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「カネが欲しいか? いい仕事があるぜ? 攻略不可能な冒険で稼げるんだァ!」
戸﨑享
戸﨑享

31 聖獣との決着

公開日時: 2020年11月27日(金) 20:01
文字数:2,521

 そんな馬鹿な。


 ここまでいい流れだ。このまま押し切れないのか。


 ――いや、確かに。


 あの聖獣。戦えば戦うほど新しい攻撃を仕掛けてきた。死が近づいたとき、最後の一撃を何かしてくる可能性はある。


「がアアアアア!」


 そして俺の前で、魔法使いの言葉が現実になり始める。


 とうとうあいつは自分に攻撃が当たっているにも関わらず、自身が傷つくことすらもはや問題ないというように、隙を大きく晒しながらも、大剣を振り回し始める。


「ぬぐぁ!」


「ガハハハハハ! ガアアアアアア!」


 狂喜しながら自分を傷つける周りの下等生物扱いの俺の仲間を斬り払って暴れまくっている。猛攻を仕掛けていた己の仲間を次々とぶっ飛ばして自分の周りから取り払っていく。


 そして遠距離攻撃部隊も、もうライフクリスタルに残っている魔力が焼失し始めているようだ。もう追撃が出せていない。


 こちら側の攻撃の勢いを衰え始めている。


 残りのライフクリスタルは10個もまだ残っている。このまま行けば確かに倒しきれない。


「おそらく最後まで粘ってもあの聖獣が何とかして生き残るだろう。私が一度だけ力を貸す。本来手を貸すのははルール違反だが、まあ、ペナルティは私が受けよう。これは私の目的の為だからね」


 魔法使いは杖に炎を集中させ始めた。


 そして俺を呼び止めた理由を急ぎ口調で話し始める。


「いいかい? 君の役目は加勢じゃない。止めだ。あの聖獣の強靭な生命力を一撃で吹き飛ばすほどの極大魔法。それを実現させなければいけない」


 そんなの持ってないぞ俺! じゃあ、なんだここで詰みか?


 ふざけるな!


 俺の焦りを、魔法使いは心を読んだかのように返答する。


「そうじゃない。君はすでに答えを得ている。オーパーツの力を最大に引き出すのは技量でも、覚悟でも、幸運でもない。魔法は――」


 そうか。


 今までの俺の研鑽と学びが、すぐに1つの結論にたどり着かせた。


「願う。魔法は願うんだ」


「そう。あの聖獣を葬り去り、攻略不可能な冒険を攻略する伝説の始まりを刻め!」


 魔法使いが俺の肩に手を置く。


 不思議と体に活力が沸き上がってくる。なんだかいくらでも炎を使えそうな。もしかするとこの魔法使いが必要な炎を肩代わりしてくれるのか。


 よく見ると俺のライフクリスタルに活力が戻ってきているのが分かる。いや、それだけはない。この場だけの特別な力、俺のライフクリスタルの最大数が増えていく。


 遠慮はいらないということか。


 ならば、俺は願う。


 俺はそれほど頭がよくないので、聖獣を一撃でぶっ飛ばす攻撃でそんなに華麗なものは思いつかない。思いつくのはせいぜい、昔にゲームで見ためっちゃ強そうな竜が放った第火炎くらいか。


 魔法に炎ばかり使っているので、思想がそっちに引っ張られているようにも思えるが、今の俺にはそれしか思いつかない。


 だからこそそれを本気で願おう。


 あの聖獣なんか完全に消し去ってしまうような大煉獄を。


 突如〈ナイト・プライド〉が熱を帯び始めたのが分かった。


 今まで炎と盾だったものが1つの大剣へと姿を変える。そしてそこに膨大な炎が流れ込んでいくのを感じ取る。


 しかし大剣はまだ貪欲に炎を欲している。まるでこれでは足りないと言っているように。


「グオオアアアアアア! ウェイウhヂウシflジウhシdh!」


 俺の仲間たちの最後の猛攻を聖獣は暴れに暴れまわりそして凌ぎ切った。その体はボロボロながら本当に魔法使いの言う通りになったのだ。


 もはや俺以外に戦える者はなく、聖獣の魔法の数々が今まで攻撃を加え続けた仲間たちに襲い掛かる。


「きゃああ!」


「がう!」


「逃げなさい! 走るのよ!」


 仲間たちの悲鳴。そしてそれを目の前に。


「貴様ラナドォオオオオ!」


 皆の頭上に巨大な魔法陣が描かれる。それはおよそ人が受ければ体が残らないだろう大魔法が放たれる前兆に違いなかった。


 これが放たれればもはや終わりであることに違いはなかった。


 その前に、あの聖獣を止めなければ今度こそ、俺はみんなを殺してしまう。


「転移!」


 魔法使いの魔法が発動する。


 前衛で時間を稼いでくれたみんなが俺の後ろへと瞬間移動した。


「遊介君! 今だ!」


 魔法使いの声がした。聞こえた声は今までで一番本気であることを感じ取れる。


 俺は一振りの大剣となった〈ナイト・プライド〉に、本気で重ね重ね願い続ける。


「遊介! 何かすごいことをやってるな!」


 パンチーの声がする。


「決めろよ! 兄貴はやるときはやる男だったぞ!」


 ああ。任せてくれ!


「ガアアアアアア!」


 聖獣の極大魔法が発動を始めている。それらを丸ごと吹き飛ばす、圧倒的な炎を。


 どうか。ここで死んだドウコクさんが、皆を率いて願った明日を。


 そして、俺やみんなの願いを叶えてくれますようにと。


 願いをくみ取る魔法ならば、それくらいして見せろ!


 剣がそれに呼応し、炎の大剣に凄まじい力が宿ったのを感じる。肌が焼けそうというか、もう火傷してそうなほど熱く、今にも体が吹き飛んでいきそうなエネルギーが俺の手の中に宿っている。


「これで……終わり……」


 凄まじく重くなった大剣。体に残っているすべての力を振り絞った。


「だぁああああああ!」


 俺は一気に剣を振り上げた。


 圧倒的轟音。


 そしてすさまじい破滅の火炎が、剣を振り上げた瞬間に放たれる。


「ガ……ァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 聖獣はその、龍のような炎へ飲み込まれる。


 炎は世界の端っこの雲すら燃やし尽くして、貫通していった。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 その中で。


「ギザマ、ギザ、ガガガガガアアアアア!」


 聖獣が。


「アアアアアア……リエヌ――」


 断末魔をあげて。


 あれほど強かったあの獣が、塵一つ残さず、煌めきの中で消え去った。






 俺の大剣から放たれた炎が消え、へたり込む。


 魔法使いから放たれた一言は。


「おめでとう諸君。君たちはあの獣を倒した。ここに、かがやくものを宿した勇者とそれを支えた数々の人々に。感謝を」


 完璧な勝利宣言だった。


 歓喜の声を上げるものはいない。


 皆本気でこの戦いに挑みに来て、自分のあらん限りの本気を尽くしたのだろう。


 しかし。しかしだ。


 この場にいる誰もが、この達成感に充実し、喜んでいたに違いない。


 俺達は『攻略不可能』を攻略してみせたのだから。

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