ワケあり少年少女。ゲーム世界でカネ稼ぎ!

「カネが欲しいか? いい仕事があるぜ? 攻略不可能な冒険で稼げるんだァ!」
戸﨑享
戸﨑享

8 木の実の採集もハードワーク、生ぬるい生活じゃない。

公開日時: 2020年9月16日(水) 00:41
更新日時: 2020年11月2日(月) 15:19
文字数:3,076

 黄炎おうえんは豊穣と快楽の炎。それの恵みを受ける地は緑と実りに溢れ、その炎で焼かれた者は襲い来る幸福に身を委ね、命のエネルギーを土や空気へと捧げることをいとわない。花の精霊やそれに精神が近いものは生まれつき黄色の刻印を身に宿し、大地の司る奇跡を行使できるという。



 先ほどの1戦でまつひろさんと仲良くなった俺は、彼の紹介でついでに木の実の採集チームを手伝うことになった。


 木の実の最終チームはさすがに厳しい戦いを想定したものではないのか、全員が薄着の上下1枚で、他はなにも持たないで出かけている人達が多かった。


「今日は遊介ちゃんが手伝ってくれるわ。みんな、木の実の取り方、教えてあげてね」


 まつひろさんの紹介で木の実の招集チームの一員に同行できることに。


 こちらには、先ほどの狩りのチームとは違って、女性も多く見受けられる。


「狩りは大変だったでしょ? まあ、男の子だしむしろ燃えてきたって感じかな?」


 その中で俺に一番最初にアプローチをしてくれたのは、赤紫色のロングヘアー女子で見たところ俺と同い年か年下かのどちらか。彼女を含め、周りを見ると、やはり20歳に満たない中学生から大学生くらいの見た目の人ばかりだ。


 ドウコクさんは言っていた。ここに集ったのは全員ワケありなのだと

 俺は自分の故郷は平和だと信じていたけれど、裏ではこんな多くの子供が苦労しているのだと思うと、世界は広いな、と率直に思った。


「ん? もしかして照れてる? 私に話しかけられて?」


「はい、ミハルさ」


「ミハルでいい。ウチもゆーすけって呼ぶから」


 なかなか快活な感じの女の子だ。このような子は人気で、普段はぼーっと過ごして、俺のように相手から来ないと話をしないタイプには、そんな子と関わり合いになる機会が少ない。


 そんなミハルの腕を見るとやはり彼女にも俺と同じライフクリスタルがあった。色はとても目立つ赤色だ。ドウコクさんは紫、まつひろさんは緑、俺は橙色。人によって色が違う。

 

 先ほどまつひろさんは緑の炎を出していたところを見ると、どうやらこのライフクリスタルと体に描かれている回路の色と出せる炎の色は同じのようだ。


 しかし、木の実採集だから、そんな物騒なものは使わないはずだ。先ほどよりは辛くなさそうだ。


「あら、ゆーすけちゃん。もしかして木の実採取、簡単だぁとか思ってる?」


「え?」


 ミハルがまつひろさんの言葉にうんうんと頷いて、

「とりあえず、しばらくはウチについてきて」

 俺に宣言した。その後、ミハルはチームメンバーを円陣を組んで、大きな声で全員に気合の入る声を出した。


「油断大敵! ファーイ! オー!」


 オー!


 ミハルの周りにいる木の実採取にどうしてそんな気合を入れる必要があるのだろうか。


 俺はそれをその後に知ることになる。


 先ほどは視界の良い土地だったが今回は木の実の採取と言うこともあり、崖の下の森へと向かうことに。


 森……危うくレリエットに養分にされかけたあの森だ。


 ミハルとまつひろさんはこの森に慣れているのか、軽やかな足取りで、食料となりそうなものを見つけに行く。


「あ、きのこだ」


「だめよ、そのキノコは?」


 ミハルの注意を受け俺はそれに従った。


 よく見るとうすーく、黄色の炎が灯っている。


「花の精霊の罠なのよ。おいしそうな食べものに黄色の炎を仕掛けて、食べた人間の力を失わせる。花の精霊は、力を失って倒れたヤツから養分を吸い上げる」


「こわ!」


 まつひろさんがニヤニヤと笑みを浮かべる。


「そういえばあなた、ここにいる精霊ちゃんにたぶらかされたんだってね?」


 ミハルが大笑い。


「あははははは! まあ、可愛いものね、お花の精霊ちゃん。綺麗な花には毒があるってね」


 反論の余地はない。あの魔法使いが来なければ俺は今頃お花の養分になっていたのだから。


 しかし炎について興味も出てきた。


 まつひろさんは、俺の疑問を察したのか、俺に炎について少し教えてくれた。


「炎には私達が知っている限り6種類あって、煌炎こうえん、あなたや魔法使いが使っている炎。そのほかに碧炎へきえん黄炎おうえん紅炎ぐえん蒼炎そうえん紫炎しえん。この場所にいる花の精霊が使う黄炎は、豊穣をもたらし生物に快楽をもたらす炎」


「いいものに聞こえるけど」



「魔法使いに訊いたところ、あなた、一度焼かれたみたいじゃない?」


「ああ、なるほど……」


 養分にされかけた時を思い出すと、快楽といってもなかなか危険な快楽だと分かる。


 ドガン!


 何故か爆発音が聞こえてくる。


 なんで?


「あらら、始まっちゃったわね。見に行きましょ」


 まつひろさんに俺はついて行く。


 それほど離れていないところで、なぜか炎がカラフルにツタを燃やしている。


「掴まれるなよ? 刺されるなよ!」


 いったい何の話だ?


 俺の視界の右端に、うねうね動く植物のツタが迫ってきているのが分かった。トゲがすこしついているように見えるのだが。


 「危ない!」


 紅炎の塊がツタに投げられて、ツタが無惨に焼かれて黒くなっていく。


「何なにナニ?」


「そのツタ捕まったら黄炎入れられてくたばるよ! 絶対に接近を許しちゃダメ!」


 ミハルの衝撃的な忠告を聞き俺は周りを見る。


 たくさんのツタが俺や他の人を狙って猛スピードで迫ってくる。


 他の人たちは〈イグニット〉を使って炎を手に灯してそれを投げることでツタを撃退しているようだ。


「ええ……」


 俺が前に森にきたときにはこんなに危険ではなかった気がするのだが。


「レリィ、今日はなかなか激しい攻めねー」


 レリィというのは、レリエットのことなのか。まさかこのツタを動かしているのは彼女なのか。


「今日の最終予定地はこの先よ! しっかり気張れ!」


 ミハルの声に気合の籠った返事で応える他のメンバーズ。こんな障害が待ち受けているのなら、気合が入って当然だと納得だ。


 俺もせめて足を引っ張らないように頑張らなければ。






 ツタとの激闘を切り抜けてようやく木の実が生えている今日の採取場へ。


 まだまだ迫ってくるツタを頑張って退けながら、採取係がたくさん採取する。


 話によるとこの森は黄炎の豊穣の力で、たくさんの果実や木の実が毎日できるらしい。いい狩り場なのだそうだ。


 ミハルとその友達の2名が、収穫を行う間に俺も参加してツタの撃退をする。


 しかし、日々の食糧を取るのだけでこんなに命がけとは本当に怖い世界だ。


「今回はここまで!」


 ミハルの掛け声は撤収の合図、ツタを迎撃していた他の人も、すぐに撤収の準備にはいる。


「隊長!」


「どしたの?」


「アイツ! 来た!」


 あいつ?


 俺が疑問符を浮かべるとともに、その『アイツ』が現れた。


「おらー! 今日こそ逃がさないんだから! 私のところから食べ物頂戴するなら、あなたたちも人間を置いていけ!」


 お怒りなレリエットが姿を見せる。


 レリエット何かつぶやくと、背後からめっちゃ黄色の炎が宿っている太めのツタを操ってこちらに攻撃しようとする。


 しかし、急に止まった。


「あれ、君!」


 俺を見て驚いているようだ。


 俺も何か反応を返そうかと思ったところ、ミハルに手を掴まれる。


「何やってるの、逃げるよ!」


「え?」


「花の精霊は危険なのよ! 見つかったら逃げ一択! 分かったら足動かして!」


 すでに他の人は撤退しているようだ。


 レリエットは今の言葉を大変不快に受け取っているようで。


「なによ! 私を悪いように言って、許さないんだから!」


 どうやら彼女、集落の人にめっちゃ嫌われているらしい。


 それで怒りのボルテージをさらに加速させたレリエットは、先ほど中止した攻撃を再開。黄色の炎を宿した、魔法のによるツタの攻撃が俺達の方に襲い掛かってくる。


 今レリエットに何を言っても止まってくれないだろう。俺はミハルの言うことに従い、森を急いで脱出する。


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