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「カネが欲しいか? いい仕事があるぜ? 攻略不可能な冒険で稼げるんだァ!」
戸﨑享
戸﨑享

21 確かに俺は悪い、けど必ず見直させるから

公開日時: 2020年11月16日(月) 20:02
文字数:3,962

 集落を出たあの時もめちゃくちゃ怒ってた感じだった。


 きっと俺のような人間が許せないタイプの人間なのだろう。


 あの時よ同じ金属の剣を持っている。それはかなり頑張ってこの世界を攻略しているという証であり、彼の強さの象徴だ。


「いいよ、レリエット。アイツは俺が目的だろう」

 悪口を言われても気にしないとは言ったが、実はかなりショックだった。もちろん役立たずは自覚していたが、ストレートに人から言われると頭を殴られたかのようにガツンとショックが体を駆け巡った。


 俺がなんとか強くなってやると無意識に頑なに考えた原因の一つはアイツだったかもしれない。


 アルトの後ろには意外な男が。


「おや、彼女とはうまくいっているかな?」


 魔法使いだ。俺をレリエットのところに行けと言った男。


「しかし、そうか。この場にいるということは、もしかしてレリエットからこの神殿のことを訊いたのかな?」


「私は教えてないわよ」


 俺が返答する前に、レリエットがその質問に答える。


「こいつがたまたま偶然この神殿を見つけちゃったから隠せなくなったの。本当は挑むのには十年早いと思ったけれど、私にも私の事情があったし、結果的にウィンウィンの結果になりそうよ」


「意外だな。まさかたった1週間足らずでこの神殿をクリアするとはね」


 俺を見て目を細めた魔法使いは、俺を少し見るや否や、ほうほうなるほど、と呟いて満足そうに笑う。


 アルトの方は先ほど俺に炎を纏った何かを飛ばしてきている以上、もはやただで話をするような関係ではない。完全に向こうは俺を殺したくてうずうずしているのではないだろうか。


 いや『だろうか』などという言葉を使う必要はない。今のアルトを見ればわかる。あれは間違いなく本気で俺を殺すつもりだ。


「魔法使いさん。プレイヤー同士の殺し合いにあんたが手を出すことは?」


 ほらやっぱり。


「いいや」


 てかお前、『いいや』じゃなくて止めろよ!


 魔法使いがそんなことを言っちゃったのであれば、アルトを止める者はいない。アイツは剣を蒼炎を宿した刃で俺に斬りかかってきた。怖い。


 アイツから俺に対する言葉はない。敵と言葉を交わさないのは当然だろうと言うばかりに。


 以前はここで怖くなって動けなくなっていただろう。しかしもうそんなことはない。レリエットと鍛え、そしてあのガイコツさんに鍛えられ、今の俺は、あの朝の俺ではないのだ。


 俺は〈オーパーツ〉は使わない。教えてもらった技だけで勝負する。


 アルトに見せなければいけないのは、思い知らせてやらないといけないのは俺が強くなったことだ。


 彼の最初の攻撃から俺は逃げない。炎を纏った斬撃なのだから弱いはずはないのは承知の上で俺は迎え撃つことにした。


 刃が迫る感覚は慣れないが、ガイコツさんと何度も訓練した中で対処できるようになった。


 腕に炎を灯す。いや腕ではなく手にたくさんの炎を集中させて、拳で相手の振り下ろし弾いた。


 アルトは驚いた顔で今の現象を受け入れたが、思考はすぐさま次の攻撃に移っていたようだ。剣に灯っていた炎を使って加速魔法を使い、無理矢理斬撃の筋道を変え二撃目を人力とは思えない速さで振るってくる。


 こちらも負けじと加速魔法を使って躱す。


 もう一度斬りかかってきた。


 よく見える。新しい魔法を試そう。ガイコツさんから教えてもらった炎の節約ができる魔法〈フレイ・アブソープ〉とか言っていたような気がする。これはどうやら自分の炎を使って相手の炎を制限はあるが吸い取ることができるようで、ガイコツさんオリジナルの魔法だそうだ。なんでも炎を相手からブン盗れないかと念じたら偶然できたそうだ。


 炎を灯した拳で相手の剣をキャッチ。


「な……」


 気合を入れた渾身の斬撃だったのだろう。止められたことに驚いて入るようだ。しかしそれも当然のことだ、ガイコツさんやレリエットと違い、アルトの剣はただ振り回しているだけ。その点は俺が大剣を振っていたときと変わらない。


 俺は教えてもらった通り『ちょっとちょうだい』と念じながら炎を出し続ける。するとアルトが纏っていた炎が徐々に変色を始め、オレンジ色になっていった。そしてなんか体に活気が戻ってきている気がする。


 見ると使えば使うほど減っていくはずの俺のライフクリスタルの現象が抑えられている。


 アルトは反撃に出ようとしているので炎を頂戴《ちょうだい》するばかりではなくその反撃も封じよう。加速魔法の応用。炎を噴射して相手を吹っ飛ばす。


 人に向けて使うのは初めてだったが見事それも成功。再び攻撃をしようとしたアイツを封じてやった。


 確かに強くなっている。アルトを相手にここまでやれたのなら、そう自信を持って言ってもいいだろう。アルトには悪いがとても嬉しい。


「クソ……」


 ようやく口を開いたアイツ。開口一番なにを言うか少し緊張する。


「お前……! どんなイカサマを!」


 ああ、やっぱりそうなるか。まあ、確かにそうだろう。みんながこんなにできていれば聖獣との戦いももっと有利に進めていたかもしれない。


「イカサマじゃないわ!」


 レリエットは険しい顔で怒った。本当はどや顔をしようと少しは思ったのだが、それは無理なようだ。


「こいつはね。あなたたちが助けないから情けなく私に縋ってきたのよ。イカサマなんかじゃない。こいつが頑張った証。悪く言うのなら絶対に許さないから!」


 やっぱりなんだかんだ言って良い奴だ。自分が納得しないことに思いっきり反論する度胸は俺から見ていて気持ちがいいものだ。


 しかしこれは俺とアルトの問題。いい加減弁護ばかりしてもらわないで俺が話すべきだろう。


 ……何を話そうか。


 コミュ障だった自覚はないがよく考えてみるとこのような自分優位状態は初めてだ。こんな時はどのように話かければいいのだろうか?


 まあ、こういう時は言いたいことを言うべきだ。どのみち俺は嫌われている。殺されそうになる以上に最悪になることはないだろう。


「お前が俺をどうしてそこまで嫌っているのか知らないけど、死ぬわけにはいかないってのは前と同じだ。どうかな、ちゃんと強くなったし、これからはあの集落を助けるつもりだ」


「ふざけるな。何を企んでる! 今度は集落を助ける代わりに囮になれと誰に命じる? それともあの集落を支配でもするつもりか? 暴力に出ればできるだろう」


「おいおい……」


「聖獣討伐の協力をしてほしいなどと嘘を言って今度は何人を地獄に落とすつもりだ! それとも今汚している女どもを襲うつもりか。俺は頑張っているんだからこれくらいの報酬はあっていいだろうと?」


「おいおいおい……」


 こいつかなり思考が歪んでいる。


 俺はそんなことは微塵も思っていない。


「アルト、なんてことを言うんだよ……いくら遊介だってそんなことは」


 タケも呆れ顔でアルトの言葉を評する。しかし、アルトは自身の考えを変える様子はない。魔法使い以外のすべての人間に阿呆と罵られるような屈辱を得ても。


「俺は信じない。俺は……お前のような男を知ってる。お前は俺の親父にそっくりだ。俺の母さんや姉さん、果てには俺のダチや親戚まで利用して利用して、全部を破滅させたあの野郎に……! お前のようにな! 酷い失敗をしてもめげなかった。めげようとしなかった。それで何もかもあの男は俺から全部奪って行ったんだ! 今のお前はあいつにそっくりだ。今は成功していてもどこかでまた取り返しのつかない失敗をする!」


 怒り狂っている。怖い。


「アルトくん」


 魔法使いが俺に再び挑みかかるのを止めようとした。


「君の気持ちも義務感も分かる。だが君では」


「うるさい……! 邪魔するな……! 俺は本気でお金が欲しい連中の邪魔をする奴を殺す。お前だってそれは前から許可していたはずだ。俺の殺したい奴が目の前にいるのに、どうして邪魔をする!」


 しかしなるほど。どうも俺はそのろくでなしの男にそっくりだったようだ。確かに多くの人々を犠牲にして今の俺はここにいる。そして


 反省もほどほどに新しく動き始めた俺を見ればそう思う可能性もゼロとは言い切れないだろう。

俺の姿は奴にとってトラウマだったということだ。


 アルトは剣を持って立ち上がる。


「貴様は殺す……!」


 そんな事情も俺が考えただけのことだし、たとえあっていたとしてもやっぱり殺されるわけにはいかない。


 和奈を助けるために俺はこの世界に来た。最初は希望に縋りついてやるだけやってみよう程度だったかもしれないが、今は本当の本気だ。ここまでやった以上、絶対に聖獣は倒す。


「悪いけど、死なないよ。俺は」


 加速魔法だってアイツよりは何倍も、今の俺は上手に使える。


「お前の言う通りにはならない。いくらでも監視していいし、攻撃を仕掛けてもいい。だけど俺は生きるよ」


 この場での和解は不可能だと感じた俺は彼とこれ以上会話をすることを断念した。


 代わりに魔法使いに尋ねた。


「そう言えばなんでここに?」


「本当はここにある〈オーパーツ〉を彼におすすめしようと思ってたんだよ。長い間僕に貢いでくれたからその返礼として情報の提供と案内をしたのさ。だけど」


「悪いけどここの〈オーパーツ〉は俺がとった」


「分かるよ。君の体から凄まじい力を感じるからね。おめでとう」


 アルトの殺気がさらに強まっていく。完全に俺を恨んでいるぞアレ。


 このまま殺伐となるよりはいったん逃げた方がいいか。


「タケ、レリエット、先に集落に戻るわ」


「え?」


「分かったわ。でも3日後には必ず戻ってきなさい? ……木の実はこの子に持たせるから」


「ああ。じゃあ……」


 どこに行こうか迷っていたが手土産は必要だろうと思い、すぐに目的は絞られる。


 レリエットは本当に気が利く。最後にそんなことを言ってくれたおかげで俺の向かう場所は食える幻獣がいる草原に決まった。


「絶対に逃がさん! 俺はお前を追って必ず殺してやる!」


 アルトの怖い宣言がしっかりと聞こえてきた。

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