紅炎は活力と破壊の象徴。その炎の恵みにより生物は活力を得て、その炎に焼かれたものは、灰になるまでもなく分解されてく。神代の追放者たち、後に暗黒人と呼ばれるようになる者やそれに精神が近い者が生まれつき赤い刻印を身に宿し、命を活性、もしくは破滅させる呪いを行使する。
碧炎は復元と狂乱の象徴。その炎の恵みにより生物の傷はたちまち治り、その炎に焼かれたものは理性を失い、獣へとなり果て狂いだす。この世界で獣の姿となる力を得た亜人、獣人やそれに精神が近い者がうまれつき緑の刻印を宿し、清廉なる祈りと怒りを現実のものとする。
集落へと戻ると、俺が最初にこの街に来た時以上の人間が姿をみせていた。
「いつもの夜はみんな思い思いに過ごすのだけれどね。今日はいよいよ明日が運命の日だからみんなで最後に顔を見せあうのよ。週に1回、ドウコクさんを中心にね」
「運命の日って?」
「昼間の大変な作業で記憶が飛んじゃったのかしら? それはもちろん聖獣討伐よ」
聖獣討伐。
つまり明日俺はいよいよチュートリアルのボスと出会うことになるということか。
「ゆーすけちゃんも驚くと思うわ。聖獣が現れる日は決まって日が昇らないの。そのくせ月が太陽に負けないくらいの光を放っているから、周りが見えなくなるってことはない」
「……想像できないな」
「アイツさえいなければ幻想的なその中でこの大地をいろいろ見回りたいのだけれどねー。余裕がないのよ」
余裕がない、という言葉を聞き、ふと思い浮かんだのは聖獣の強さだった。
このように集落ができて生活をしているということは、少なくとも1回で討伐できるような奴ではないことは考えなくてもわかる。
「明日はどうなるかしらねー。今週は特に多いわ。初めて聖獣と戦う子が5割以上かしら?」
「え、5割? 1週間に1回来るんだだろ?」
「あなたのように迷い子は日々神殿に送られてくるのよ。魔法使いは、たびたびその神殿にチェックしに行っては迷い子がうっかり死なないように導いているの。とりあえずここにね」
なるほど、昼間、魔法使いがここにいないのには訳があったのか。遊んでいるわけではないのだな。
ドウコクさんが俺を発見し、
「おーい、新入り! お前肉は焼けるか?」
と叫んできた。
ここでお世話になっている以上、俺も何かしなければならないだろう。
「顔合わせの晩さん会は、みんなで楽しくやるの。ゆーすけちゃんもみんなの手伝いしておいた方が、後が楽よ。晩さん会は貴重な他の人との交流の場。明日から生きやすくなるわよ」
新参者は先輩の言うことに素直に従っておくべきだろう。特にまつひろさんのようないい人の言うことであれば損はしないはすだ。
「はーい、俺料理経験はあるんで! 手伝わせてください!」
ドウコクさんの所へと走っていくが、ドウコクさんは俺が来るやいなや案内のつもりなのか走り出した。
人が多く行き交う中を潜り抜け調理場へ。そこにはすでに食用お肉になってしまった昼間のマンモス、ダックルの姿が。
「今日はでっかくステーキだ! ゆうすけ、1キロは行けるな?」
「焼くんですね」
「いや、食う量」
「ええ」
「俺だって3キロは食うぞ。お前さんは、1.5だな! 焼くぞー!」
めちゃくちゃハイテンションのドウコクさんの豪快な焼き作業を隣で手伝うことに。
そんなに食べれる自信はないんだが……。
そんなことを思いながら、俺はステーキを一口大にカットして食べやすくしていくことに。ドウコクさんが焼き、俺がカットという不思議な協力関係が出来上がった。
「ドウコクさん、これじゃ生焼け! レアどころじゃないって」
「大丈夫だ。後はお好みに焼けばいい。みんな手から炎出せるんだからさ。それに多少生焼けでも、腹を下したりしねえよ!」
「そうかもしれないけど、気分の問題では?」
「切るのおそいぜ」
そんな言い合いをしていると、ドウコクさんの弟子で、まつひろさんの弟弟子さん2人が手伝ってくれた。
「パンチー、シルグイ、新入りに俺の焼きについていく極意、教えてやれ!」
「オッす! カットは雑に、生焼けスルー」
「手を動かして大皿に盛り付け!」
いやだめだろ。
俺はこれでも料理はこだわっている。お肉を焼くときは1枚焦げただけで悔しいタイプだ。
「ゆうすけ! 聞いたか?」
「雑ですね!」
「ワイルドって言え!」
ノリノリのドウコクさん。
その後、いろいろな人が食事の準備にやってきては、ドウコクさんの他の料理までに及ぶ、ワイルドな調理を愉快に見守る人たち。
青空クッキングなので、観客はどんとこい。
「新入り、がんばれよー」
そんな風に観客に言われるほど、かなり破天荒な調理に俺は困惑し続け、困り果てた姿を皆に見てもらうことになった。
しかし、自然と俺はみんなに存在を知ってもらって集落の和に入れそうな雰囲気だ。
ドウコクさんの気遣いなのかもしれない。
いつか恩返ししないとなと思う。ここにきてからドウコクさんにはいろいろと助けられてばかりだ。
夜になり、6色の炎が集落のところどころに数々と灯り始める。その炎は自然と、とても俺を元気づけているように感じる。
その明かりで照らされた外で、顔合わせの晩餐会が行われた。
今日は新しく聖獣討伐に参加する5割の自己紹介もそこで行われる。俺もみんなの前で自己紹介をした。ここにいる皆はとてもいい人ばかりだ。
しかし、やはり集まった人々の平均年齢はかなり低い。本当にしっかりした大人はドウコクさんくらいで、まつひろさんも大人だとは思うが新社会人かその少し上ぐらい、年長者でも大学生くらいで、下は中学生に見えるヤツもいる。
先ほどドウコクさんに捕まり、本当に1.5キロ盛られてしまった肉をなんとか消費しながら、いろいろな人と少しづつ会話する。聖獣討伐が全員にとっての最初の成し遂げるべきことだ。
きっと簡単ではないだろう。しかしゲームであれば攻略手段は必ずあるということだ。
だからこそ、ここにいる人たちは諦めずにいるのだろうと思う。すぐにでは無理でも
、1か月以内にチュートリアルをクリアできるだけの力を手に入れる。今日はまだ1日目
、十分な時間があるはずだ。
「おお、ここにいたか」
「あ、どうも」
さっき料理をいっしょにやったパンチ―が、まつひろさんと一緒にここに来た。
「いよいよだな。新入りー!」
「あ、明日の」
「そうそう。まあ、新入りは初日は生き残ればそれでいい。もしかしたら明日、倒せて終わり、ハッピーエンドかもしれないからな」
笑顔でそう言いながら、俺を挟むように、パンチ―がまつひろさんと腰を下ろす。
「これで会うのが最期かもしれないし、せっかくだから、お互いになんでこの世界に来たのか語り合おうぜ」
「え、そんな深刻なこと聞いていいのか?」
「なあに、この世界に飛ばされた奴はみんなワケありなんだ。どんなワケが出てきても驚かないし、軽蔑しない。まあ、俺のこと、覚えててほしいのよ。こうして会えた友達候補だから」
「そ、そんなものなのか。そういうことなら、別にいいけど……」
「そうかー、なら俺から先に言うな。まつひろさん茶化さないでくれよ」
まつひろさんは、はーい、と返事をして、パンチ―が話を始めた。
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