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「カネが欲しいか? いい仕事があるぜ? 攻略不可能な冒険で稼げるんだァ!」
戸﨑享
戸﨑享

28 戦いを前に、ドウコクさんに挨拶に。

公開日時: 2020年11月24日(火) 19:30
文字数:4,386

 再び集落に戻ったとき、俺達を待っていたかのように入り口でパンチーが立っていた。


「パンチー、……怪我が」


 シルグイが彼に諭そうと発言するが、対するパンチーは一言。


「戦いの結末は先に帰ってきた連中に聞いた。関係のない妖精を巻き込んで捨て駒にしようとしたクソみたいな行為。ドウコクの兄貴は絶対に許さないぞ。兄貴は、遊介が今持っている彼女とも和解できないかを考えていたことは知っていたはずだ」


「でも、でも! 俺達が勝つには」


「仮に人手不足だったとして、仮に自分達に聖獣を倒すだけの力がないと自覚したからと言って、それはだめなことだ。シルグイ、兄貴分としてまつひろさんがかなり怒っていた。説教を受けて頭を冷やすことだな」


 パンチーは少し穏やかなを繕ってから俺に、


「すぐそこの緑の屋根のところに空きのベッドがある。そこを使ってくれ」


「いいのか」


「おかえり遊介。アニキもきっと喜んでくれるさ」

 と、集落に入っていいと言ってくれた。


 俺を恨んでいると前に言っていた彼からお帰りと言われると、今までの努力が無駄ではなかったのだと思えて心が震える。


 ――泣きそうになっている場合ではない。


 俺は案内された通り、走ってパンチーが案内してくれたそのベッドへと向かって行く。


 一方でパンチーは魔法使いからボロボロのシルグイを取り上げると、まつひろさんが待っているテントへと連行したようだ。魔法使いはレリエットの救出方法を教えるために俺についてくる。


 緑のテントの中はベッドが比較的多めだ。結局集落にはほとんどいなかったのでこの建物を知らなかったが、ここはおそらく救護室的なところなのだろうと思う。


 レリエットをベッド寝かせる。


「あつ……!」


 体が高温だ。熱がある。


「はぁ……はぁあ」


 空気を何とか取り込もうと必死に呼吸しているようだ。表情はとても苦しそうで、悪夢にうなされているかのようだ。


 魔法使いが横になったレリエットをじっと見て語る。


「彼女は怪我自体は大したことはない、だけど、命と同義の花畑の花を守るために、炎を使いすぎたようだ」


 炎の使い過ぎがまずいのはレリエットも変わらないということか。ライフクリスタル、その輝きを支える体の炎がなくなれば死んでしまう。彼女のものをみると、もう2分の1個しかなかった。まだ徐々に減少している。


「どうすれば……」


「仕方ないか。こうなったら誰かが炎を分け与えてあげるしかない。1個、いや、2個になるくらいまで与えれば症状は良くなるはずだ」


 仕方ない、と言うからには手段を選んでいられないほど、結構追い詰められている状況なのだ。きっと。


「俺、いつも吸ってもらっているからさ。どうやってあげれば」


「キスとか」


「ふざけてると殴るぞお前」


 この期に及んで冗談を言うとは。本当に意地悪――。


「いや、冗談ではないんだけど、まあ、〈フレイ・シルド〉の時と同じように、炎を彼女の方へと移して、彼女に入れって願えば大丈夫だよ」


 冗談ではなかった。それはすまない。しかしさすがに意識がない少女の唇を奪うのはいかがなものかという話なので、代替案をくれたことに一安心する。


「願えば?」


「魔法は願いを叶えてくれる。ずっと言ってきたことじゃないか」


 確かに今までもずっとそうだった。炎は俺の意志にこたえてくれる。俺が使わせてもらっている、〈ナイト・プライド〉だってそうだった。


「分かった」


 迷っている暇はない。俺は炎を発生させて彼女へと移していく。


「姉上……いや……!」


 炎を流し込み始めてまだそれほど時間は経ってないので効果はまだ出ないだろう。レリエットが悪夢にうなされている。それはこんな状態になってしまったからか。


「はぁ……いかないで……ああああああ!」


「レリエット……大丈夫か」


「ここまで来たのに、姉上、見捨てないで。私も、もうすぐ、そっちの世界に……!」


 だめだ。返答はない。まだ目覚めるまでは時間がかかりそうだ。


 しかし、気になることを言っていた。姉上? ここまで来た?


 ここまで、というのはこの大地のことだろうか。ならば、そっちの世界と言うのはまさか。


 いや、まさかそんなことはあるまい。レリエットが俺達の世界を知っているような素振りはなかった。俺の知らぬ話だろう。


「……う、うう……暖かい、でも怖いよぉ」


「おい、泣くなよ……」


 参った。泣き始めてしまった。俺、何か悪いことをしたのか。


 ていうかそろそろ俺の炎の残量の方がヤバそうだ。


 俺は食い物が来るまで、なんとか待つ。


「……いや、待つ必要ないなこれ」


 テントの外にこちらを見てニヤニヤしている男が1人。どう考えても魔法使いだ。


「おい! 食い物持ってきたならよこせよ! 炎が足りない!」


「おおっと、バレたか」


 魔法使いはへらへらと笑いながら俺に焼いた肉を持ってきた。恐らく俺がこの前たっぷり差し入れたやつの一部だろう。


 俺は差し出されたそれにかぶりつくと、へらへらしているこいつになんで笑っているのかと訊いてみる。


 するとこの野郎、もうこの野郎と言ってしまうがこんなことを言ったのだ。


「花の妖精に炎を送り、その炎を妖精が受け取ると、それは婚約の証なんだよ。花の妖精は栄養をくれる主に好意を本能的に持つようになる。最低だね、寝込みを襲って君は」


 は? ……は?


「てめえやったな……!」


「君はいったろ? 対価はなんでも払うって。だから、久しぶりにイケないことをしている人間の姿を見せてもらうとおもってね」


「クズ野郎!」


「まあでもいいじゃないか。聖獣は強敵ならば、彼女の手助けは必要になる。いやいや手伝わせるか手伝わないという選択肢がないのなら、どんな手を使ってでも彼女の協力を取り付けるのが一番だ」


「それは、だって」


 聖獣との決戦を約束したのは俺だ。なら、他のみんなを死地に誘うわけにはいかないだろう。もちろんレリエットも。


「いくら君がオーパーツを持っているからいっても、可能な限りの準備と仲間を集めたまえ。それだけが君にある唯一の勝ち目だ」


 ド正論。そこに関してはぐうの音も出ない。確かにあの聖獣と相対するなら味方は多い方がいい。


「それに、たぶん彼女もまんざらじゃあないと思うけどねぇ……」


 やっぱり俺、この魔法使いは嫌いだ。後でレリエットには土下座で謝ろう。






 炎の譲渡が終わってレリエットは安静状態になった。何とか一安心だ。


 魔法使いは新しくこの世界に1人来そうな感じがあるという予感から、俺がレリエットの炎を渡したタイミングでこの村を離れている。

夜。


 寝るにはまだ早いと思い、紫の炎のたいまつの前で1人立っていた。


 意外な形にはなったが明日は決戦の日となった。それまでにやらなければいけないことは非常に多かった。


 俺は明日生きるか死ぬかだ。その前に、アルトから託された金属をとりあえずこの集落に寄贈した。どうするかまつひろさんやタケ、パンチー等が話し合って決めているらしい。


 ミハルたちはまだ目を覚ましていない。もう一度会いたかったが、それは叶わなそうだ。


 こうして振り返ってみると、平和だった集落を俺は本当にぐちゃぐちゃにしてしまったのだと実感する。目の前の紫の炎を見て、罪の意識が芽生えてしまう。


 その償い、と言うわけではないが。俺はこの世界に対しての認識を改めて、こうしてここまで頑張ってきたつもりだ。


「ドウコクさん、大剣ありがとう。これのおかげで戦ってこれた。だけど、明日は本気で行くから、これ今のうちに返しておくね」

その紫の炎の下に大剣を置いた。いつかこの炎の前で返そうとは思っていた。まさか今日だとは夢にも思っていなかったが。


「絶対勝ってくるから」


 これが俺の意志。もはやそれに迷いはない。


 ドウコクさんに後を託されたのだ。必ず成果はあげてみせる。


「ここにいたのね、遊介」


 ん。


 声がした方へ振り返ってみるとそこにはレリエットがいた。


 あ! あのことを謝らなければ。


「あなた、私が苦しんでいる間に変なことしたでしょ。なんか、その……まあ、ええっと。とにかく!」


 土下座。


 有言実行と言うのは誠意を見せるうえで実に大切なことだとこの世界で学んだ。今もまたきっと効果があると信じたい。少なくともここで殺してやるーなんてことは願い下げだ。


「どうせあの意地悪魔法使いの仕業でしょ。別に怒ってないわ。それよりも、その、一応契約は結ばれてしまったのだし、手伝うから聖獣戦」


「いや、それは」


「魔法契約は絶対よ。炎をくれた主のために戦わないと天罰が下る。必ず勝って私を生かしてくれないと次は許さないんだからね」


 善処します。


 反論できる場ではないのだ。そそのかされたとはいえ、俺が炎を彼女にあげてしまったのだから。


「分かった。頼む」


「私は支援が得意なの。前衛はあなた。それでよろしく。……私、花畑に戻るわ。どうなってるか心配。だけど、貴方が平原に降りてきたら必ず行くから」


 レリエットはそれだけ言うと集落の外の方へと歩き出した。


「あなた、仲がいいわね」


「まつひろさん」


 現れたタイミング的に見られていたのは間違いない。


「浮気?」


「まさか。俺は幼馴染を助けるために戦うんすから」


「そうね。でも、明日なんて急ねぇ。貴方は常に問題を抱えて生きるタイプかもね」


 まつひろさんは俺の分の飲み物を持ってきてくれたようで、俺は素直にそれを受け取った。お茶、だろうか。焦げ茶色の液体を俺は口に入れる。


 疲れているように見えるのは会議がかなり長引いたからだろう。目がいつもより細くしか開いていない。声はいつも通りだが、聖獣戦を終えたばかりなので疲労や怪我もかなり累積しているはずだ。


「明日、私も出ようかなって考えてるわ」


「いや、でもその傷と疲労具合じゃ」


「ええ。足手まといになっちゃうかもね。だから、万全になってから。明日までに何とかするから。パンチーももう寝たわ。明日まで完全回復して、遊介の戦いに参加するんだって」


「パンチーが?」


「あの子、あなたが集落から失踪したときかなりへこんでたのよ。強く言い過ぎたかなって。だから強くなってあなたが戻ってきたとき、内心結構喜んでたのよ」


 そうだったのか。


 パンチーも俺を心配してくれていたとは、嬉しい限りだ。


 まつひろさんはお茶を飲み干した俺のカップを、気を使って回収してくれた。






「お嬢様、とても上手ですね」

現実世界で、AIアンドロイドのリエルと俺が、和奈の和菓子を食べ比べている。

これが夢であるのはよく分かった。

「凄い上手くできたの。どう、遊介?」

だけど、元気な和奈を見られたのは幸先がいい。

この光景はもうすぐ夢ではなくなる。

連れ去られた彼女を助け出すために。

「ああ。おいしいよ」

俺は戦うのだ。もう一度この大好物のお菓子を和奈に作ってもらうために。





いい夢だったが、あぶねえ。

もう朝だ。いや早朝日が昇る前。まだ皆起きていないだろう。

「これは俺の戦いだからな……」

誰にもバレないように、俺は〈ナイト・プライド〉を手に歩き出す。


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