俺は。あんなに悪口を言ったこいつに救われたのか」
「それだけじゃない。遊介は君が勝てなかった守護者を倒して薬草を取ってきた。それで今の君は生きている」
「……そ、そう……か」
「悔しいのかい?」
「……あたり、まえ、だ。俺は、こんなに、頑張った……! みんなにコミュ障だって陰口を言われても、無謀なことしかしない馬鹿だと罵られても、ドウコクさんと一緒に作ったここで、厳しくても聖獣を倒すために金属を取ろうとした、神殿にも挑んだ。この場所で鍛え上げてきたんだ。なのに……よりにもよってこいつに……!」
俺だって反省していないわけではない。と自分では思っているのだが。
「反省と言うのはなにも引きこもって自分の罪に苛まれることを言うのではない。自らを省みて己の悪行と向き合い、自分の行いで失ったものの代わりを果たすことを言う。その点においては、彼は十分に反省している」
「そんなこと……」
意外にも魔法使いが俺を擁護してくれている。意地悪を自称するのなら、ここで俺を追い詰めるようなこともあるんじゃないかと考えていたが、それは意外な流れだ。
「現に彼は強くなった。聖獣に及ばないのをきちんと自分の力不足と認めて無様に助けを乞うて強くなった。そして今は、自分のせいで失ったものを取り戻して聖獣を倒すために行動を始めている。今までの彼の行動はすべて非難を受けるべきものではない」
「……ああ。分かっている。……俺は親父のように、自分の意志を貫くだけの害悪とは違う。認めざるを得ないだろうな。俺は、助けられた」
アルトはそのまましばらく泣き続けていた。
俺は彼にかける言葉は持っていない。その代わり俺は先ほど教えてもらった薬液の作り方を実践した。今俺たちが入っているテントとは違うテントの中に、アルトが仲間だと思っている奴の唯一の生き残りが、意識不明の重体となっているらしい。
薬液の独特なにおいは不快に思うものではないはずだが、アルトが起き上がって葉っぱを絞って液を出している俺に初めて怒りの言葉以外の話を持ち掛けてくれた。
「遊介。すまなかった」
「え?」
今までがひどい言葉ばかりだったのでこのようなことを言われるのは実に新鮮だ。
「俺はお前を親父と同類の屑だと思っていた。だが、お前は少なくとも、成果を出した奴だ。その分、俺はお前の認識を改める。だが」
「許さないところもあるってこと?」
「そうだ。俺はまだお前を許すわけじゃない。本当に見直してやるのは」
「聖獣を倒してから」
「分かっているのならそれでいい。……薬草をくれ。俺の大事な仲間なんだ。初期メンバー以外で珍しく俺についてきてくれた奴なんだ」
「分かった。なんなら飲ませてくるけど」
「必要ない。そんな体力があるのなら集落に、テントの奥に隠してある鉱石を持っていけ。奴らの武器や道具を強化できればきっと攻略が進む」
確かに金属武器や道具は使えるといいことがあるかもしれない。俺が持っていったら断固拒否されるかもしれないがこっそり鉱石だけ置いておけば、使わない手はない。何ならタケやまつひろさんが見つけたことにすればいいのだ。
アルトは起き上がるのもだるそうだ。怪我とは別にあの神殿での肉体的な疲労が来ているのだろう。それって俺もなのではとは思うが、俺は〈オーパーツ〉にかなり助けてもらっていたので、自力であの奥まで言ったアルトはやはりすごいと思う。
薬は自分で与えると言うので、俺は魔法使いと一緒にこの場を後にすることにした。
登りの時と違って降りの時はそれほど苦労はしなかった。
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