ワケあり少年少女。ゲーム世界でカネ稼ぎ!

「カネが欲しいか? いい仕事があるぜ? 攻略不可能な冒険で稼げるんだァ!」
戸﨑享
戸﨑享

33 魔法使いの目的、そして新たなる旅立ち

公開日時: 2020年11月29日(日) 19:30
文字数:3,682

 翌日。


「おはよう」


 目覚めたら魔法使いがそこに居た。


 周りをよく見ると、初めて異世界に来た時と同じ神殿の中だった。


「いいお目覚めかな?」


 全く良くない。せめて和奈たちに『いってきます』くらい言いたかったのだが、それはあの巨漢が許さなかったのだろう。


「向こうであの巨漢にあった」


「ああ、グオルンドさんね。彼の事情は聞いたのかい」


「まあね。ビジネスだって」


「彼は根っからのカネ稼ぎマンだからね」


 魔法使いに手を差し伸べられ、俺は立ち上がる。


「さて、彼が今言えるすべてを白状したのなら、僕もそのすべてを白状しなければね。しばらく時間もある」


「時間がある? ここで何かあるのか」


「それは後でのお楽しみさ。まずはやる事をやってからだ。少し外へ行こうか。またここに戻ってこられる時間はあるさ」


 そう言って勝手に歩き出す。


 別に言う通りにしない理由はないので、後について行くことにした。


 神殿の中は、前に初めてこの世界に来た時と同じ感じだったので問題はない。


 懐かしい道を通って神殿の外に出た。


「アレ……?」


「気づいたかい?」


 遥か彼方。無限に広がる世界が今の俺の目にはっきりと映っていた。


 そう、俺達をこの大地に閉じ込めていた雲のようなもやが今はなくなっていたのだ。


「標高の高いところだったんだな。ここからでもかなり遠くの景色がよく見える」


「異世界。その存在を知っている君にこれ以上隠す必要はない。それに、君の仲間たちにもね」


「みんなもいるのか」


「カネ稼ぎ、やっぱり100万円程度じゃ足りない人も多いみたいだよ。だから皆ここに戻ってきて新しい冒険に旅立とうとしているのさ」


 なるほど。それなら、後でまた会えるかもしれない。あの聖獣戦の後、あの戦いの勝利を、その時の喜びを分かち合うことなく俺達は元の世界へと戻ったから、俺はもう一度だけ会いたいとは思っていたのだ。


「聖獣を倒したからこうなったのか」


「いいや。僕が消した。もう必要ないからね」


「はぁ?」


 またこいつか。


 しかし、確かに前も言っていた。別のことに力を使っていると。


「チュートリアルの聖獣を倒せないような人達にここから外の世界は厳しいからね。出ないように閉じ込めていたのさ。後は、連中に見つけられないようにするためだ」


「連中?」


「聖獣をこの地に呼び出した者たちだよ。彼らは僕と異世界からやってきた者を排除して、さらにはこの神殿を制圧しようとした。この神殿は僕の炎で活性化しているから、彼らに見つかると危険だったのさ」


「危険? なんで」


「この世界の人間にも、君たちの世界の存在を知っている者がいる。彼らはその世界が魔法も聖獣もいない世界だと知って、制圧して己らの領地にしようとしている。おそらく君の世界から来て、彼らに良からぬことを吹き込んだ者がいるのだろう。僕すら知らない謎の来訪者だ」


 制圧、ということは、俺らの世界を魔法なり聖獣なりを使って、戦争を起こし支配しようとしてるということか。


 魔法使いが再び神殿の中に歩き出したので、俺はまた彼について行く。


 今来た道を戻りながら、魔法使いは話をする。


「この神殿は僕が司るものだ。その機能は、異世界とこの世界を繋ぐこと。数多くある僕の発明魔法のなかでも、最も恐ろしい魔法かもしれないね」


「え、じゃあ、俺らの世界とこの世界をそもそも繋げたのはお前なのか?」


「発見はもう500年も前だったかな。ちょうどこの神殿を見つけて、未完成の大魔法を完成させることでこの神殿のなりそこないは本当の神殿となった」


 500?


 こいつ今何歳だ? どう見ても爺という感じはしないのだが。


「面白そうだったから、向こうの世界に干渉はしないように、度々見聞しに行っていたよ。なにせ、かつての大戦争からやることがなかったからね、今までの倦怠がとても晴れたものだよ。まあ、今になっては、面倒なことになってしまったと思うけどね」


「向こうで聞いたけど、その面倒なことって、お前の野望とやらに関係あるのか?」


「こうして君たちを導きながら、こちらの世界の人間が君たちの世界に行かないようにするための抑止力として戦わせる予定だったって言ったら怒るかい? でもやめる気はないけどね。これは、君たちの世界を守るために必要な手段だ」


 別に怒りはしないが、それは協力するつもりも毛頭ないからだ。


「俺には関係ない話だしって顔をしたね? だが、そうはいかないよ?」


「なんで?」


「そりゃ、僕が用意したクエストを君たちはクリアしなければならない。そしてそのクエストはクリアしていけばおのずと僕に協力するような流れになっているのさ。世の中はうまくできているものだよ」


「なるほどね……抜け目がないなお前」


 神殿に戻ってきたとき、そこには新たに人がいた。おそらく向こうの世界から送られてきた者たちだろう。


 ……ん?


 んん?


 その中の1人はリエルだ。引き続き俺に協力してくれるという話になっている。


 そして残り2人は信じられない顔ぶれだった。


「はぁ……?」


「さて僕とグオルンドくんからのサプライズだ。面倒は否応なく君が見るんだよ」


 嘘だろ。


「あ、遊介」


「遊介おにーちゃん。なんかこっちで見ると少し逞しく見えるねー」


 和奈と和音だ。


 まさか、条件っていうのは。


「いやいや、可愛いね。遊介くん。君が頑張る理由が少しわかった気がするよ」


「魔王様。あなたであってもお嬢様に手を出すのは許しませんよ」


「おや怖い怖い」


 信じられない。


 今、この魔法使いのことを変な呼び方で呼んでいた気がするが、今はそんなことどうでもいい。


「その、来ちゃった。遊介、私、あなたと一緒に居たい。ダメかな」


「ダメもなにも、そんなことない」


 むしろ俺が断って勝手な行動をされる方が危険だ。とりあえずは俺が何とか身に着けた技能を彼女にも身に着けてもらわないことにはこの世界では死ぬ。


 やや急展開な気がするが、俺は彼女に手を差し伸べた。


「行こう、和奈。俺が守るから。そして必ず、この世界を攻略して、元の生活に戻るぞ」


「うん」


 俺の手を握った和奈の手は相変わらず、とても温かかった。






 魔法使いの後をついて行く。


 かつて聖獣が戦ったところで、皆は待っていた。


「あら来たわねー。あらあらら? ゆーすけちゃん。今度は面白い子をつれているわねー」


 まつひろさんの声で皆、俺が来たことに気が付く。


「みんな、いるんだな」


 ミハル、カナ、タケ、シルグイ、パンチー、そしてアルトまで居るのは意外だった。


 ミハルが一番に俺の元へと駆けよって、


「よかったー、君も来てくれて」


「俺を待ってたのか?」


「そうよー。この先どこに行くかはまだ分からないけど、出発はみんなでしようって」


 カナとタケが彼女に同意の頷きをする。


「やっぱり私たちを勝利へ導いてくれたヒーローがいないと締まらないからね」


 さらにアルトも、

「俺がドウコクさんの他で初めて認めた男だ。逃げないかどうか心配でついここにきてしまった」

 とやや恥ずかしがりながら言ってくれる。


 仲間らしい団結で聖獣に勝ったわけではないが、ここにいるのは間違いなく仲間なのだと実感する。


 そして。


 パンチーとシルグイは俺に気づきながらも、俺に何かを言うことはなかった。


 その代わり。彼らの近くにいる男に俺は目を奪われる。


 魔法使いは言った。


「あの霧で世界を覆い、残り火をたいまつに残させていたのは、生命の源たる炎を世界に拡散しないようにするため。今回限り、二度とできない大魔法を使うためだ。蘇生の魔法。こちら側の世界の住人として転生させることで蘇生を果たすことができる。いずれ何かまずいことを引き起こすかもしれないけれど、死んでいるよりはいいだろう?」


 ああ。死んでいるよりはいい。その男は俺を見るとすぐに駆け寄ってくる。


「ドウコクさん……」


 俺のあの時庇ってくれた恩人。自分にも果たさなければいけないことがあったにも関わらず、俺を救ってくれた男。


 死んだはずだったその人が生きている。


 そう、すべてに意味があったのだ。あのたいまつのことであっても。


「ありがとな。聖獣を倒してくれて」


 涙が溢れそうだったが、ドウコクさんはそれを許さなかった。


「泣くなよ。お前さんにはやってもらわなければいけないことがあるんだからな」


「え……」


 ドウコクさんは俺の腕を掴み、その腕を上げる。


 そして懐かしい大声で、皆に向かって宣言した。


「みんなぁ! こいつこそが、俺達を勝利へと導いた英雄だ! 聖獣と戦ったすべての同志たち、そしてそれを支えた者たち、君たちの奮闘は、こいつの手によって1つの素晴らしい結果へとたどり着いた。俺はそれを偉業と考える。みんなもそう思うだろう! そう思うなら、みんなでこいつに最高の拍手を送ろうじゃないかぁ!」


 ドウコクさんはやっぱりすさまじいリーダーシップを持っていて、この人の叫びとともに皆が拍手を始めたのだ。


 もちろん、まだ俺を良く思っていない人もいると思うが、この場においては恨み言が飛んでくることはなく。


 俺はようやく、ようやく認められた気がしてとても嬉しかった。そしてすごいことをやった実感がさらに湧いてきて、とっても嬉しかった。


 新たな旅立ちの門出に最高の贈り物を貰った。


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