木々が焼け朽ちていく。炎による生命の終焉がいくつも重なり地獄であるかと錯覚させるようだった。
その中でも比較的蹂躙を受けている、灰となってなお踏まれた植物が多いのが、聖獣の通った跡だと思われる。
何度も来たのに迷いまくったこの森を、破壊されてからようやく真っすぐ目的地へと行けるのは複雑な気分だ。決して喜ばしくはない。
そして懐かしの花畑にもうすぐ着くといったところで、俺は複数の意味で驚いた。
花畑の花は大部分が焼けてしまっているが、一部分が黄色の炎を濃く纏って自分が破壊されるのを防いでいる。あれほどの炎を放つ花は初めて見た。
対しレリエットは非常に弱っている。
「何やってんだ、妖精だろ! 俺らより強いんだろ。何かまだあるんだろ!」
「ふざけ……な! うう……」
シルグイが死にかけの周りの仲間をかばいながら、レリエットをまだ利用しようと叫んでいる。
「ムチ、愚カ。人間、ヨウセイ、ワレ天敵トスルコト知ラヌトハ」
そして聖獣はガイコツさんと同じように、言葉を学んでいるようで俺らの良く知っている言葉を話し始めている。
シルグイの案はやはりというべきかうまくいっていなかった。しかしレリエットが利用されていながらも自分の花畑を守る為に粘ったおかげで未だ大けがはしても死んでいる奴はいないようだ。あれ、相棒のパンチーがいないような。
しかし、今は気にするべきことじゃない。
「ココデ死ネ」
邪悪な笑みを浮かべながら、レリエットとシルグイに止めを刺す魔法を発動しようとしてる。
そんなことさせるものか。
ヒーローを名乗るつもりはないが、レリエットは必ず死なせはしない。そのための一手をうつため、俺は手に炎を集中させた。〈フレイ・シルド〉ではなく、そこから炎を体から離して撃ちだす〈フレイ・ブラスト〉という、炎を放出するあらゆる魔法の基本である炎の球を放出する魔法だ。
そして炎の球を聖獣に向けて放つ!
実戦では初めて使った魔法だったが綺麗に当たって一安心。爆発とともに聖獣が怯んだ。
「ガァアアア! コレハ……!」
「なんだ……?」
シルグイとレリエットの間に入るように緊迫の戦場に乱入する。少し前までは綺麗だった花が灰となった地面を踏みつけるのは心が痛むが許してほしい。
「貴様!」
もう聞き慣れた反応がシルグイから。しかし今はそれに反応を返している場合ではない。
「黙ってろ!」
「なんだと、何しに来た貴様!」
一応後ろから刺されないように警戒しながらも俺は、もっと警戒すべき相手を睨む。
体があの時の恐怖を覚えている。鳥肌が立って来た。
爆発の煙は消え去りその姿を現す。
「キサマ、生キテイタカ!」
「よお、前はよくもやってくれたな」
「……ナラバ、殺シテヤロウ!」
大きく剣を振りあげ、そして俺に向けて振り下ろす。
舐めている。アイツは炎を剣に宿していない。その程度ならば、剣を使うまでもない。あの頃よりも精度が上がった〈フレイ・シルド〉で十分弾ける。
俺は炎を手に集中させる。そして振り下ろされる剣に一気に弾き飛ばした。
それだけではない。俺はもう一度炎を生み出して油断しているアイツの熱線を放射する発射口に叩き込んでやった。
爆発。
「ウガアアアアアア!」
少し離れたところで動けなくなっているシルグイの仲間が声を上げた。
「マジかよ……今の一撃で、俺達があんなに頑張って減らしたライフクリスタル1個をあっさり持っていきやがった……」
「なんだと……!」
シルグイは怒りを忘れ驚いているようだ。確かに以前の聖獣戦を考えれば、ライフクリスタルを1個減らすのは、皆の士気が奮起するような驚くべきことだった。
「お前……一体どうなって」
「お前に話すつもりはない。お前はレリエットにひどいことをした」
「何……お前、アニキを殺した罪を忘れたとでも」
「俺を巻き込んでも文句は言わないけどな……俺達の戦いに関係ないレリエットを巻き込んだのは許さん」
「こいつは、俺達より強いんだぞ! 利用しない手はない」
「利用、なんて言葉を言っている時点で分かり合えないだろうな。俺にとってはレリエットは死んでもいい命じゃない」
ていうかしばらく黙ってほしい。俺は今お前と話している場合ではないのだ。
「え……ゆうすけ……そう……なんだ」
体に力が入っていないレリエット。そろそろ限界かもしれない。
「魔法使い! 後でなんでも払ってやる! 今は撤退だ! みんなを助けてくれ!」
「よし来た。なんでもって言ったね? 約束守れよー」
嫌なことを押し付けられるかもしれないが、それは仕方ない。俺とて気に入らないことを奴を見殺しにするほど冷酷ではないつもりだ。
もちろんこの件に決着はつけることはあってもドウコクさんを犠牲にしたときに俺を生かしてくれたまつひろさんや他のみんなと同じように、俺はシルグイを見捨てない。
魔法使いは多種多様な魔法で応急処置と浮遊移動を一緒に行ってここでくたばりそうになっていた集落の戦士を運び始める。
俺はその時間を稼ぐべく、聖獣に相対する。
ここで戦うわけにはいかない。やられている人が多すぎる。特にレリエットをこのままにしておくわけにはいかない。素人目で見ても早急に助けないとヤバそうに見える。
「貴様……ヤルナ」
「俺を殺したいんだろ。俺が〈煌炎〉だから」
「カガヤクモノ、ソレ、貴様ラ、アンコクジン、ツカウベカラズ。ワレ、ソレヲユルサヌ。アノトキハ怒リデ、狂ッテシマッタガ、コンドハ」
「俺もお前との決着をつけてやる。だが、それは今じゃない」
「ホウ、ワレト戦カウトイウノカ。アノヒ、無様ニ逃亡シカシナカッタ貴様」
「お前を倒すためにあの日から俺は変わった。だから戦う。俺もお前を殺さなければ行けない理由がある。必ず殺しに行ってやるから、今は退け」
「ワレガ、愚物ゴトキノ話ヲキクト?」
「それともここで俺をつぶさないといけないほど余裕がないのかお前?」
「ヌウ、ザレゴトヲ」
聖獣はしばらく考え込み、そして答えた。
「イイダロウ。明日ダ。特別ニ我ハ明日平原ニ降臨、貴様来ナケレバ、今マデハ、メインディッシュ、トシテ、潰スノヲ、見送ッテイタ集落ヲ、ツブス」
聖獣は邪悪な笑みをわざとらしく俺に見せて、その場から撤退を始める。
「必ズ来イ、何カノマチガイデ、カミノシュクフクヲ受ケル汚物」
聖獣がゆっくりとこの場を後にするのを見送り何とか一安心。
「ゆうすけ……」
レリエットが緊張を解いたのか、俺の名前を呼ぶのと一緒にその場でへたり込む。
今にも命の灯が消えそうになっているレリエット。
手に持っていた薬草を使おうとするが、
「花の妖精はそれでは救えない」
最後にシルグイを背負ってこの場を撤退しようとした魔法使いに止められる。
「うう……ありがと……ありがと……ありがと……たすけ」
いつもの活気あるレリエットがもう微塵も感じられない。
「どうすれば……いいんだよ……」
「手はある。遊介くん。いったん彼女を集落まで運ぶんだ」
魔法使いが嘘をついていないことを信じ、今は魔法使いの導きの通りレリエットを抱き上げて、集落へと向かうことにした。
この場での聖獣との戦いは何とかこれで済んだが、聖獣は今度俺と一緒に集落をつぶしに来ると言った。
現状、俺達はかなり危機的状況にあると言っていい。こうでもしなければ死人が多く出ていただろうが、明日はさすがにまずかったか。
しかし、譲歩してくれただけでも幸運だと思い、何とか死者の出なかった俺にとっての2回目の聖獣戦は幕を下ろした。
そして、明日が決戦だ。あまりに急だが、やるだけのことをするしかない。
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