ワケあり少年少女。ゲーム世界でカネ稼ぎ!

「カネが欲しいか? いい仕事があるぜ? 攻略不可能な冒険で稼げるんだァ!」
戸﨑享
戸﨑享

19 くだらないけど大切な目的のために

公開日時: 2020年11月12日(木) 20:01
文字数:3,012

 もはやなつかしさも感じる、あのガイコツのいる神殿の中。


 レリエットは外で待っていてくれている。


 彼女は俺が考えている以上に丁寧に、そして、俺が要領を掴むのにめちゃくちゃ時間がかかっても辛抱づよく付き合ってくれた。


 元々彼女は面倒見が良い子だとさすがに理解できる。結果、彼女に頼ったのは間違いではなかったと今では思っている。


 初めて入ったときと同じようにガイコツのいる場所まで、柵のない一本道をゆっくりと歩いていく。


 ガイコツは以前と違い俺の再来を感じた途端に立ち上がり武器を再び展開した。


 以前は、全く歯が立たなかった炎の剣と盾。その相手に以前と同じ武器を持って再び戦いに往く。無謀と言われても仕方ないだろう・


「オ前、マタ来タカ」


「ん? あんた言葉を」


「我ノ言葉、オ前、リカイデキテイナカッタ。ユエニ、イマノヨノ、ゲンゴヘト、ワレ、ホンヤクシテイル」


 ガイコツの戦士はどうやら俺との会話を経て また俺のような来訪者を迎えるために知識のアップデートを行ったらしい。


「ワレ、オマエニ、トウ」


「なんだ?」


「ナゼ、〈オーパーツ〉ホッスル?」


 以前と違い急に襲い掛かってこられることはなさそうだ。しかし、その立ち姿からはいつでも俺を殺しに来れるという自信が窺える。

お金の為だ。と言ったら失望されるだろうか。


 しかし嘘をつくのは良くないような気がする。たとえ最終的にはお金の為だとしても、俺や他のみんなはそのために痛いのを我慢して、命をかけて恐怖と戦っているのだから、それが間違いであっても、決して折れない誇りを持っている。


「あんたは外で聖獣が暴れているのを知っているか? 俺らはアレを倒さないといけない。俺はこの世界に来たばかりで聖獣が良い奴なのか悪い奴なのか分からない。だけど倒すあいつを倒した後に貰える報酬金で俺は彼女を助ける」


「ナルホド。カネガ理由とは褒メラレル願イデハナイ。ダガ、ドノヨウナ者デモ、願イヲ叶エルタメノ力欲スル覚悟ヲ持ツ者ニ、コノ武具ヲ託セルカ、試スノミ」


 ガイコツは剣を構える。紅炎の刃と盾。攻防一体の盤石な戦い方を可能にする強力な武器なのは前回戦ったとき嫌と言うほど思い知った。


 俺はもうこの世界を舐めないと決めた。ドウコクさんの代わりにはなれないけれど、その代わり必ずあの聖獣を倒し、皆の遊びではない覚悟を踏みにじってしまった償いをする。


 そうして和奈を救う。


 そのための最初の一歩はもう踏み出した。そしてここから、命がけの綱渡りを渡り切って、成果を出す戦いを始める。


「オヌシ、コイ、命ヲ懸ケテ、我ヲ超エヨ!」


 あのガイコツはいつでも来いと言わんばかりに構えている。


 俺はその相手の心の器量に甘えることにした。


「行くぞ……!」


 深呼吸。


 そして最初の一歩を踏み出した。


 加速魔法〈フレイ・アクセラレータ〉。炎を一気に体から噴射して、肉体による加速の限度を超える高速移動を行うことができる魔法。

最初にレリエットに言われたときはその程度の認識だったが、この魔法はただ便利な魔法ではないことは、この5日間の修業で分かっている。


 出力が強すぎれば吹っ飛んでいく、逆に弱すぎれば思うようにスピードが出ず拍子抜けになる。少しでも加減を間違えればそれは俺が決定的な隙を晒す羽目になるのだ。


 だからこそ、この5日間の間の修業はひたすらその加減を覚えた。今の俺は加速魔法の使い方を完璧に覚えていると宣言できる。


 一気に直進。馬鹿の一つ覚えに突進かと呆れられるかもしれなそれがどうした。


 俺は元々戦士でも何でもない。この世界にきて初めて自分の体で戦っているのだ。戦いにおける工夫などありはしない。


「ム?」


 ここで相手に完全に見切られていればアウトだったかもしれないが、そもそもこのガイコツと俺の戦闘能力の差は明らかだ。体力も技術もなにもかも劣っているから、俺に本来勝ち目はない。


 しかし最初からあきらめていては何も進まない。それではだめだ。


 レリエットとも相談した。何とかして勝ちたいと。


 そこからの彼女は本当に頼もしかったと思う。花の妖精は戦いも必修科目のようで俺に炎を使った戦い方をしっかりと教えてくれた。

あのガイコツは最初に俺と戦っている。その時の俺と今の俺の違いは加速魔法を使えることと多少しっかり剣を振れるようになったくらいだ。


 レリエットは、その5日前の自分と今の自分との違いを強みにしていくべきだと言っていた。そして、俺が加速魔法を使えないと思っているところに相手の隙を作ることができる唯一のチャンスがある。


 最初の突進は可能な限り速く、ガイコツに真っすぐ一瞬で突っ込む。


 相手がそこで以前の俺との違いに戸惑ってくれればまだどうにかなる可能性がある。逆に冷静に対処されてカウンターでもされれば俺は死ぬ。


 まあ、ガイコツとの戦いはだめもとだ。ちゃんと勝ちたかったら半年は修業しろと指摘を受けるだろうが、それでは和奈を救うのに間に合わない。


 加速魔法で一気に距離を詰めて、俺の大剣が当たる距離となった。俺は可能な限り最速で上段からの渾身斬りを見舞った。


 それをガイコツは、炎の盾で防ごうとする。


 最初の関門は突破した。最初の賭けに俺は勝ったのだ。しかしこれはあくまで戦いにする最低条件だ。


 レリエットが言うには、下手に策を作るよりは単純に剣を振り回した方がいいらしい。勢いのままで攻め、相手の攻撃をしっかり凌ぐことだけを考えるしかない。


 最初の攻撃を盾で防がれた。そしてすぐに迫る相手の剣を避ける。


 脳を最大限に働かせる。ガイコツ兵の斬撃は速い。来ると感じた瞬間、加速魔法で自分の体を動かすのだ。


 本当は、魔法は使えば使うほど自分の中の炎を消費して、炎の残量を示すライフクリスタルの減少を招いてしまい自分の首を絞めていくので、それくらい自分の体でよけなければいけない。しかし、その程度の体術も今の俺にはないから、魔法で動きを補うしかない。


 相手の水平切りを屈んで躱し、そしてその一方無理やり加速魔法で大剣を動かして攻撃へと転じていく。


 相手の狙いすました力強い斬撃を間一髪で避け、大剣の斬撃で迎え撃ち、時には大剣を盾にして斬撃を受けて弾く。


 相手も俺の甘い攻撃は避け、恐ろしいカウンターを見舞ってくる。


 何度も剣が体をかすったが、致命傷ではないのはまさに奇跡と言うべきだろう。


 体にものすごい勢いで疲労感がたまっていく。攻撃を受けたわけでもないのにライフクリスタルが減っていく。


 俺の剣と相手の武器は20を超える激突を繰り返し、互いに痛手といえる攻撃は受けない。


「ヌン!」


 気合を入れてガイコツは盾をぶつけてきた。その盾からは通常よりもかなり多い量の炎が噴き出しているのが分かる。


 相手の炎の動きを観察するのは、この世界での戦いの作法。魔法やオーパーツが強力な攻撃を仕掛けてくるときは炎を大量に消費する兆候が見られるそうだ。


 今がまさにそうだろう。


 パワー勝負では戦いにならない。恐らく向こうは大剣に最初からぶつけるつもりなのだろう。故に真っ向勝負はしない。


 自分の未熟さは自分がよく知っているつもりだ。慢心なく相手の手には乗らないようにする。そのために、俺は〈フレイ・シルド〉で足へと炎を集中させて、空中へ5メートル近く跳んだ。


 しかし、空中にいる俺がそこから何か攻撃できるわけではない。俺はあのガイコツにもう一度近づかなければいけない。


 ガイコツは俺に再び攻撃を仕掛けてこようとする。


 ここからがまた、賭けになるだろう。


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