ガイコツの戦士は炎の剣をその場で横に振る。
当然空中にいる俺には届かないはずだ。しかし、あのガイコツが無意味なことをするはずがない。
それも魔法の一種だったと知るのはすぐ。三日月状に模られた紅炎が斬撃と共にこちらに発射される。
当然それも当たったらアウトだ。そもそも加速魔法の乱用で今の俺は自分で自分の命を削っている状況だ。
この世界で炎は命の源。レリエットにもそれをきつく言われたし、今自分でも実感している。
大剣を盾にするように自分の前に出す。そして大剣にできる限りの炎を集中させた。〈フレイ・シルド〉を使って相手の攻撃を防ぐ。
三日月が俺の剣とぶつかり、圧縮された炎が炸裂する。
凄まじい衝撃だ。今の俺には出せない量が込められた渾身の斬撃だったと思う。ドウコクさんの大剣は非常に丈夫にできていたおかげで剣は見事俺の盾になってくれていた。
次に向こうは以前と同じく、炎の盾を投げてくるに違いない。それに当たったら終わりだ。その前に行動に移さなければ。
盾を投げるなら投げる瞬間は止まっているはずだと信じて、自分で持っていた大剣を俺は投げた。
当然武器を手放すなど言語道断だということくらい分かっている。
しかし、正攻法で勝ち目がないなら、俺はとにかく工夫をするしかない。
この世界のことはまだほとんどよく知らない俺だけど、そんな俺でもできるような稚拙な方法で、相手の思い込みを裏切っていくのだ。武器は戦うために必要な道具、つまり武器があるところに本人がいるという思い込みを裏切る。
俺の足りない頭では、それに賭けるくらいしかいい方法を思いつかなかった。
ガイコツが見えていた方へ向けて俺は大剣を思いっきり投げた。
投げる練習などしていないけど、そこは加速魔法の応用と俺の気合だ。魔法が願いを叶えてくれるのならきっとこの願いだって叶えてくれる。
そう強く信じて俺は大剣を思いっきり投げ飛ばした。
大剣は投げた自分でも不思議に思うくらいに真っすぐ、俺が思うように飛んでくれそうだ。しかしすべてを確認している余裕はない。
俺は加速魔法を使って自分を加速させる。空中にいながら魔法の力で勢いをつけて、ガイコツへと近づき、一気に墜落して襲い掛かるつもりだ
加減を間違えれば死ぬ。
しかし、構うものか。俺が挑んでいるのが攻略不可能な冒険ならばこちらも無茶をいくらでもやらなければ、クリアできるはずない。
心の中で気合をいれ、自身で思ったことを実行する。
加速魔法を使い後方へ。
「ム!」
驚いた声だ。俺の大剣の場所に俺がいないのが分かったのだろう。今までに聞いたことのない間抜けな声が聞こえた。
チャンス。
そう思った瞬間、視界の右端から何かが飛んでくるのが分かった。ガイコツの炎の盾であることはすぐに分かった。
俺は姿勢を変更し、体のスレスレを盾の炎で焼かれる感覚を得ながらも避けることに成功。そして、一気に墜落した。
「ナヌ!」
「ぅおりゃあああ!」
武器も持たず丸腰、反応されれば剣を向けられるだけで終わりだ。どうにか不意を突かれたと思ってほしい。怖くてつい目を閉じてしまった。
俺の体が何かにぶつかった。とても鋭利な感じがする。ヤバイ。もしかして剣?
幸いにも何かが刺さっている感覚はなかった。俺の思惑通り、目を開けたらそこには俺と一緒に、いや、正しくは俺に倒されて地に伏しているガイコツさんがいた。
「ウヌ……コノヨウナ、児戯ニ遅レヲトルトハ」
「悪かったな……あんたにとっては誇りある決闘だったかもしれないが」
「……イヤ。騎士ノ誇リアル戦イモイイガ、オ前ハ戦ヲ始メタバカリノ新参者。ナレバ、このようナ泥臭さモ似合ってイるトイウものダ」
「そう言ってもらえると助かる。なにせ、これしかできなかったもんで」
なんだか、このガイコツさんの言葉が聞き取りやすきなってきているような。
「……ウむ。そろそろツカめそうダ」
「はい?」
「お主ノ、おかげで、片言だが、何とカ、現代語を学べそうダ。眠りにつき300年。このへき地には挑戦者など現れることはないと諦めてイタガ、このような若造ニ、後れを取るとは、我もたまには起きて、運動せねばナ」
笑っているように見える。
俺の勝手な想像であるのだろうがそう感じた。最初は意思疎通も難しいだろうと思っていたが、そうすぐに諦めるものじゃないらしい。
意思疎通とは案外相手を、まともに話すことはないだろうという拒絶をしないところから始まるのかもしれない。
そんな社会的気づきをしつつ、俺は大切なことを恐る恐る尋ねる。
「俺は……」
「勝ちだ。持っていケ」
ガイコツは自分の持っていた剣と盾を俺の方に投げた。これは話によると〈オーパーツ〉らしいが、そんな適当な扱いでいいのか。本当ならこの先ですごい台座に刺さっているようなものではないのか。
「これが報酬?」
先ほどまでガイコツの〈紅炎〉を放ち恐ろしい武器に見えていたそれが、今はとても神々しい道具に見える。
聖獣討伐の鍵になるかもしれない〈オーパーツ〉。ドウコクさんはこの破片が聖獣に効果があることをどこかで知り、破片で大剣を作ることで戦いを続けていた。
その本物があると知ればすぐに取りに行っただろう。それを今、代わりに俺が果たした。
まずは一歩、進歩したのではないか。とても達成感がある。こうして何かに本気になって手にしたものは、持っていて心が躍る。
「お前が善かれ悪かれ覚悟を持っていることはよく分かった。覚悟のある者は世界ヲ変エる。〈オーパーツ〉は武器、眠らせるより、錆びるか果てるまで使われた方が本望だろウ。ここを訪れたお前にモ倒さなければならぬ何かがいるのだろう?」
「ありがとう、ございます!」
「だが、まだ帰るな」
なに。
レリエットにすぐ報告に行こうと思っていたのだが、まだ何かあるというのか。自分の宝を俺にくれたガイコツに恨みはないが、次はまた何かされるのか怖くなる。
「その〈オーパーツ〉。銘を〈ナイトプライド〉とイウ。その使い方を伝授するまでは返すわけにはいかない」
「教えてくれるのか?」
「我がわざわざ守っていたのもこのため。我が剣と盾を使った剣技と盾技。その奥義を誰かに伝授しなければ、骨に意志を残してまで、挑戦者を待っておらんよ」
どうやら悪いことはされないようなのでとりあえず一安心した。
ガイコツの言う通り、俺は右手に剣を左手に盾を構える。その瞬間、剣と盾に炎が灯った。それは先ほどガイコツが使っていた〈紅炎〉ではなく、馴染みある色をした俺の炎が灯されている。
「ヨシ、では、もうしばらく付き合ってもらうぞ。若人。成仏するまで、貴様にこの武器での戦いを教えてやろウ!」
ガイコツさんは、めっちゃ生き生きしている。スパルタっぽいがそれは元々覚悟の上。聖獣を倒すために、強くなれる試練は死ぬ気でついて行っていやる!
「よろしくお願いします!」
〈ナイト・プライド〉
炎の片手剣と盾。炎の剣は刃こぼれを知らず、炎の盾は軽々しく触れるものを焼き尽くす。
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