剣と盾を使っていた武人だっただろうガイコツさんから、武器の使い方だけでなく新しい魔法を何とか教えてもらった。
使いこなすには当然しばらく練習が必要だが、加速魔法に比べれば大したことはない。そう時間をかけずに、身に着けることができるような気がする。
ガイコツさんはいつの間にか消えていた。というのも、どうやらオーパーツがガイコツさんの命の維持を手伝っていたようで、それを俺に渡した今、残っていた生命維持の力を使いきるまでを期限に、俺に集中特訓をしてくれたらしい。
ちゃんとした別れを言えないまま成仏してしまったが、雰囲気は俺のじいちゃんによく似ていた気がする。鍛えてもらいながらもいろいろと話をした。生きていた頃の自慢話がほとんどだったが、けっこうおもしろかった。
そしてしっかりとこの〈ナイトプライド〉は使いこなせるようになった。
結構な時間神殿の中で過ごしてるのが分かった。昇降機に乗り外に出る時はさながら名残惜しさを感じたのがその証拠だろう。
もう何時間かぶりか分からない外。昇降機の扉を開いたとき、変わらず緑で溢れる森が見える。そして人影は2つ。
1つはレリエットで、もう1人は意外な人物だった。
「お待たせ」
レリエットに挨拶をしてもう1人について訊いてみようと思ったところ、
「ねえ……! 何してたのよ!」
とてもお怒りの様子で、そのような質問をする余裕はなさそうだった。
「ええっと……、ちゃんと説明するから」
「それはいい! こうして戻ってきたんだから分かるわ。ちゃんと〈オーパーツ〉手に入れたのね!」
これは話を逸らしたらヤバいことになる。
「ああ、〈ナイトプライド〉。対聖獣用に使えるように特訓もしてもらった」
「それで時間がかかってたの? あのご老人、酔狂なことをしたものね」
「悪かったよ。遅くなって」
「もう……死んだかもって思ってずっと怖かったんだから」
「悪かったって」
レリエットはどうやら、俺がこの神殿に入った後もずっとここで待機していてくれたらしい。確かに待っている方の身からすれば心配するのは当然だろうと思う時間は経っている。
「心配かけてごめん」
「そんな……素直に謝られても反応に困るわ。その、まあ、無事でよかったわ。別にあなたが死んでもどうでもいいけど、せっかく教えた立場としては成功してほしかったから」
徐々に声のボルテージも下がってきて、気持ちを落ち着けてくれているようだ。
手に入れた〈ナイトプライド〉も自慢したいところだが、これはまた後でになるだろう。
「で? 手に入れたやつ見せてよ。私自分でとったヤツ以外のものを見るのは初めてなの」
向こうも興味津々のようだったが、その前に用を先に済ませておくべきだと思った。
「その前に、なんであいつが?」
「ああ、その。おどおどしながら森に入ってきて木の実を探しながらあなたの名前を呟いてたから、連れてきたのよ。死んでるかもよ? って」
人を勝手に殺さないでほしいところだがそれは後ほどツッコミを入れることにしよう。
「タケ?」
俺はその名前を呼ぶ。
ミハルが傷つく原因となった俺を探してくれていた理由は定かではない。しかし俺に対する敵意や憎しみを彼からは感じなかった。
「なんでここに?」
「捜してた。あれからずっと君は帰ってこなかったから」
「帰るに帰れないだろう。万が一にも死ぬ可能性がある場所には」
「まあ、それもそうだね……すまない。連れて帰るつもりだったよ」
集落の現状はそれほど良くないことはレリエットから聞いている。しかし、それよりは今住んでいる彼に訊いた方が速そうだ。
「みんなの様子はどうだ? いや言いたくないのなら」
「言うよ。正直人手が足りないんだ。そもそも聖獣を倒そうとしても、それをするだけの武器も準備もできないし、日々の食糧を得るだけで必死だ。君に手伝ってほしいくらいだよ」
「そうか。なら狩りなら任せてくれ。今なら少しは役に立てると思う」
「うん、元々そのつもりで君を捜してたから。そうしてくれるとありがたいな」
正直なのは良いことだが、今の言い方だと利用する気満々という聞こえ方になるだろう。
しかし正直に状況を言わなければいけないほどに状況が差し迫っているとみるべきかもしれない。
「なら、食糧を持って戻ろうか。もっとも俺はどうなるか分からないけど……」
俺はドウコクさんの穴を埋めると決めた以上、しっかり鍛えてもらった今、そろそろ行動に起こすべきだろう。ちゃんと支えてもらった分、恩返しを開始するべきだ。もちろん聖獣討伐の準備をしながら。
レリエットの方を見る。
会話の内容からそれだけで俺が言いたいことを察したのか、
「いいわよ。ただ、3日に1回はここにきて私に炎を分けないと私から誘拐しに行くから」
「ああ……まだ炎は分ける必要がある?」
「あるわ。言っておくと、1000回の分割払いだから」
この世界に分割払いという概念が存在することが驚きなのだが、とりあえず今はそれもスルーしよう。話がこじれる気がする。
「もちろん。感謝してる分、できる限りは対応するよ」
「ならよし。解放してあげるわ」
なるほど、俺は監禁されていたのか。しかし監禁者が出てっていいよと言ってくれたので問題なく行くことはできそうだ。
もっとも、村に入った途端、殺される可能性はめっちゃあるが。
「……あ、待って」
おや。レリエットが俺と止めた。さっきと言っていることが違うぞ。
「まさか」
「行っちゃダメなわけじゃない。誰かこっち来てる。それも結構ヤバそうよ。武装してるし」
「ええ……」
「近い。追い払おうか?」
どうしようか。
そう思った時にはすでに遅かったようだ。何か蒼い炎を纏ったものが飛んできた。
見事に俺を狙っている。
しかし、この程度どうということはない。神殿の中でこれよりももっと速い炎の球を盾で防御する練習をしたのだ。遅く見える。避けるのにそれほど苦労はしない。
それを軽く避けて飛んできた方向を見る。
見覚えのある男の姿を見え始めた。それは、ここに来る前、俺にめっちゃ悪口を言ってきた、アルトとかいう男だった。
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