つい目を閉じてしまう。
ああ。
また俺は、殺してしまうのか。
やっぱり俺は、ダメな奴なのか。
このままいけば俺も死ぬ。和奈も助けられない。
俺は……。
――――。
何を言ってる。
レリエットはもう間に合わないかもしれない。だけど、俺はもうここで諦めていい人間じゃない。
今の俺には責任がある。最後まで戦って聖獣を倒すという責任が。
この世界をナメるのはあの日でもう終わったはずだ。どれほどの罵倒を受けても、悪態を晒しても。
俺はどれだけの犠牲を目の前にしても、和奈を救うことだけは諦めてはいけないのだ。
「うおおああああああああ!」
もうボロボロで動かないなんて弱音を吐くな。血を吐いていても俺はまだ戦える!
負けない。もう負けない。
絶対に。俺はこの攻略不可能な冒険をクリアして見せるのだ。
「ああああああ!」
気合を入れ直した。
レリエットの死でも心は折れない。
馬鹿みたいだ。この歳になって泣きそうになりながら意地を張っている。
だけど。ここで死ねばそれこそ。
ここまでのすべてを裏切ることになる!
「安心しましたよ。それでこそお嬢様が気に掛ける男です」
誰かの声が響いた。魔法なのか。この場にいないはず、それどころか聞いたことがあるはずだけどこの世界にはいないはずの人の声。
レーザーの発射口に黄色の炎の矢が突き刺さった。刺さった瞬間、凄まじい〈黄炎〉による爆風を起こし、なんと聖獣をすこし遠くへ吹き飛ばしたのだ。
俺がなぜ無事かというと、それも黄色の炎が守ってくれていた。それだけじゃない。俺を黄色の炎が包み込み、まるで体の治癒力がめっちゃ活性化でも下かのように傷口がふさがっていく。
見るとレリエットをかばうように1人の女性が。
「あ……あ」
驚くに決まっている。誰か知らないヒーローが来たかと思ったが、それはここに来るとは夢にも思わない女性だったからだ。
「リエルちゃん!」
「遊介殿。あなたがこの世界にいると聞き、助けに参りました」
「なんで……てか、この世界に来たばかりにしては強すぎでは……?」
俺を元気にしてくれた魔法もこの世界に来たばかりで使えるものではないと思うのだが。
レリエットが涙を流していたのが目に映った。
「あ、姉上!」
はぁ? そんなトンでも展開ありか?
しかし、それならこの威力の高い攻撃も高度な魔法も納得できる。今の攻撃で聖獣のライフクリスタルがのこり15個を切ったのも分かった。
「その話は後ほど。そして遊介殿。どうやら援軍に来たのは私だけではないようです」
聖獣の方へリエルちゃんは指さす。それに乗ってその方向を見てみると、聖獣へ向けて、炎を灯した金属の矢が数多襲い掛かった。
「ガアアアアアア!」
先ほどが炎の雨であれば今度は矢の雨だ。木でできたものよりも頑丈でしっかりしているので、勢いが落ちることなく聖獣に刺さりまくっている。
決して〈オーパーツ〉ほどの攻撃力ではないものの、確実に残り少ないライフクリスタルを減らしてくれている。
「ゆーすけー!」
懐かしい声が聞こえる。女の子の声だ。
俺はその声の主を見る。その声の主は遥か遠くにいたのだが、誰かはよく分かった。
ミハルだ。ミハルが起きている!
「今こそ助けてもらった恩返すわよ! みんな! 遊介が死んだら終わりだと思うなら全力で撃ちなさい! 聖獣だって同じ手は二度と通じない。これが、ここまで聖獣を追い詰められる最後のチャンスなのよ!」
それだけではない、パンチーもまつひろさんも、そして集落の前衛の戦士たちが、俺の代わりに前衛へと出て、炎を灯した大剣に勇敢に立ち向かっている。
「ゆーすけちゃん!」
「長くはもたない。すぐにこっち来い!」
「みんな……」
もう二度と一緒に戦うことはないだろうと思っていた集落のみんなが俺を援護してくれている。こんな、こんな奇跡があるのだろうか。
「奇跡じゃない」
レリエットが言った。
「きっと、これはあなたの努力を認めた人たちが、あなたの可能性に賭けて最後の勝負に挑んでるのよ」
「そうか……な」
「さあ、ヒーローであるあなたがここでグズグズしてていいわけ?」
「あ、ああ!」
とても嬉しいことだ。なら、俺もこれ以上質問を重ねるのは野暮ってものだ。
アルトも、リエルの魔法によって回復したようだ。立ち上がって前衛の皆に加勢をしに向かう。ここからが集落のみんながで聖獣を倒す、最後の猛撃の始まりだ。
「アルトちゃん、止めるわ! 〈フレイ・バレッタ〉!」
緑の炎が聖獣の足に突き刺さっている。たった数秒だったが、暴力の嵐となっている聖獣の動きを止めた。
「どんどん斬っちゃって!」
「ああ、付き合ってやる!」
「俺も行くぜ!」
まつひろさんの魔法を受けてその手に持つ細身の曲刀は蒼炎を宿して、数多くいる前衛の中でも圧倒的攻撃力を秘めている。そしてレリエットもまた加勢しに向かってくれる。
「舞え、そして痛みを与えよ! 茨の鞭〈フロラリア・アンテネーション〉!」
そして矢の雨は終わったが、ミハルやカナ達も徐々にこちらに近づきながら遠距離攻撃を放つ。
「怯むな! 撃てえええ! 火力を稼げええええ!」
その顔は真剣そのもの。自らもとっておきの魔法を放つ。それは森林の襲撃時に俺が聖獣にぶつけた炎の球〈フレイ・ブラスト〉だ。
ミハルは強力な魔法を惜しみなく使い、大砲のごとき紅炎の炎の砲弾を放つ。そして、カナや他の遠距離攻撃部隊もミハルを見習って同じ魔法を放った。
「グォアアアアア!」
効いてる。間違いなく。
聖獣は間違いなく、追い詰められている。
俺も向かって加勢しよう。
そう持ったのだが、俺の肩を掴んで誰かが止めやがった。
ふざけるな。今こそ怒涛に攻める時ではないか!
振り返ると、俺を止めたのは魔法使いだった。
「邪魔すんな!」
「そうじゃない。このままやっても聖獣を倒すにはぎりぎり火力が足りない。聖獣が勢いを取り戻せば以前の二の舞だ」
「は……?」
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